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第三十二話 陽動の策

 夜の帳が下りた町は、沈黙と重苦しさに包まれていた。呂明は宿の一室に雷厳、岳春、そして密偵となった青龍帮たちを集め、作戦を練っていた。

 劉淵を討つためには、彼の私兵を分散させ、屋敷を手薄にする必要がある。単純な正面突破では、相手の圧倒的な数に押し潰されるのは明らかだった。


「劉淵の最大の資金源は奴隷市場だ」


 呂明は地図を広げながら言った。


「明日の競りが行われるとすれば、奴隷商人たちは警備を強化しているはずだ。そこで我々は、市場で奴隷たちを解放し、混乱を引き起こす」


 雷厳が腕を組みながらうなずく。


「その混乱で劉淵の私兵を市場に向かわせれば、屋敷の警備は薄くなる、というわけか」


「そうだ。そして、その隙を突いて雷厳と岳春たちで屋敷に突入し、劉淵を捕らえる」


 岳春は不敵に笑った。


「なるほどな。派手に暴れてやるのは性に合ってるぜ」


「ただし、奴隷市場の混乱を操るには、内部に協力者が必要だ」


 その時、密偵の一人が静かに口を開いた。


「実は、奴隷市場に囚われている中に、一人妙な男がいる。項季という名の楚の元商人だ」


「項季?」


 呂明はその名を反芻した。楚の商人で、奴隷になった男——それだけでは特筆すべきことはない。しかし、密偵は続けた。


「彼は、かつて楚の大商人の一族で、塩や絹の取引に関わっていた。しかし、劉淵に騙され、財産を奪われた挙句、奴隷として売られたそうだ」


 呂明の表情がわずかに動く。楚の商人というだけでも価値があるが、劉淵に恨みを持つ者ならば、利用できるかもしれない。


「その男を明日の市場で解放し、協力を取りつける」


「しかし、奴隷の解放には計画的な動きが必要です」


 と雷厳が指摘した。


「ただ解放するだけでは混乱するだけで、我々の目的にはならない」


 呂明はうなずき、さらに説明を続けた。


「まず、密偵の一人を奴隷に扮装させ、市場の内情を探る。特に警備の動きや劉淵の手下の配置を把握する。そして、奴隷解放の混乱を最大限利用しつつ、劉淵の屋敷へ向かう」


 岳春が興奮気味に拳を鳴らす。


「つまり、奴隷たちを戦力として利用し、劉淵を孤立させるわけだな」


「その通り。だが、奴隷たちが混乱するだけでは意味がない。市場の混乱を支配できる者が必要だ」


「それが項季というわけか」


 雷厳が静かに言った。


「彼が楚の商人なら、劉淵に搾取されている奴隷たちの信頼も得られるかもしれん」


「まさにそこが狙いだ」


 呂明は静かに言い切った。


「まずは市場に密偵を送り込み、項季と接触させる。その結果を踏まえ、作戦を決行する」


部屋に緊張感が走る。夜は更けていくが、明日が運命を分ける一日になることは、誰もが理解していた。


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