表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/43

二話 【異世界での目覚め】【天空の対話】

【異世界での目覚め】


 ――森の中。


 風が木々の葉を優しく揺らし、枝のあいだから陽光が差し込む。小鳥のさえずり、遠くの水流の音、木の葉の擦れる音が、静寂の中にある生命の存在を感じさせていた。

 一羽のリスのような小動物が枝から枝へと跳ね、赤いきのこがいくつか、苔むした倒木の脇でひっそりと顔を出している。

 そんな幻想的ともいえる風景の中、優馬は枯れ草の上でゆっくりと身を起こした。頭が少し重く、目の奥に霞のような違和感が残っている。


「ここは……」


 寝起きの声は自分でも違和感を覚えるほど高く、青年のような声に感じた。

 体を起こし、周囲を見渡す。広がるのは見たこともない森――美しく、どこか現実味のない景色。木々は高く、葉は淡く光を反射しており、まるで物語の中の一場面のようだ。

 まずは自分の状態を確認しなければ。近くに反射する何かを見つけ、足元に歩み寄る。そこには透明な水たまりがあった。覗き込んだ瞬間、優馬は目を見開いた。


「おお……これは……」


 映ったのは、見覚えのない、整った顔立ちの青年。長いまつげ、通った鼻筋、うっすらと微笑んでいるような唇――まるでアニメやゲームに出てくる主人公のようだった。黒髪は少しだけ青みがかっていて、目は透き通った黒色、見慣れない衣装も、異世界感を際立たせている。


「お、イケメン! 十六歳! ……ルルル、言った通りにしてくれたんだな……」


 水面に映る自分にさまざまな表情を試してみる。


 ひとしきり堪能したところで。


「じゃあせっかくだし、少し魔法を試してみるか」


 目を輝かせながら、手を前にかざし、イメージする。サッカーボールほどの火の玉。赤く、激しく、制御された熱量。


「ファイヤーボール!……?」


 言葉と同時に、手のひらから真紅の炎が渦を巻きながら現れた。宙に浮かび、静かに揺らめくそれは、意思を持っているかのように、わずかに彼の手の周囲を回り、火の粉を散らした。


「おお……すげぇ……」


 その神秘的な現象に見とれていたそのとき―― 頭の奥に、冷たく機械的な声が響く。


『小魔法を使用しました。寿命が一日減少しました』


「……マジか」


 その一言に、少し血の気が引いた。

火はすでに消え、森は再び静けさに包まれていた。


「ま、まあかなりの威力ありそうだし……連発しなければ大丈夫だな……」

 優馬は根拠のない言葉をつぶやいた。


 さてこれからどうしようか? 勇者でもなければ悪役令嬢でもない、冒険者だ。やはりギルドに登録したりするんだろうか? まずは拠点作りだろうか?


「よし!」


 空はどこまでも青く、白い雲が静かに流れていた。


「さて、街か村を見つけに歩きますか」


 独り言も、すっかり板についた。




【天空の対話】


 その頃、天空では――


 雲すら届かぬ高みにある神域にて、ピンク色の髪をたなびかせながら、一人の少女が立っていた。未来的な光沢を持つスーツのような衣装。アンテナのように立った髪が、風に合わせて揺れている。


「……本当にこれで良かったのでしょうか」


 ルルルの不安げな声が、透き通るような空気に溶ける。先程とは比べ物にならないほど静寂で、神聖な気配が満ちていた。

 その前にいたのは、巨大な椅子に腰掛けた半裸の巨人――創造神〈オルディス〉である。日焼けした肌、雷のように逆立つ白髪、筋骨隆々の肉体。その存在感は、まさに「神」と呼ぶにふさわしい。


「気にするな、ルルル。些細なことを考えすぎると、しわが増えるぞ」


 オルディスは笑い、声が空間を震わせる。雷鳴のように響く声に、ルルルはほんの少しだけ眉をひそめた。


「彼なら大丈夫だろう。根拠はないがな、ガハハハ」


「ないんですね根拠」


 皮肉交じりの言葉にも、神は気に留めず笑う。


「ですが……過去に〈ソウルサクリファイス〉を持った者たちは、ことごとく破滅しました。力に飲み込まれ、闇に落ちた者。感情に任せて暴走した者……どれも悲惨な結末でした」


 ルルルの声には切実さがにじんでいた。だが、オルディスは腕を組み、静かに頷く。


「それは事実だ。しかし、今この世界──〈エリジオス〉にとって、もはや躊躇している時ではない」


 彼の言葉に、ルルルの視線が上がる。


「エリジオス……」


「種の減少が加速しつつある。すでにエルフ、ノームは絶滅し、ドワーフも今や一種しか残っていない。現存するのは、ヒューマン(人間)、バルグ(獣人)、ネフィル(魔族)のみ。しかもその数も年々減っている」


 空に浮かぶ光球が、消えかけの星のように瞬いた。


「今が分岐点なのだ。あの男が、己の命をどう使うか。それが、この世界の未来を決定づけるだろう」


 ルルルは少し唇を噛んだ。


「優馬様が……未来を……」


「そういうことだ」


 オルディスは目を細め、穏やかに言った。


「──運命とは、流れのようなものよ。時に荒波となり、時に穏やかな潮となる。優馬がどのように波を立てるか、それを見守るのが我らの役目よ」


 声は空にこだまし、光の粒が空間を舞う。


「さあ、見届けるとしようではないか。運命が、どのように流れていくのかを!」


 その壮大な言葉の後、ルルルはほんの少し間を置いて、右後ろ斜め下を向いてつぶやく。


「……自分が創ったくせに」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ