第十八話 反乱前夜の陰謀と情熱
夜の宮殿は、月明かりに照らされ、静謐ながらも重苦しい空気に包まれていた。
反乱前夜、後宮の一室に、嫪毐と皇后が密かに対面していた。室内には、古木の香りと淡い燭台の灯が揺らめき、時折、外の宮廷のざわめきが微かに聞こえていた。
嫪毐は、冷徹な眼差しを浮かべながら、皇后に問いかけた。
「今夜、本当に反乱を起こす覚悟はあるか?もしこの計略が成功すれば、我が子を秦王につけ、私自身は相国として呂不韋の地位を奪い、秦を自らの思うままに差配できる。これは、我が真の野望を成就させるための一手だ」
皇后は、しばし沈黙した後、静かに答えた。
「私は……ただ、今の幸せが続くことを願うだけ。けれども、現実は厳しい。嬴政も呂不韋も、あまりに大きな力を持っている。私の望みは、どうしても叶わぬのかもしれぬ」
嫪毐は、冷笑を浮かべながら厳しくなじる。
「お前のような繊細な心では、この国の運命は決して動かせぬ。欲望を満たすだけではなく、真の強さを手に入れるためには、覚悟が必要なのだ」
その時、皇后はため息交じりに、重い声で問い返した。
「ならば、嫪毐よ……強さとは一体、何なのでしょうか?」
嫪毐は、一瞬の静寂の後、低く、冷徹な口調で答えた。
「強さとは、生まれた家、家系――己の血筋が決定するものだ。血の流れこそ、権勢と運命を定めるのだ」
皇后は、その言葉に顔を曇らせた。しばらくの間、彼女は遠い記憶に浸るかのように、静かに目を閉じた。そして、かつてのあの邯鄲の夜を、薄明かりの中で思い起こすように、そっと口にした。
「私が最も幸せだったのは、あの邯鄲で舞妓として呂不韋と愛し合ったあの時よ。あの時は、家柄や金、権力など、すべてが問題ではなかった。あの温かい愛情こそ、私にとっての真の強さであった…」
嫪毐は、皇后の言葉に冷たく笑った。
「愛情など、ただの幻想にすぎぬ。現実の世界では、血筋こそが全てだ。だが、今やその血筋すらも、私の野望の道具として利用できる。反乱が成功すれば、我が子は秦王の傍らに置かれ、我が存在は相国として確固たるものとなる。これにより、秦の命運を掌握できるのだ」
皇后は、嫪毐の言葉に憤りと哀しみを滲ませながらも、ため息をついた。
「だが……私の願いは、ただ一つ、今の幸福が続くこと。あなたの策略が成功しても、民や愛する者の心を蝕むものであれば、幸福は決して実現しない。私があの日、呂不韋と共に過ごした邯鄲の夜のように……あの温もりと真実の愛を、今一度取り戻せるものなら……」
嫪毐はその返答に、一瞬、目を細めたが、すぐに冷笑を返した。
「皇后よ、強さとは、何も感情に頼るものではない。家系が全てを決め、血の流れこそが真の力だ。情愛は、ただの手段に過ぎぬ。お前がその幻影にすがっていては、未来は変えられぬのだ」
その言葉に、皇后は苦々しくも静かに涙を浮かべ、しかし強い意志を宿した表情を見せた。
「それでも、私は……あの時の幸せを忘れたくはない。だが、現実は厳しい。あなたの言う強さがすべてだとすれば、私たちはただの駒にすぎないのね……」
その夜、反乱の決行は近づいていた。嫪毐と皇后、そして嬴政の三者は、各々の野望を胸に、秦という国家の未来を巡る運命の分かれ道に立っていた。
翌朝、加冠の礼の儀式が始まる中、宮廷内には、嫪毐の反乱が明るみに出たという衝撃的な噂が流れ、皇后はその責任を問われ、そして嬴政は、冷徹な決断のもと、反逆者を断罪するために動き出した。その光景は、国全体に深い影を落とし、民の間にも不安が広がっていた。
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