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神商天秤 〜黄金の秤を継ぐ者〜  作者: エピファネス
第四章 興軍開商編
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第五十七話 童庵と食堂

 安定の地で、呂明は新たな計画を進めていた。まず最初に彼の目が向けられたのは、物資の安定供給とそれを支える労働力の確保だ。安定は遠く、商業的な繁栄を見込むには、基盤作りが必要であった。


「まずは商業の拠点を作ることだ」


 呂明は白玲に命じて、商店街の中に適した店舗を選び、塩を売るための拠点を設立させた。


 建物は瓦は剥がれ、壁も崩れかけていたが、それでも基礎はしっかりしている。

 修繕すれば、十分に孤児たちを収容できるはずだ。


「資材は地元で調達する。大工や職人も雇い、金を落としてやれ。民心を得るのに最も手っ取り早い」


 ここでは、安定で集まる食材や塩を販売することを目的としており、商隊が行き交う際の中継点としても機能するだろう。店舗の運営には、安定の中で働く力を最大限に活用することが不可欠だった。


「白玲、店舗の準備を進めてくれ。まずは塩を売る場所を整えて、働き手は俺たちの手で集めよう」


 白玲はすぐに動き、必要な物資を整えた。だが、呂明が思い描いていたのは、それだけではない。安定には多くの孤児がいる。その子供たちを救い、彼らに働く場を提供するためには、食堂も開店させる必要があった。


「食堂も開くぞ。食事を提供しながら、子供たちに働く場所を作り、さらに売上を得るのだ。食堂で働く者を育て、他の子供たちを商隊や作業に割り振る。」


「理解しました、呂主」


 まずは町中に貼り紙を出し、童庵の設立と孤児の保護を宣言した。


「食べ物と寝床を用意する。教養も武芸も教える。希望する者には、将来、交易隊に加わる道も開く」


 知らせを聞きつけ、最初に集まったのは、見るからに痩せ細った少年少女たちだった。


 着物はぼろぼろ、目は警戒に光っている。


「本当に……、食べさせてくれるのか?」


 一人の少年が震える声で尋ねた。


 呂明は頷いた。


「望むなら、明日からでも住め。何もせず与えるつもりはない。だが、働き、学ぶ意思があるなら、歓迎する」


 少年はぐっと唇を噛み、それから仲間たちと顔を見合わせた。

 やがて一人、また一人と、小さな手を差し出してきた。


 ――始まった。


 呂明は静かに思った。


 童庵の開設は、単なる慈善ではない。

 未来の交易を担う人材を育てる礎。

 力を持つ商人として、西涼で独自の基盤を築くための、第一歩だ。


 呂明の計画に従い、食堂はすぐに準備され、そこで食事を提供しながら、孤児たちには作業をさせることができた。食堂での仕事に従事する者は、給仕や調理を学び、働きながら生活を支え合うことになる。


 食堂の運営が始まり、白玲は食材の調達や調理方法を教えていく。これにより、まずはしっかりとした経済基盤を作り上げていった。


 食堂での労働を通じて、孤児たちは手に職をつけ、生活を支える力をつけていく。さらに、器用な者は作業に、体力のある者は商隊の警護や兵として活躍することが求められた。


「これで、無駄なく回るはずだ。各自が自分の力を活かせる場所で働く。食堂、商隊、そして騎馬隊の守り。それぞれの役割を果たせば、安定も成り立つ」


 呂明は無言で計画を進め、安定の土地に新たな基盤を築くために、一歩一歩着実に前進していった。


 ある日の夕方、食堂に集まった子供たちは、与えられた仕事に励みながらも、額に汗をかきながらも笑顔が溢れている。彼らの目には、何か新しい希望の光が宿り始めているように見えた。


「お前たちが、これからの安定を作るのだ」と呂明はつぶやき、食堂の片隅から眺める。


 食堂からは、静かな笑い声や、鍋をかき混ぜる音が響く。その背後には、確かな信頼が築かれつつあった。


呂明の新たな計画は、着実に成功への道を歩み始めていた。

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