表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/59

三十七話 【覚醒】

【覚醒】


「逃げて、ユウマ!」


 ククルが叫ぶ


 ドゴォッ!!


「がっ……ゲホッ……!」


 ――何が起こった!? 


 ユウマは腹部を押さえ、激痛に顔を歪ませながら片膝をついた。攻撃を受ける直前、バッカスの木刀は確かに上段から振り下ろされた。完璧に受け止めたはずなのに、手応えはなく、次の瞬間には腹を鋭い衝撃が貫いていた。


 ……攻撃が……見えない!?


「ほぉ、立ち上がるのか? レザーなんかでで凌げるような威力ではないんだがなあ。まあ、いつまで耐えられるかな?」


 バッカスの体が奇妙に揺れる。


 ――左っ!


 咄嗟に反応したが。


 ――ドゴォッ!!


「ガッ!」


 下からの振り上げ!?


 ――ドゴォッ!!


「グハァッ!」


 一方的な攻撃が続いた。何度ガードしようとしても、避けても、ユウマの死角から次々に剣撃が襲いかかる。


「ハァ……ハァ……」


 脇腹を押さえ、ユウマは肩で荒く息をする。全身がズキズキと脈打つように痛んだ。


「クククッ、俺様のスキル〈幻影蛇咬〉の味はどうだ? 幻影(フェイク)を交ぜて攻撃を仕掛ける単純な技だぜ。一本気な俺様にお似合いだろ?」


 バッカスは楽しげに舌なめずりをする。


「さぁて、教育の続きを始めようか!」


 今度は揺れもなく、一直線にバッカスが襲いかかる。横薙ぎの攻撃をかろうじて避け、間髪入れず放たれた上段の攻撃を受け止めるが――。


「甘ぇよ!」


 防御に気を取られ、無防備になったユウマの腹部にバッカスの蹴りが叩き込まれる。


「ぐっ――!」


 ユウマの体は後方へと吹き飛び、壁を破って木の破片とともに埋まった。木刀がカランカランと床に転がる。


「ユウマ!」 「おにいちゃんっ!」


 ククルとウルリカの悲鳴が聞こえる。


 ――クソッ……これほど差があるのかよ……魔法を使うか……? いや、それじゃ駄目だ……


 ――腕とか(あばら)の骨は折れてるんだろうな……


「…………」


「…………」


 ――あれ? 折れてはない……動く? 


 壁に埋まるほどの衝撃、下手すれば意識も飛んでもおかしくはない――

 

 ふと脳裏に浮かぶ。


『――ユウマはどこかチグハグなんです――本気でかかってきなさい』


 いつかのククルの言葉が頭の中で再生される。


 ククルに稽古つけて貰っていた時に度々聞いた言葉――

 

 俺は本気でやっていたはずだ――本気で。

 

 本気?


 ……誰の?


 ――俺は二十六年間、霧原優馬だった。自分の限界は知ってる……どれだけの力で叩けば自分の拳を傷めるとか……プロのアスリート達を観て人間の限界を…… 

 

 だけど、ここはエリジオス。剣と技だけで、人が獣や魔族と渡り合う世界だ。地球の獣より何倍も強い獣と。

 

 俺は霧原優馬としての本気しか出してなかったのか……?

 

 「――だよな、ここは、エリジオス……」


 今の俺は「ユウマ・キリハラ」だ。エリジオスの「ユウマ」としての力を! 限界なんて、決めつけるな――


「ハッ……そうだよな……やってやるよ、本気のロールプレイを……!」


 ユウマは立ち上がる。


 呼吸を整える。体中の細胞が、震えるような興奮に包まれる。


 拳を握るユウマの口角が上がる。


「何ゴチャゴチャ言ってやがる! 次は死んでもしらねえからな!」


 バッカスが唾を吐き、視線をユウマに戻したその瞬間――目の前には、その影はあった。


 剣を構えるよりも先に、ユウマの拳がバッカスの左顔面を打ち抜く。


「ブバッ!」


 顔が歪み、バッカスはよろめく。間髪入れず、ユウマの左拳が脇腹へ食い込む。


「ゲフッ!」


 さらにユウマは軽やかに後方へ跳び、距離を取った。


「な、何なんだてめぇ!?」


 バッカスは焦燥の色を滲ませながら、剣を構え直す。


「ククルの教えを思い出せ。まだだ……もっと速く、もっと柔らかく――イメージしろ!」


 ユウマが息を整え、集中する。


「今までは手加減してたってか? 上等だよ……なら見せてやる。俺様の本気のスキルをな!」


 バッカスの身体が揺れる。左右に分かれる幻影。二つの影が、同時にユウマへと襲いかかる――!


 だが、ユウマは動かない。


――相手の武器を見るな、目や筋肉の動き、気配を感じろ!

 全神経を集中――


 気づく――揺れているのは上半身だけだ。足の動きで予測しろ!


 上段の左右から襲ってきた刃がユウマに触れた瞬間、それらはふわりと霧のように掻き消えた。

 

 バッカスが驚愕する。本命の一撃がユウマの喉元を狙っていたはずだった。しかし剣は止まっていた。


 ユウマの右手が、木刀の刃を素手で掴んでいた。


「なっ……」


 瞬間、ユウマはその木刀を一気に引き寄せる。勢いに引かれ、バッカスが半歩前によろけた。


 次の瞬間――


 ユウマの体が流れるように回転し、鋭い回し蹴りを放つ。踵がバッカスの顔面に直撃。


「ぐぉっ!」


 木刀が手からこぼれ、バッカスの体が左に吹っ飛ぶ。


 すかさずユウマは木刀を素早く投げる。木刀はバッカスの顔をかすめ、床を跳ねる。


「ひっ……!」


 短い悲鳴を上げながら、バッカスはよろよろと立ち上がる。


「なぜ……俺のスキルを見切れる!?」


 怒りと恐怖を滲ませた顔で、バッカスは腰に手をやる。


「マジで殺してやる……!」


 腰のショートソードに手をかけた、その瞬間。


 ユウマが目の前に現れ、バッカスの剣に伸ばした手首をがっちりと掴む。


「覚悟しろよ……」


 静かに囁く声に、バッカスの顔が青ざめた。


 そこから先は――まるで試合ではなかった。


 一方的な、制圧。


 気づけばユウマはバッカスに馬乗りになり、拳を振り続けていた。


 大きく右腕を掲げ――更に硬く拳を握る。


「やっちゃえー!」ウルリカの声が響く。


「ま、まいった……」バッカスがかすれた声で呟いた、しかし――


 ユウマの拳は止まらなかった。


 バギィッ!!


 拳はバッカスの耳をかすめ、床にめり込む。


 ――バッカスの瞳孔が上を向き、そのまま動かなくなる。


 ユウマは、ゆっくりと立ち上がった。


 右手を、天へと高く掲げる――


 「ワァァァァーーーッ!」


 訓練生たちの歓声が訓練場にこだました。


 だがその歓声を背に、ユウマの身体がふらりと傾く。


 ――倒れる。


 「ぼよんっ」


 後頭部に、柔らかい感触。


 ククルが、後ろからユウマを全身で受け止めていた。


 そのまま、ゆっくりと地面に倒れ込む。見上げた視界に、ククルの顔があった。


「強くなりましたね、ユウマ」


 その言葉を聞いた瞬間――


 ユウマの意識は、静かに、白く染まっていった――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ