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三十八話 【The Parting and the Journey〜別れと旅路】

ここまで読んで頂きありがとうございます。


第一章の最終話です。

【The Parting and the Journey〜別れと旅路】


 ユウマは目を覚ました。見慣れた天井。ここは、下宿先の跳馬亭だった。


 ……俺は……ああ、そうだ。チンピラみたいな正騎士に絡まれて、決闘したんだっけ。


 ぼんやりとした記憶の中に、「ぼよん」という妙な感触だけが鮮明に残っていた。

 

 身体が重い。どれくらい眠っていたのだろうか。


 ……重い?


 違和感を覚え、ユウマは自分の体にかけられたブランケットをめくる。そこには、彼の上にすっかり乗っかって眠るウルリカの姿があった。


 「ウルリカさん……重いんですけど」


 声をかけても、ウルリカはぴくりとも動かない。彼女の銀灰色の髪を撫でる。少しゴワついている。ブラッシングでもしてやるか――などと考えながら、ついでに耳にも触れてみる。ふと、祖父が飼っていた犬、ジョンの耳掃除を思い出した。


 思い出に任せて指を耳の中に差し込んでみると――


 「ヒャうんっ!」


 妙な声が漏れた。慌てて指を引っ込める。


 「うにゅ?……おにいちゃん、おはよう」


 ウルリカがむくりと起き上がった。


 そのまま二人で朝食をとる。ククルたちは今日から公務で遠征に出ており、ブートキャンプはお休み。ウルリカから、昨日の出来事の詳細(と言っても擬音語ばかりだったが)を聞きながら、ユウマはパンをかじっていた。


 ニャミーからは、――バッカスの方は、「庶民に負けた」という事実を隠したいらしく、昨日の決闘そのものを無かったことにするつもりらしい。という、ククルからの伝言を聞いた。


 まあ、もう関わりたくもないし……あいつのおかげで、俺は身体の使い方のコツをつかめた。良しとしよう。軽く痺れている右手を握ったり開いたりしてみる。


 朝食を済ませた後、その足で二人は馬商人のもとへ向かった。


蹄亭ていてい」と書かれた木の看板が揺れる店の扉をくぐる。


 「オウ、お客さん。馬車、できてるヨ」


 店の奥から現れたのは、首から上がまるでリアルな馬そのものの獣人だった。筋肉質な体躯にエプロンを巻いたその姿は、まさしく馬の顔をした人だ。


 「ありがとうございます」


 ユウマは反射的にそう返したものの、目線はなぜか斜め下――店主の顔をまともに見られずにいた。


 ――いや、やっぱり無理だ……


 彼の頭の中には、かつて動画投稿サイトで流行った「馬の被り物配信者」の姿がフラッシュバックしていた。あの異様なインパクトが、この店の店主と重なってしまったのだ。


 ――ズルいって……そんな顔、笑うなっていう方がムリだろ……


 思わず失礼なことを考えてしまう。ウルリカが肩を震わせているユウマを不思議そうに見ている。


 馬車は、手綱を握る者を含めて五人乗りの小型の幌馬車だった。

 ――まさか、自動車より先に馬車を運転することになるとはな。

 そんなことを思いながら、ユウマは栗毛の馬車馬の首筋を優しく撫でた。


 馬が小さくいなないた。『この人間が主様か? えらい若いのう。うまいもん、食わせてくれるんじゃろうな?』


 ユウマは馬の声を無視して、荷台の確認に集中する。

 木枠や幌に異常はない。職人に頼んで馬車に彫ってもらった「ロードス号」の文字が目を引いた。日本語のロゴと、フェアリーのシルエットがさりげなくあしらわれている。


「おー! かっけえ馬車じゃのう!」


 ウルリカが目を輝かせながら馬車に飛び乗った。

 最近、彼女が時折おかしな言葉遣いをするようになった。たぶんニャミーにもらった本の影響だろう。――一体どんな本だったんだ……?


 そんなことを考えていると、馬が興奮気味に足踏みを始めた。

 『うおっ! なにこの娘!? めっちゃタイプなんですけど! この娘と旅するんでっか。兄ぃさん、そういうことは早よう教えてくれんと! よっしゃ、俺、めっちゃ頑張っちゃいますよぉ!』


 完全に舞い上がっている馬のテンションには構わず、ユウマは店主に礼を言い、残金を支払って「蹄亭」を後にした。


 白銀の狼のメンバーは公務で街を離れていたが、ロンとラスクは留守番だった。そこでユウマたちは、風市の一角にあるカフェでラスクと落ち合った。



◇ ◇ ◇


「モース渓谷を根城にしてる野盗、ねぇ……」


 ラスクはカップを手にしながら考え込む。ユウマとウルリカも向かい合ってテーブルについている。


「昔、その辺に住み着いてた盗賊団はほとんど検挙したはずなんだが……最近は特に報告もないな。しかしまさか、あの時の馬車が賊の仕業だったとは。しかも、嬢ちゃんの家族が襲われてたなんてな……」


「調査とかしてもらえたり……しないんですか?」


 ユウマはダメ元で訊ねた。


「報告がなけりゃ、公務として動くのは難しいな。それに……言い方は悪いが、被害者がバルグってのもある。スマン」


 ラスクは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 ――魔族が関わっているって言えば、もしかしたら動いてくれるかもしれない。でも、ウルリカのことがあるから、それは言えないか……。


 ユウマが考え込んでいると、ふと思い出して口を開く。


「そういえば、カッシュの遺跡とモース渓谷にいた魔族のこと、何かわかりましたか?」


「今までの報告には載ってないネフィルってことになってる。ただ、ネフィルの調査は弧月の牙(ダイロク)が担当してる。……が、あそこは隊長以外問題児ばっかでな。今のところ、目立った動きはない」


「そうですか……ありがとうございます。とりあえず、自分たちでモース渓谷に行ってみます」


「気をつけろよ。……って、ダンナなら大丈夫か。ははっ」


 「旅の途中でフォウス王国の都市ケノンに立ち寄るなら」と、ラスクさんは言って地図をくれた。

 それは派手な柄のついた卒業証書のように薄い胴筒に収められたものだった。


 その後は、旅の注意点やモース渓谷までのルート、野営のコツなど、ラスクからさまざまな有益な情報を聞く時間となった。




◆ ◆ ◆


 カフェを出ると、辺りはすでに黄昏の色に包まれていた。ラスクと別れたユウマとウルリカは、人通りの多い表通りを宿へ向かって歩いていく。

 

 ――その一本裏の通り。一人の男が足を引きずるようにして歩いていた。三角巾で腕を吊ったその姿は見るからに痛々しく、男は苛立ちに満ちた声で呟いた。


「畜生……あのガキ、次に会ったらぶっ殺してやる……」


 肩を怒らせながら歩く彼の前に、建物の壁にもたれ腕を組んでいた白いローブの人物が現れる。


「ひどい格好だな、バッカス」


「……あ? 誰だてめえ」


 バッカスが顔をしかめながらフードの中を覗き込むと、その目が鈍く光っていた。


「ちっ、てめえか……今度は何の用だ? 五年前のような事は御免だぜ。あれ、結構ヤバかったんだからな」


「報酬は相応に渡したはずだが?」


 (おもむろ)にローブの人物は懐から赤黒い液体の入った細長いガラス瓶を三本、静かに取り出す。


「力が欲しくないか?」


「……なんだそりゃ。俺も操り人形する気か?」


「これは改良版だ。今度は自分の意思で力を引き出せる。副作用はほぼ無い」


 バッカスは瓶のひとつをつまみ上げ、じっと中の液体を見つめる。


「で? 今回は何をさせようってんだ。王女の誘拐なんてのはもう無理だぜ」


「王女の件は、後回しだ。安心しろ。今はただ、時折情報を寄こしてくれればそれでいい」


「……ああ、そうかよ」


 バッカスは瓶をひったくり、踵を返して歩き出した。


 白装束の人物は何も言わず静かに笑い、そのまま夜の闇へと溶けていった。



◆ ◆ ◇


「わっはっは、七日も口を聞いて貰えんとは」


 顎髭を撫でながら白銀の狼のロン・ハイドルッヒが白髪を揺らし、笑う。

 

 ここはニオの屋敷の一室。ロン、ニオ、キトとミルルの四人が円卓を囲んでいた。


「でも、ククルちゃんがあんなふうに我を張るのは初めてじゃないのかい?」と、キト。


「しかし騎士を辞めて冒険者とはな。ニオよ何故反対したんじゃ?」


「当然だ。ギルアンティアは代々続く騎士の家系。国に尽くすのが筋だろう」


「古いねえ……あの子ももういい年齢だし、ユウマ君ともいい雰囲気だったじゃないか」


 キトが目を細める。


 窓の外に目をやりながら、ニオがぽつりと呟いた。


「ユウマ・キリハラ……彼のこと、どう思う?」


「不思議な男じゃったな。どこか現実味がないというか……騎士団の命を救っておきながら、王宮に取り入ろうともせず、対価を求めるわけでもない。純粋というか、お人よしというか……」


「ファトスの辺境から来たって話だけど、あの地には未開の村や伝承が多い。ドラゴンと話すヒューマンがいてもおかしくはないわよ。あの魔術には驚いたけど」


「だが、得体の知れぬ者と娘を旅させるのは……」


「――あらあら、片田舎から出てきた若造が、あろうことかギルアンティア家のご令嬢に熱烈アタックしてたのは誰だったかしら?」


 にこにこして話を聞いていたミルルが、唐突に口を挟む。


「そ、それとこれとは……」

 

 ニオがだじろぐ。ミルルが続ける。


「ククルは、カンゼズに収まるような子じゃないわ。あの子には、自由に、自分の生きたい道を歩いてほしいの」


「……しかしそれは今でなくとも良いだろ」


 ニオは頬をふくらませて言い返す。


「でも、最近ネフィルの動きが活発になってきてるんだろ? 戦争になる可能性だってある」


 キトが天井を見ながらぼそっとつぶやく。


「やれやれ、ククルの嬢ちゃんが騎士を辞めたら、ワシもようやく引退できたというのに」


「すまん、ロン。……もう少しだけ、娘を頼む」

 

 ニオが頭を下げる。



♢ ♢ ♢


「よし、これで積み荷は終わりだな」


 ユウマは馬車の荷台に積んだ荷物のガタつきを確認しながらそう呟いた。

 たった二人の旅路だというのに、荷物は意外と多い。胸の奥に、これから始まる旅への期待と、拭えぬ不安が入り混じる。

 

「キトさん、お世話になりました。皆さんによろしくお伝え下さい」


「気を付けてな。また寄っておくれよ」


 跳馬亭の前で見送ってくれるキトさんにお礼を述べる。


 その時、ウルリカがニャミーから箱を受け取り、走ってくる。


「おにいちゃん、これもー!」


「ん、なんだ?」


 箱の中には沢山の本が収められていた。

 一冊を手に取り、表紙を見る。


『BL漫画で学ぶヒューマン語』


「……」


「ってい!」


 本を放り投げる。


「あーん!」と叫びながら、ウルリカが本を追っていった。


 ユウマはふっと笑い、空を見上げた。


 高い空。

 

 

 夏の終わりの雲。

 

 

 異世界――エリジオス。


 

 ここで、自分の足で選び、歩む。


 

 冒険者としての旅が始まる――




 添削に時間がかかってしまい、今後は投稿が少し滞るかもしれません。それでもエタらないよう頑張って続けていきますので、ブックマークなどしていただき、どうか生温かく見守っていただければ幸いです。



天空の戯言


GM「おや? ルルルさん、そんな恰好でどちらへ?」


ルルル「優馬様が旅立たれるのでしょう? 転生モノの女神と言えば、下界に降りて影から女神チートでサポートしたり、主人公のハーレム要員になったりするのが定番ですわ!」


GM「……ないですよ、そんな展開。」


ルルル「えっ?」


GM「えっ?」

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