表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神商天秤 〜黄金の秤を継ぐ者〜  作者: エピファネス
第一章 孤影、商道を往く
16/143

第十六話 策を巡らす者

 長信宮の奥深く、沈香が静かに薫る。

燭台の炎が揺らめき、彫刻を施された朱塗りの柱に影が伸びる。


その奥に、秦の丞相・呂不韋はいた。

対面するのは、未だ威光を失わぬ皇后。


「……不韋」


囁くような声には、まだ余裕があった。

だが、それは錯覚だ。


呂不韋は、己の置かれた状況を冷静に見つめていた。


かつて彼は、この女を手中に収めた。王の寵姫を自らの計略の中に置き、国を動かす力とした。だが今、彼女は秦王の母となり、嫪毐を寵愛し、己を試すように揺さぶりをかけてくる。


「後宮にまで政が持ち込まれるとは……疲れますな」


呂不韋はあえて目を伏せ、静かに言葉を選ぶ。

一歩でも誤れば、全てが崩れる。


後宮を掌握していた日々は遠くなった。

若き王・嬴政が力を蓄え、己の影響力を削ごうとしているのを感じている。


皇后の背後にいる官僚たちも、かつての忠誠を揺るがせていた。皇后派の影響下にあった官僚たちは、嬴政の台頭と呂不韋の権勢を天秤にかけ、日和見を決め込んでいる。具体的には、嬴政に情報を流すもの、呂不韋にすり寄るもの、また両方に良い顔をしようと画策するものなど、保身に走るものが目立つ。


「そなたは、私をもう見ていないのね?」


皇后の言葉が、沈香の煙のように絡みつく。

かつてのように彼女を抱けば、それで済むのかもしれない。


だが、呂不韋は知っていた。

この女は、かつての「女」ではない。


かつては、彼の権力の一部だった。

しかし今は、感情に支配された「母親」として動いている。


それを宥めすかし、逃げるには――どうするべきか。


そこで彼は「時間を稼ぐ」ための一手を考える。


「私は、この国を乱すつもりはない」


静かに言葉を紡ぐ。

それが彼の「嘘」として通じるかどうかは、皇后次第だ。


外では、特に市場に異変が起き始めていた。

皇后派の商人たちが不審な動きを見せていた。取引を控える者、密かに嬴政側と接触を試みる者が現れ始めている。また、呂不韋派の商人たちも、嬴政の動きを警戒し、今後の動向を注意深く見守っている。


そして、嬴政はその隙を突くかのように、民の動向を探り、情報を集め、着実に自らの勢力を拡大しようとしている。配下の官僚を各地に派遣し、市場の情報を収集するとともに、呂不韋派の官僚の不正の証拠を掴もうとしている。その動きは商人たちの間にも噂として広がり、呂不韋派の商人たちの不安を煽っていた。


――そして、彼の視線の先には、まだ若き息子・呂明がいる。


この国で、金と知恵を持ち、商いを制する者が生き残るのだ。

呂不韋は、息子に道を残すため、静かに次の手を打とうとしていた。



数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


気が向きましたらブックマークやイイネをお願いします。

また気に入ってくださいましたらこの後書きの下部にある⭐︎5の高評価を宜しくお願い致します。


執筆のモチベーションが大いに高まります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ