十二話 【旅立ち】
【旅立ち】
クルルと宿に戻ると、食堂はまるで野盗に襲われたかのように散らかっていた。
カイルは椅子に座ったまま天井を仰ぎ、大きないびきをかいている。床にはロンが転がっているが、寝ているのか気絶しているのか判別がつかない。そのすぐそばでは、カランがロックの首に腕を絡ませ、まるで締め技でもかけているような姿勢で眠っている。ラスクはカウンターに突っ伏したまま、静かな寝息を立てていた。
ディムの姿はどこにも見えなかった。きっと自分の部屋で休んでいるのだろう。
「うわぁ……すごいことになってますね」
足元に散乱した皿や壊れた椅子を慎重に避けながら進んだ。
「お見苦しいところをお見せしてすみません……」
ククルが申し訳なさそうに言いながら、倒れている椅子を元に戻す。
二人で手早く片付けを終えると、そのまま二階へと上がった。
「それじゃあ、おやすみなさい。キリ……ユウマ!」
「は、はい。おやすみなさい、ククル」
短い沈黙のあと、それぞれの部屋へ向かう。
ユウマはベッドに横になると静かに目を閉じた。
何年かぶりに訪れた、深く穏やかな眠りだった――
◆ ◇ ◆
ユウマは目を覚ます。
窓を開けっ放しで寝ていたせいか、身体が少し冷えている。
むくりと上半身を起こす。一階の方からは、人の話し声や物音がかすかに聞こえてきた。
部屋の隅に置かれた水を張った洗面器で顔を洗い、身支度を整える。
準備を済ませてロビーに降りると、白銀の狼の騎士団は、すでに出発の準備を整えて待っていた。昨日の食堂での惨状が嘘のように、カイルたちの表情には活気が戻っている。
「おはようございます、ユウマ」
ククルが爽やかな声で挨拶する。
「おはようございます。ククル、皆さんも」
腹から声を出して応じてみた。
「おはようさん」
「おはようデス」
「おはよう、キリハラ殿」
「よく眠れたようじゃの」
「……おはよう……」
団員たちがそれぞれ声をかけてくる中、ラスクだけは何も言わず、ニヤリと意味深な笑みを浮かべていた。
「ククルから聞いたぜ。一緒に王都まで行くんだよな?」
カイルが親指を立て、明るく尋ねてくる。
「はい! よろしくお願いします」
ユウマは深く頭を下げる。
「王都までは三日ほどかかるが、よろしくね」
アックスを肩に載せながら、カランが気軽な調子で言った。
ユウマが皆に続いて宿を出たその瞬間、不意に妙な声が耳に届いた。
「今日も、おっさんと新入りの小僧の面倒見なあかんのかいな。やれやれや」
「お前はええよなぁ、可愛らしい嬢ちゃん乗せれてさ」
「なぁ、たまには代わってくれや」
ユウマは驚いて立ち止まり、慌てて声のする方を見た。だがそこには、ヒッチングレールに繋がれた三頭の馬が、何事もないように静かに水を飲んでいるだけだった。〈全種族の言――〉いやいやそんなはずはない。ユウマは首を振って、自分の聞いた声を空耳と決めこんだ。
「よし!全員いるな。白銀の狼、いざ王都へ参る!!」
カイルの掛け声とともに、七頭の馬がカッシュの街を後にした。
天空の戯言
ルルル「ちょっといいですか?ゲームマスター」
GM「はい?なんでしょう、ルルルさん」
ルルル「ずっと思ってたんですけど……ゲームマスターって、人との距離の詰め方……ヘタ過ぎませんか?」
GM「え? で、でもあれは寿命を媒介とした治癒魔法の影響で……」
ルルル「魔法を便利な言い訳に使うの、そろそろやめた方がいいと思いますよ。後、言葉が風に消されがちなのも気になります。ゲームマスターってもしかして、コミュ……」
GM「やめて!それ以上は言わないで!」
ルルル「そうですね……いっそタイトルを変えた方が、いいかもしれませんね
『追放ヒーラー ~ヒールかけまくってたらハーレムできてたのでスローライフ始めます~魔王も俺にメロメロ』なんて」
GM「え? なにそれ面白そう」