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神商天秤 〜黄金の秤を継ぐ者〜  作者: エピファネス
第一章 孤影、商道を往く
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第二話 呂明、呂不韋から商才を学ぶ

呂明が目を覚ましたのは、豪奢な寝台の上だった。天井に施された精緻な彫刻や、壁を飾る絹織物の模様は、この部屋が決して現代ではないことを示していた。


「……夢じゃないのか」

幼い体にしっかりと実感する感触。その瞬間、前世で過ごした現代の記憶と、今の自分とのギャップに、呂明は戸惑いと共に淡い不安を感じた。


部屋の外から、低く力強い声が響いた。


「目が覚めたか、呂明」


呂明は、ゆっくりと体を起こし、扉の向こうに立つ人物の姿をじっと見つめた。目の前にいるのは、歴史書でしか見たことのなかった呂不韋。彼の堂々たる佇まいや、厳かな雰囲気に、呂明は圧倒されながらも、どこか敬意と憧れを抱かずにはいられなかった。


呂不韋は、やさしいが厳しい眼差しで呂明を見下ろしながら、重々しく口を開いた。

 

「お前は我が子だ。だが、生きるとは己の力を示すものだ。商いにおいて、物の価値は人が決める。今、ここにあるこれらの品を見よ」

 

彼は机の上に、絹の布、陶器の小瓶、銀貨を一つずつ丁寧に並べ、問いかけるように続けた。

 

「この絹は、どんな者が欲しがると思う? その柔らかさと光沢は、ただの布ではなく、特別な価値を秘めているはずだ。次に、この香油は……君はどんな時にこれを使うと考える? そして、この銀貨、その重みは、如何にして市場で評価されると思う?」

 

呂明は、幼いながらも父の問いに真剣に耳を傾けた。混乱と好奇心が入り混じった心情の中、前世では数字と論理に支配されていた自分が、今は生身の感覚と直感で物事を感じる――そんな違和感と共に、彼は初めて本当の「商い」を学び始めたのだ。


呂不韋は、呂明に続けて語った。

 

「物の価値は、ただの数字や重さだけでは測れぬ。人々の心を動かし、噂を生み出す。それが商人の真髄だ。これから市場へ行き、実際に人々の声や取引の様子を見て、自ら学ぶのだ」

 

呂明は、父の言葉に内心で葛藤しながらも、初めての経験に胸を高鳴らせた。前世の記憶があるにもかかわらず、幼い肉体では理解しきれない部分もあったが、父の具体的な教えに触れるうち、少しずつ商才の種が芽吹いていくのを感じた。


そして、呂不韋の導きのもと、呂明は初めての市場へと足を踏み出す決意を固める。

 

「行け、呂明。そこには、色とりどりの布、珍しい香辛料、活気ある売り子の声が溢れている。君の学びの場だ」

 

呂明は、小さな決意を胸に、戸惑いながらも扉を開けた。外に広がる市場は、人々の熱気とざわめきで満ち、初めて見る数多の品々に、彼は目を奪われた。未来への期待とともに、これからの商いで自分の力を試す時が来たのだと、心の奥で強く感じた。

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