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第三十四話 断罪と新たなる時代

 門が開かれ、呂明たちが堂々と本拠地へと足を踏み入れる。岳春が魏正を討ち取り、雷厳と部下たちが屋敷内の混乱を鎮めたことで、もはや抵抗する者はいない。劉淵は捕らえられ、広場へと引きずり出された。


 劉淵は縄で縛られ、地面に膝をついていた。顔には汗が滲み、恐怖に引きつった表情を浮かべている。周囲を取り囲む民衆の視線は冷たく、その怨嗟の声が広場に響いていた。


 呂明は静かに劉淵を見下ろした。


「最後に聞こう。お前の背後にいるのは誰だ?」


 劉淵は口をつぐんだが、岳春が一歩前に出ると、その目が恐怖に揺れた。先ほどまで手足を自由に使えた男の威勢は見る影もない。


「……秦の宮中に、内通者がいる。名は……」


 劉淵は震える声で口を開き、呂明の目が鋭く細められる。呂明がその名を聞いた瞬間、一瞬の沈黙の後に険しい表情を見せる。


「これでお前の役目は終わりだ」



 広場は、かつてないほどの人々で埋め尽くされていた。民衆は息を呑み、広場中央に跪かされた男の姿を見つめていた。


 劉淵——この地を恐怖で支配し、数多の罪を積み重ねた男。その裁きの刻が訪れたのだ。


 劉淵の罪状は明白であった。奴隷売買、略奪、搾取。


 数々の悪行が白日の下に晒される。広場に集まった民衆は怒りに満ちた視線を彼に向け、誰一人として同情する者はいなかった。


 呂明は一歩前に出ると、劉淵の罪状を改めて読み上げた。


「私欲のために民を虐げ、財を貪り、罪なき者たちを奴隷として売り払った。もはや弁解の余地はない」


 劉淵は苦悶の表情を浮かべながら、なおも悪あがきを続けた。


「待て! 私は……私はお前たちのために——」


 その言葉を遮るように、広場の至る所から罵声が飛んだ。


「嘘をつくな!」


「お前のためにどれだけの者が死んだと思っている!」


 劉淵は怯えたように肩を震わせ、己が築いた恐怖の支配が、今や自らに向かっていることを悟った。


「劉淵を断罪せよ!」


 誰かが叫んだ。次第にその声は大きくなり、ついには広場全体を包む怒号となる。呂明は静かに人々を見渡した後、劉淵を睨みつけた。


 斬首台が設けられ、刃の輝きが太陽の光を受けて鈍く光る。劉淵は最初こそ抗っていたが、次第に膝を震わせ、絶望の色を浮かべた。


 処刑人が鋭く研がれた刀を振り上げる。劉淵は最後の抵抗として体を揺さぶったが、兵士によって押さえつけられる。


「やめろ、やめ——」


「口を閉じよ。貴様の言葉に耳を貸す者などいない」


 雷厳が冷たく言い放つ。そして、処刑人が刃を振り上げ、一閃──。


 血飛沫が乾いた地面を濡らした。

 最後に彼が見たのは、呂明の冷徹な視線だった。


 民衆の間から歓声が上がる。歓喜と安堵、そして新たな時代の到来を告げるような声だった。



 広場に静寂が訪れる。しかし、それはほんの一瞬のことだった。次の瞬間、人々は歓声を上げ、長い圧政からの解放を喜んだ。


「終わった……!」


「呂明様こそ、この地を導くべきだ!」


 誰かが叫ぶと、次々に同じ声が上がり始めた。


「呂明様、この地を導いてください!」


 次々と人々が口々に呂明を推す声を上げる。呂明はそれを制し、深く息をついた。


「私は商人だ。国を治める者ではない」


「なればこそ!」


 一人の壮年の男が進み出る。かつての名士であり、劉淵の圧政下で沈黙を強いられていた者の一人だった。


「呂明様は権力を求めぬお方。なればこそ、我らは貴方を信じられる!」


 その言葉に、人々が同調するように頷く。呂明はしばし沈黙した後、静かに口を開いた。


「私は——」


 民衆の歓声は止まらない。それを見ていた名士の一人が静かに口を開いた。


「呂明殿、貴殿はすでにこの地の民の心を掴んでいる。市場の安定化、労働者の解放、圧政に屈しない気概……すべてが証明しています」


 広場にいた人々も頷いた。彼らの目には、劉淵と戦い、人々を救った男の姿が焼き付いている。


「私は……」


 呂明は、民衆の熱気と期待を感じながら、静かに息を吸った。


「……ならば、私が担おう。しかし、この地を治めるのは私一人ではない。皆と共に、この地をより良くするために尽力しよう」


 その瞬間、大きな歓声が巻き起こった。呂明の決意は、この地に新たな時代をもたらすこととなる。


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