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三話 【森を抜ければ】【カッシュの街】

【森を抜ければ】


「……しかし、この森広すぎないか? かなり歩いたぞ」

 優馬はふと立ち止まり、ため息をついた。


「普通、異世界物語ってすぐにモンスターと戦ったり、猫耳少女に出会ったりするもんじゃないのか?」


 モンスターの気配はなく、時々、小動物が道を横切っていくだけだった。そのたびに、カサカサと落ち葉が擦れる音が響き、ゲームではないリアルな感覚があった。

 森は段々と深くなっているのか、木々の間から差し込む光は細く、昼であるにもかかわらず、薄暗くなってきた。風の通りも悪い。湿気を含んだ土の匂いと、木の幹に生える苔の感触が生々しい。


「モンスターの気配もないぞ。もしかしてこの世界、めちゃくちゃ健全仕様?」

 

  ぼやきながら歩き続ける。


「転移場所を指定しなかったからか? そういえば、武器的なものは?」


 優馬は自分の格好を見下ろす。どう見ても、ただの冒険者っぽい軽装な服しか身につけていない。粗く織られたリネン(麻)のシャツに、レザーベスト。 腰には布製のベルトと小さな革製のポーチ、中には金色の硬貨らしき物が三枚。だが剣もナイフも見当たらない。靴は丈夫そうだが、履き慣れないせいか、すでに足が痛い。


「……まさか、丸腰!? あの補助神って大丈夫なのか?」

 

 一抹の不安が頭をよぎる。


「はっ!……もしかして、補助神ってものすごいブラックな職業なのか!?  ルルルももう限界なのか!?」


 そんなことをぶつぶつ言っていると、森の終わりが見えてきた。


「やっと森から出られる!」


 自然と足が速くなる。 足元のぬかるんだ土を踏みしめる音が軽くなり、木々の隙間から覗く光が、徐々に広がってゆく。木立の切れ間から吹く風が、森の中よりもずっと爽やかで、土と葉の匂いに代わって、乾いた草の香りが混ざる。


 小高い丘に出ると、目の前に広がる光景が飛び込んできた。


 広い平原の先に、堂々とそびえ立つ高い壁。太陽に照らされ、石造りの建物が鈍く輝いている。壁の縁には旗がいくつも翻り、赤と金の紋章が風にはためいている。

  小説の挿絵だったかマンガだったか、どこかで見たような景色だった――すでに空には茜色が溶け始めていた。

 道はまっすぐに街の大きな入り口へと続き、まるで異世界の冒険の始まりを告げるかのような光景だった。


「街だ!」


 思わず見たままのことを口にする。


 ――しかし、近づくにつれて何か違和感を覚えた。



【カッシュの街】


 街の周りには高い壁がぐるりと囲み、道はまっすぐに街の大きな入り口へと続いている。

 段々と違和感の正体がわかってきた。活気がない?  というか、人の気配がまったくしない。静かすぎる。

 優馬は嫌な予感を抱きながら走り出した。そして、街の中に踏み込む。


 そこは――ゴーストタウンだった。


 街の雑踏も、商人の呼び声も、子どもの笑い声も……何も聞こえてこない。ただ、風が門の隙間を通り抜ける音だけが物寂しく鳴っていた。


 建物は無傷に見える。だが、何年も放置されていたかのように、埃っぽく、荒れ果てている。

 道の石畳には草が生え、塀には藻がこびりついていた。看板が風に揺れ、ギィ、と鈍く軋む音がする。扉の多くは開け放たれたままで、まるで住人たちが突然、どこかへ消えてしまったかのようだ。


 優馬は街の中心に向かって走った。


 中央らしき場所には噴水と、この街のシンボルであろうモニュメントがあり、 『カッシュへようこそ』と書かれていた。


 字は……読めるようだ、など思いつつ。


「これが……最初の街? ケモ耳は? やけに友好的な商人は? 可愛い酒場のウェイトレスは? 頼れるギルドマスターは!?」


 俺の異世界ライフはまだ始まらないようだ。


 周りの民家や店をのぞいてみたが、大きな家具は残っていたものの、中身はほとんど空っぽだった。食器棚には皿がひとつもなく、タンスには衣類の影すらない。


「うーん 、日も暮れてきたし、ここで寝るしかないのか? そういえば腹も減ってきたような、食べものは探せばあるんだろうか?」


 やる気もなくなり、噴水のふちに腰かけてしばらくボーっとしていた。 風に乗って、どこかから鉄の匂いが運ばれてきた気がする。


「…… 何か食べ物を探そう」


 重い腰を上げた時、遠くから大地が鳴る音が聞こえた。 音は段々と大きくなる。


「馬の足音!?」


 しばらく待っていると、街の門の方から土煙を上げながら、何頭もの馬がこちらへ向かってくるのがわかる。馬には人が乗っているようだ。 突っ立って見ている優馬の前を、きちんと隊列を組んだ騎馬が駆け抜ける。


 砂煙が優馬を包んだ。


「ゲホッゲホッ……」 むせながら、騎馬隊の後ろ姿を見送る。 七頭の馬、騎手ともに鎧を装着しており、「近衛騎士団」そんな単語が脳裏に浮かんだ。


 馬蹄の音が石畳に響き、力強く遠ざかっていく。

 十メートルほど離れた頃、一番後ろを走っていた一頭の騎馬が急停止し向きを反転させ、こちらへ引き返してきた。


天空の戯言


ルルル「オルディス様、やれと言われましたからミニブタちゃんを優馬様の元へ転移させましたけどちゃんと久遠根様(地球の創造神)に許可は取られましたか?……ほへとちゃん(地球の補助神)、あわわ〜って言ってましたよ」


オルディス「いや、何も言ってないが。たかが豚の一匹や二匹、どうということもあるまい」


ルルル「はあ……オルディス様!地球は、エリジオスよりもずっと繊細な環境なのです。後からコンコンとお説教されても、私は知りませんからね?」


オルディス「ふんっ。あのメガネのナルシスト創造神め、来るなら来い! 返り討ちにしてやるわ、ガハハハ!」


久遠根「――ヘックション!」


ほへと「あら、久遠根様お風邪ですか?」


久遠根「さあな。どうせ露出狂のゴリラがなにか言ってるんだろう」



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