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十八話 【四つの王国】

【四つの王国】


「気になりますね」


 ロックが言う。


「スパイクドックのメスが狩場に出てきたことか?」


 カイルがその言葉の意図をくみ取る。


「それもですが、この時期に谷に降りてくること自体がおかしいデス」


 二人が真剣な面持ちで話し込む中、ユウマはひとり、別の感覚に集中していた。


 ――まただ。


 戦闘中は気にならなかったが、今ははっきりわかる。何かが、ずっと引っかかっている。


「匂い……?」


 ふと、視界がモノトーンに染まった。その異変に驚く間もなく、視界の上――岩壁の上に、赤い光が揺らめいて見えた。


 赤いそれを見つめた瞬間、視界に色が戻る。


 岩壁の上に、人影。


 こちらをじっと見つめていたが、ユウマと目が合うと、空間に蜃気楼のような穴を開け、その中へと姿を消していった。


「あいつは――」


 見覚えがあった。遺跡で翼竜を操ろうとしていた、あの魔族。

 ハッシュパピーの言葉が脳裏によみがえる『魂の匂いを覚えた――』翼竜の血を飲んだことで、自分にもその「匂い」が感じ取れるようになったのか?

 なぜ、あいつがここに? メスのスパイクドックも関係あるのか? まさか……。真意はわからない。だが、このままにしておくのも危険だ。ユウマはククルのもとへ向かい、伝えた。


 話を聞き終えると、ククルは真剣な顔でうなずいた。


「ネフィルが……わかったわ」


 そう答えると、カイルとロックのもとへ行き、三人で話し合いを始める。


 優馬はもう一度、岩壁の上を見上げた。切り立つ断崖の上には何もなく、鉛のようなどんよりとした空が広がっている。雲は重く風も息を潜めていた。


「タイチョー、さっさとこんなとこ抜けようぜ」


 ラスクが愛馬のたてがみを撫でながら、いつもの軽い口調で言った。その声にも、どこか落ち着かない気配が混じっている。


「ああ、そうだな……」


 皆がそれぞれの馬に跨る。蹄が小石を踏み鳴らす音が渓谷に響く――



♢ ♦ ♢


 それから一行は無事にモース渓谷をぬけて3日目の昼過ぎに王都カンセズに着いたのだった。



 ――この大陸には、ヒューマンによる四つの大国が存在している。

それらは、ネフィルという共通の敵に対抗するために、創られた大国である。


 カンセズ王国のある大陸を中心として見ると――


 西の瓢箪(ひょうたん)型の大島に広がるのが、ファトス王国。

 ヒューマンの歴史でも最も古いこの国は、魔術の中心地として知られている。

 国内には〈アルマ=ゼレ〉と呼ばれる古都があり、そこにはノーム族に作らせた古代のアーティファクトが数多く残されている。

 この国では「魔術騎士」の育成に力を入れており、ノームとの混血、特に魔術適性の高い子孫たちも暮らしている。

 ロックもこの国の出身。


 南東の広大な平野と海沿いにあるのが、フォウス王国。

 経済力を誇るこの国は、多くの都市国家、中でも〈ケノン〉という中心都市を束ねる商業国家である。

 議会制を採用しており、軍事力よりも富と情報網で周囲の国々に影響を与えている。

 現実主義的な国風で、効率と実利を何よりも重んじる国だ。

 ラスクはこの国の出身。


 大陸中央に位置するカンセズ王国と、東部にあるサウド王国は、両国ともネフィルとの前線に近いため。戦闘を重視する軍事国家である。

 カンセズは、かつての騎馬民族の文化を今に残す国で、素早い機動戦術を得意とする。

 この国にはカイル、ディム、ロン、ククルたちが生まれ育った。


 一方、サウド王国は険しい山と深い森に囲まれた地形を活かし、ゲリラ戦術や白兵戦に長けている。

 こちらの出身はカラン。


 また、両国には、ヒューマン最強と謳われる二人がいる――

 カンセズには一騎当千の、鬼神〈ニオ・ギルアンティア〉

 サウドには、圧倒的な武力を誇る拳王〈ドラフ・ドラン〉


 四つの大国。表向きは「同盟国」だが、その裏では――


 魔族ネフィルという共通の敵に立ち向かいながらも、ヒューマンたちは、自らの力と立場を巡って、密かに火花を散らしているのだった。


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