第二十四話 言葉の刃
塩の荷を積んだ馬車は、乾いた道を軋ませながら進んでいた。
突然、道の両側から黒ずくめの賊たちが現れた。彼らの目は血走り、狙いを定めた獣のように光っている。道をふさぐように立ちはだかった男が、短刀をちらつかせながら、低く笑った。
「よお、坊ちゃん。悪いが、その荷を置いていってもらおうか」
呂明は馬車の前に立ち、わざと落ち着いた声で応じた。
「塩だぞ。銀貨に換えれば、かなりの額になるな」
「わかってるから狙ってるんだよ」
賊たちがにやりと笑う。
「だが、その塩をこの場で奪えば、後々困るのはお前たちのほうだ」
呂明の声には、微かな余裕がにじんでいた。
「この塩は、商人だけでなく、多くの者が目を光らせている品だ。もし俺たちがここで襲われたとなれば……その背後にいる連中も黙ってはいないだろうな」
賊の一人が顔をしかめた。彼らの背後にいる存在を知られているのかと、疑念が揺らぐ。
その時、遠くから馬蹄の音が響き渡った。地を打つような重い音は、ただの旅人ではないことを示していた。賊の一人が慌てて声を上げる。
「兄貴、まずい! 青龍幇だ!」
賊の一人が青ざめた顔で叫んだ。彼らの間には、青龍幇の名を聞いただけで明らかに動揺が走る。この地で、青龍幇に逆らうことがどれほど危険か、彼らは骨身に染みて知っているのだ。」
賊の頭目が舌打ちし、仲間たちに目配せした。
「チッ、今日はここまでだ!」
彼は名残惜しそうに呂明を睨むと、仲間を率いて森の中へと素早く消えていった。直後、青龍幇の旗を掲げた騎馬の集団が姿を現し、馬を止める。
「間に合ったようだな」
隊の先頭にいたのは、一人の女性だった。漆黒の衣に身を包み、涼やかな瞳が呂明を見据える。
「助けていただき、感謝します」
呂明が一礼すると、彼女——清は、ふっと口元をゆるめた。
「武器も持たず、ただ言葉だけで盗賊を足止めするとは。面白い男だな。特に、あの状況で塩の価値を利用して時間を稼ごうとしたのは、ただの度胸だけではない知恵の証だ」
そう言いながら、清は呂明の瞳を、まるで値踏みするようにじっと見つめた。その奥には、好奇心だけでなく、何かを探るような光が宿っている。
「さて、折角の縁だ。少し話をしようじゃないか」
清は手綱を引きながら、呂明に歩み寄る。
「青龍幇の本拠まで、付き合ってもらおう」