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十三話 【キャンプ】

【キャンプ】


 白銀の狼の一行は、ユウマが転移してきた、北の森を東回りに迂回する街道を進んで行く。およそ三十キロを駆けたところで、村が見えてきた。

 村に立ち寄ってひと息つき、午後から再び馬に鞭を入れて、王都カンセズを目指す。

 夕暮れが近づく頃、一行は〈モース渓谷〉の麓へとたどり着いた。渓谷は一日で抜けきりたい険路であるため、少し早いが、今夜はここで野営をするらしい。



♢ ♢ ♢


「キリハラ殿、ロック、薪を拾ってきてちょうだい」


 皆が手際よく野営の準備を進める中、カランに声をかけられた。


「了解デス!」

 

 ロックは歯切れよく返事をすると、こちらを振り向く。


「キリハラ殿、薪拾いに行くよ」


 そう言って、彼は林の方へ歩き出す。ユウマもそれに続いた。二人は、落ちている枝や薪になりそうな木片を見つけて、ズタ袋に詰めていく。


「それにしても、キリハラ殿が治癒魔術を使えるなんてすごいデスね。治癒院でも開いたら、大儲けできるんじゃないデスか?」


 ロックは感心したように、じっとユウマを見つめてくる。ユウマは少し答えに困ったが、なんとかそれっぽいことを口にした。


「治癒はすごくエネルギーを使うんです。それに…ちゃ、チャージにも時間がかかるんですよ」


「そうなんデスね、アーティファクトなしで使えるなんて、特異体質なのかなあ?」


 そう言いながら、ロックは興味津々といった様子で、ユウマの肩や腕をぺたぺたと触ってくる。


「あ、あの…アーティファクトで魔術を使う時って、どうやるんですか?」


 深く追求される前に話を変える。ユウマがたずねると、ロックは自分の杖を掲げて見せた。


「これは杖タイプだけど、ほら、頭に魔石がはまってるでしょ?」


 杖の先には、色の異なる三つの魔石が埋め込まれていた。


「魔石一つにつき、一つの魔術が使えるんデス。そして、使いたい魔術の詠唱を唱えれば、発動するというわけ」


 ロックは杖を差し出す。


 「キリハラ殿、試してみますか?」


 ユウマはロックから杖を受け取り、教えてもらった詠唱を口にした。


 ……だが、何も起こらなかった。


「うーん、魔術適性が無いみたいデスね」


 突如。


「ワキューーーーーーン!」


 甲高く響く声が聞こえた、犬の遠吠えと鹿の鳴き声を混ぜたような声が森にこだました。ユウマはビクッと身体が動いた。


「<ロックスパイクドッグ>デスね。モース渓谷に生息しているスパイクドッグ、デス。でも、この時期は谷の方まで降りてこないのでご安心を」


 そう言いながら、ロックは再び薪を拾いだす。


「スパイクドッグは、メスが一頭、指揮官のように群れを統率し、オスたちが連携して狩りを行うのデス。その動きは、まるで訓練された傭兵部隊のようだと言われてます。冬になると谷へ降りてくるので、その時期は軍隊ですらここを迂回するのデス」


 何かフラグが立った様な気がするが、薪拾いを終えてキャンプに戻った。


 夕暮れどき。みんなが焚火の周りに集まってくる。途中で立ち寄った村で調達した食材のおかげで、今夜は豪華な夕食になりそうだ。


 調理担当のディムが手際よく鍋をかき混ぜる。香ばしい匂いが漂い、胃袋を刺激してくる。



◆ ◆ ◆


 やがて夕食が終わり、それぞれが思い思いの時間を過ごしはじめる。


 カイル隊長は黙々と筋トレを始め、ククルとロックさんは翼竜の話題で熱く語り合っている。

 ディムさんは愛用のロングソードを丁寧に磨き、カランさんとロンさんは酒の肴をめぐってじゃれ合いながら酒を交わしていた。

 ラスクさんの姿は見当たらない。トイレにでも行ったのだろうか。


 俺は焚き火の炎を見つめながら、ぼんやりと考えていた。

 ――冒険を続けるなら……剣術も覚えないとな。魔法だけじゃ心許ない。


 ふと、ククルの方を見ると、ちょうど翼竜談議が一段落したようだった。

意を決して声をかける。


「ククル、お願いがあるんだけど。王都に戻ったら、時間のあるときでいい。俺に、剣術を教えてくれないか――」


 言い終えた瞬間、場の空気が変わった。


 全員が一斉に動きを止める。ククルを見れば、青い瞳をキラキラと輝かせている。その背後で、カイル隊長が全力で腕をクロスさせて✖の字を作っていた。


「……なんだ?」


 困惑する俺の前で、ククルが満面の笑みで叫んだ。


「素晴らしいです! ぜひともやりましょう! ユウマは身体能力こそ高いものの、戦闘技術は壊滅的ですものね! 短剣を両手で持つなんて、わたし初めて見ましたわ。足が速くてモテるのは幼学園のうちだけです! 私が、ユウマを一人前に鍛え上げてさしあげます!」


 グイグイと距離を詰めてくるククル。


 ――しまった、なんかスイッチ押したようだ。


 周囲の仲間たちが一斉に「やっちまったな……」という顔でこちらを見ていた。


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