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神商天秤 〜黄金の秤を継ぐ者〜  作者: エピファネス
第四章 興軍開商編
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第五十六話 西涼への道

一度掲載した原稿を削除し、再構築致ました。

改めてお楽しみくださいませ。

 春風に砂が混じる、荒れた道を、呂明たちの一行は進んでいた。

 背後には険しい山々、前方には乾いた平原。ここが秦の西端──安定郡へ続く道だ。


「……何もないな」

 杜青が、馬上からぽつりと呟いた。

 馬に揺られながら、呂明はうなずく。

 漢中の豊かな緑とは比べるべくもない。荒涼たる大地に、ぽつりぽつりと小さな集落が点在しているのみだった。


 けれど、呂明の胸は高鳴っていた。


 ──ここならば、作れる。自分たちの基盤を。


 目指すは、塩を運び込み、馬を買い、交易網を築き、密かに独自の騎馬隊を育てること。

 そのためにはまず、この安定で信頼を得ねばならない。


「間もなく、安定城でございます」

 案内役の地元民が、馬を走らせながら叫ぶ。


 やがて、遠くに小さな城壁と土造りの家並みが見えてきた。


 


 ──安定城。

 秦が西域へ睨みをきかせるために築いた拠点。だが、今やその威容は色あせている。


 城門には錆びた鉄の門が半開きにされ、見張りの兵たちもやる気のない顔つきだ。

 荷車を引く旅人たちが列を成し、関税を取られていた。


「……想像以上に、荒れているな」


 呂明は馬上から、町の様子を冷静に見渡した。


 市場は閑散とし、店の戸は半ば閉じられている。痩せた牛馬が疲れ切った目で荷を引き、商人たちは盗賊を恐れてか、隊を組まずに小さな荷だけを運んでいる。


「街道沿いの集落も荒れ放題でしたね。税だけが厳しく、守る兵もいない」


 白玲が短く報告する。


「役人もまともに機能していない。先遣隊の調査では、徴税官が私腹を肥やして逃げた記録がいくつも見つかったとか」


 陳咸が苦々しげに付け加えた。


「商いをするにも、これじゃ安心して荷を動かせねえな」


 杜青が肩をすくめる。


 呂明は黙って頷いた。

 ――想定していたより、状況は悪い。だが、同時にチャンスでもある。


 安定の民は飢えている。交易の再興を心から望んでいる。ならば、こちらが秩序と利益を持ち込めば、必ず応えるはずだ。


 呂明は馬を進め、町の中心にある廃れた広場に立った。

 かつては市場が開かれ、隊商たちが賑やかに集った場所。今は雑草が生い茂り、ただ風だけが吹き抜けている。


「ここにも、童庵を作る」


 呂明は静かに宣言した。


「童庵?」


 杜青が首を傾げる。


「孤児を引き取り、育てる施設だ。ただの慈善事業じゃない。教育し、鍛え、いずれは商隊や騎馬隊として組織に取り込む。ここ安定を、交易の中継拠点にするためには、人材が絶対に必要だ」


 陳咸と白玲が顔を見合わせる。


「……いいな。飢えた孤児は多い。見捨てれば盗賊に走るだけだが、こちらで育てれば、大きな力になる」


「まずは、漢中から塩を運び込む。塩こそ、この地で絶対に価値を持つ交易品だ。そして、ここで得た金で、西涼の馬を買い集める」


「馬を?」


「ああ。家畜として殖やす。そして――騎馬隊を育てる」


 一同は息をのんだ。


「表向きは交易を守る護衛隊だ。だが、裏では――秦にも知られぬ、俺たちの力になる」


 呂明は天秤を思い描く。

 生き残るために、ただの商人では駄目だ。力を持つ商人でなければならない。


 目指すのは、独立した交易国家のような存在。


「まずは、現地の役人と話をつけよう。童庵の設立も、急がねば」


 呂明は小さく呟き、手綱を引き締めた。


 その背に、西から強い風が吹きつけた。


 ──この荒れ果てた西涼に、新たな秩序を。

 呂明たちの挑戦が、今、始まった。

数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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