二十五話 【リード・ギルアンティア】
【リード・ギルアンティア】
ありがとうククル。でもそれは証明にはならないんだ……
ユウマが心の中でそう思っていると、それを代弁するようにリードが口を開いた。
「ククル、残念だけどそれは証明にはならないんだ……使役魔術の仕組みは正直わからないが、キリハラ君が使役を上書きしてドラゴンいや、大翼竜を手なずけていた可能性もあるんだ」
「そんな……可能性,可能性って言っていたら証明なんて無理じゃないの!」
ククルが声を荒げる。
「ククル」妹をなだめるように、優しく語りかける。
「証明しろ、と言ったのは彼が話すことに集中してほしかったからなんだ。言っておいてこういうことを言うのは矛盾しているんだが、魔術を含む我々が持っているスキル、当たり前に使っているがこれだって何故使えるか証明はできないだろう?」
「そんなの……」ククルは悔しそうにうつむく。だが、表情にはさっきまでの怒りではなく、戸惑いが浮かんでいた。
「前置きが長くなったね。ククル、私と父さんは納得したんだ」
「納得?」
「そう、ククルは私のスキル<看波>を知っているね……最近これが使えるまでのレベルになったんだ<看波>は対話をしている相手のウソや動揺、焦りが『ゆらぎ』となって観ることができるんだ。今はまだ少し『ゆらぎ』が薄いけどね」
リードはユウマの方を向く
「さて、キリハラ君の話を<看波>を使って聞かせてもらったのだが……所々『ゆらぎ』は観えたが核心の部分では『ゆらぎ』はでなかった」
一呼吸置いて――
「よって……我々は君を信じる」
ユウマの全身から、力が抜けていくのがわかった。そのまま、がくりとテーブルに顔を伏せる。
乾いた笑いがでた。
♦ ♦ ♦
「それと、もう一つだ」
重い声で、ニオ将軍が口を開いた。その視線は鋭く、まっすぐにユウマを見据えている。
「カイルたちの報告にあった。――ロックスパイクドッグの雌を倒した、と。あれも……お前の“魔術”によるものか?」
ユウマはわずかに姿勢を正し、真摯な表情で答えた。
「はい。みなさんの協力なしでは無理でしたが……最後は俺の魔術で、とどめを刺しました」
「……あの雌獣を……!?」
リードが驚いたように目を見開き、顔をわずかに引きつらせた。
「空を駆け、仲間を治癒し、圧倒的な火力で敵を倒す……」
「――まったく、でたらめな強さですね。一人で小隊どころか、やりようによっては大隊にも匹敵する戦力かもしれないな」
ニオは静かに、しかし威厳をもって問いかける。
「ユウマ・キリハラに問う。その『力』――お前は、何のために使うつもりなのか?」
ユウマは一拍、言葉を探すように考え、そして真剣な眼差しで答えた。
「……はい。これから旅を続ける中で、きっとこの『力』を使う場面はあると思います。ただ――俺の魔術は、強力なほど代償も大きいんです。無闇に振るえば、その分……」
声は穏やかだったが、覚悟がにじんでいた。
「ただ、俺にとって――」
ユウマは言葉を選びながら、まっすぐに将軍を見据えた。
「自分自身を含め、大切なものを守るときは……たとえ相手に正義があったとしても、俺は迷わず力を使います」
その言葉に、ニオ将軍の眉がピクリと動く。
しばしの沈黙ののち、低く、重みのある声が返ってきた。
「……君の言い分は、よくわかった」
静かな語調だったが、その奥にある決断の重さは確かだった。
「ユウマ・キリハラを、我が国の配下に置き、戦力としてその『力』を管理、運用する」
ユウマは、次の言葉をじっと待つ。
「――それが将軍としての正しい判断なのだろう。手元で監視し、飼いならし、扱う……だが、私も人の親だ。娘の命を救った者に、恩を無下に報いることはできん」
ニオは、言葉を一つひとつ噛みしめるように続け、以下の提案を切り出した。
・ユウマ・キリハラは、今後最低でも一か月間、王都を離れてはならない。これは国王陛下の面子の為でもある。
・その間、監視という名目でこちらが用意した宿舎に滞在し、王都内で定められた仕事に従事してもらう。
・そして、本日ここで交わされた話の一切を、外部へ漏らすことを禁ずる。この場にいる全員が、それを守るよう誓うこと。
「……これで、異論はあるか?」ニオ将軍が問うた。
ユウマは一呼吸おいて、しっかりとうなずいた。
「――わかりました。その条件、受け入れます」
監視という言葉には少し引っかかる。だが、宿舎と仕事を用意してくれるという厚意には感謝しかない。旅の準備にも時間がかかると思っていた――これは、ニオ将軍が忖度してくれたのだろうか?
そう感じていたところに、突然、緊張した面持ちのエリッタ王女が声をかけてきた。
「キリハラ……キリハラは、あたくしがピンチのときに助けてくれるのか?」
突然の問いに、ユウマは少し面食らった。
……え? 助ける? 王女を? 今日、出会ったばかりの俺なんかが?
「王女様、よくわかりませんが状況にもよります……」
とりあえず答えてみる。
「じゃ、じゃあ……もし今この部屋に賊が攻め込んできたら、魔術でやっつけてくれるのか!?」
王女は泣きそうな顔になっている。正直、意図は読めないが――ここは、優しく、安心させるべきだろう。
「はい。王女様。そんな時は迷わず、魔術で賊を撃退しますよ」
にこやかにそう言うと、エリッタの表情がぱっと明るくなった。
「そ、そうか! 助けてくれるのか! キリハラはいいやつじゃ」
嬉しそうに一人でウンウンと何度もうなずいている。
……いや、でもニオ将軍の屋敷に、賊なんて入れるはずないだろ――ユウマが心の中でそう思っていると、それを代弁するようにリードが口を開いた。
「エリッタ、大丈夫だよ。この屋敷に賊が現れたとしても――この部屋にたどり着く前に、メイドたちが瞬殺してくれるからね」
「えっ!?」
ユウマの脳裏に完全武装したメイドたちの姿が現れる。




