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十六話 【対ロックスパイクドッグ(雌)戦 其の一】

【対ロックスパイクドッグ(雌)戦 其の一】


「……ったく、何匹出てきやがる」


 カイルが毒づきながら、大剣をロックスパイクドッグごと地面に突き刺した。

 ユウマや騎士たちに疲労の色が見え始めた。


 

――混戦状態じゃ、放出系の魔法は使えない……味方を巻き込む危険がある。なら――


 イメージする。


「ロックスパイクドッグの形状を想像……弦が絡みつき、動きを封じる……」


 ユウマは静かに地面へ手を添えた。


「いけるか――土魔法〈バインドスネアー〉!!」


 瞬間、ロックスパイクドッグたちの足元から植物の弦が勢いよく生え、まるで生き物のように蠢きながら獣の四肢に絡みついた。

 苦しげな唸りとともに、六体のロックスパイクドッグがその場で足掻く。


『小魔法を使用しました。寿命が二日減少しました』


「おお……コイツはすげぇな」


 カイルが呟きながら、ゆっくりと歩み寄る。そして、動きを封じられたロックスパイクドッグにトドメを刺す。


「キリハラ殿は治癒以外の魔術も使えるんデスね」


 ロックが植物の弦をちょんちょんと触っている。


「これで最後ですわ」カランがアックスで獣の首を跳ね飛ばし戦闘は終了した。


「よし、先を急ごう」


 皆が馬にまたがりかけたその時――


 ドスン……ドスン……


 重く響く足音。続いて、林の奥から木々がミシミシと不穏な音を立てて揺れはじめる。


 ――何かが、来る。


「おいおい、なんか……でかいのが来てないか?」


 ラスクが引きつった顔でつぶやいた。


 気配は濃くなり、皆が武器を構える。


 やがて、木々の隙間から真紅に光る目が姿を見せた。その目の位置が、あまりにも高い。

 

 ユウマがゴクリと喉を鳴らす。ゆっくりと、そいつの全貌が明らかになる。


「ロックスパイクドッグのメス……デス。実物を見るのは初めてデスが……」


 ロックが緊張の混じった声で言った。


 その巨体は、アフリカ象よりもさらに大きいだろうか。

 顔はオスほど長くはないが、マンモスのような湾曲した牙が二本。

 そして背中には、シンボルのスパイクがびっしりと生えていた。


「メスが狩り場に現れることはないと聞いておったが……」


 ロンが顎髭を撫でながら呟く。


「よかったじゃないか、ラスク。お前の好きな女の子だぞ」


 ディムが皮肉たっぷりに言う。


「ちょっとタイプじゃねーな……」


 ラスクは引きつった笑みを浮かべて答えた。


「来るわ!」ククルの叫びと同時に、巨大な獣が地面を蹴った。


 その巨体が、木々の上を軽々と超えて宙へ舞い上がる。

最高地点で一瞬、空中に静止したかと思うと身体を丸め筋肉が収縮される

そして、背中のスパイクが一斉に発射された。


 無数の棘が、雨のように降り注ぐ――


 その刹那。


 イメージしろ!


「頭上に半円のバリアを展開! 光魔法〈シャイニングシールド〉!!」


 半透明の金色のバリアがユウマたちの頭上に出現した。

 降りそそぐ棘が次々とバリアに衝突し、鋭い音を立てて弾かれていく。衝撃を吸収された棘は勢いを失い、周囲にパラパラと落ちていった。


『小魔法を使用しました。寿命が一日減少しました』


「……間に合った」


 自然に身体が動き、思考が走った。


「良い反応でした、ユウマ」


 すでに走り出していたククルに褒められた。


 ロックスパイクドッグが地面に着地する、その瞬間。ククルがランスを構え、風のように加速する。

 丸太のような前足が振り下ろされる。地面が砕け、土砂が舞い上がる中――

ククルは最小限の動きでその一撃をすり抜け、逆に前足に飛び乗った。

 そのまま体を弾ませるように跳び上がり、獣の顔と同じ高さまで到達。

 

一直線にランスを突き出す――!

 

だが、雌獣は鋭く反応し、牙でそれを受け止めた。次の瞬間、雌獣は激しく首を振り、ククルの身体を大きく投げ飛ばす。


 空中で体をひねり、片膝をついて着地するククル。


 その隙を突くように――全員が一斉に動いた。


「行け!」ロックの叫びと共に、杖の先から火球が放たれる。

火球は直撃したものの、ロックスパイクドッグの厚い毛皮には焦げ跡を残すのみ。

 雌獣は唸り声を上げ、背をひねって尻尾を薙ぎ払う。鞭のようにしなった尾には鋭い棘が並び、空気を裂いて迫る!


 全員が散開してかわすが――その動きに合わせ、背中から棘が放たれる!


「くっ……!」カランが素早く盾を構えて弾き返す。その脇を――ロンが風のように駆け抜ける。距離を詰め、バトルグローブをはめた拳を獣の横腹へ叩き込む。拳はめり込んだが――硬い脂肪に弾かれる感覚。


「こりゃあ……肉が厚すぎるのう」

 

ぼやくロンの声が、戦場の中に響く。


 続けざまに、ディムが前方に突き刺さったスパイクを足場にして跳躍する。一直線に胸元を目がけて剣を振り下ろす――が、爪の一閃に阻まれ、鋼が弾かれる。


 ラスクもなんとかスパイクを避けつつ尻尾を狙って斬りかかるが、棘に阻まれ刃が弾かれる。


「尻尾すら硬えのか!?」


 カイルは飛んでくるスパイクを剣で受け流しながら、地面を滑るようにスライディング。そのまま雌獣の腹下へ潜り込み、大剣を真下から突き刺す!

 手応え――はあった。さらに剣を押し込もうとした、その時、ロックスパイクドッグが後方へ跳躍。剣を抜かれたカイルは、「くそ!」と舌打ちと共に砂混じりの唾を吐く。


「デカいクセに、速えな……!」


 だが、その後方ジャンプにユウマが合わす。


「くらえ! ファイヤーボール!!」


 叫ぶと同時に、サッカーボールほどに圧縮された火球が生まれる。


 炎が渦を巻き、深紅の閃光となって獣の頭部へ飛翔する。しかし雌獣は着地と同時に横へ跳び、魔法はわずかに逸れる。耳の一部を焼き焦がし、地面が爆ぜる。


「くっ、外れたか……!」


『小魔法を使用しました。寿命が一日減少しました』



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