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27 実店舗

 元肉屋を購入した俺は、実店舗の開店に向けて動き出した。

 やるべき事、決めるべき事は山のようにあり、同時に日銭を稼ぐ意味で屋台も継続しなければならない。目まぐるしい日々の中、正直記憶が曖昧な部分もある。

 だから一旦整理して、お金の動きで説明してみたい。



 魔法箸購入後、俺の現金は約三千五百万円だった。

 その後、プトからの返金が約三百万円。

 そして肉屋購入に至る間の、半年間分の屋台・利益が約九百万円。


 この合計が、約四千七百万円となる。


 ここから、店舗購入費用の約一千万円を引き、残りが約三千七百万円。

 地球でなら一店舗の立ち上げに一千から一千五百万円の資金が必要なところ、俺はその倍以上を持っていた。

 だから、全然余裕だと思っていたが──


「ええっ! 新品の魔女の大鍋が十万エルター(約二千万円)? ウソだろ、そんなの!」


 相談に訪れた機械工房の作業場。

 トマーゾは腕を組み、首を振りながら言った。

「残念だけど、これが今の相場なんだ。竜胆鋼の箸のときに言ったろ? お兄さんの為に安くしとくって。あれは全然、ボッタクリなんかじゃないんだぜ?」


「そんな事を言うつもりは無いよ。ただ、あまりにも計算外過ぎだ! 地球の感覚と言われればそれまでだけど──。中古で良いから、安くならないか?」

「うーん。中古でも二万五千(約五百万円)はするだろうな。なんせお兄さん、時期が悪いんだよ。あのエルタファー内戦以来、マダの根源たる魔法貴金属や宝石はどんどん値上がりして、今なお最高値を更新中だ。ネズミの馬車のときとは原材料価格が違うんだ──」


 俺が購入しようと思っていた魔法の調理器具は、魔女の大鍋だけではなかった。

 地獄の焜炉こんろに、餃子を焼く大焦熱の鉄板、大量の器を温める保温機。

 また、存在しない中華鍋も依頼しなければならない。

 いっそ製麺機も作り直そうと考えていたが、とても無理だった。


 俺はしばらく考え、言った。

「屋台用の小型・魔女の大鍋なら、価格を抑えられるか? 今の屋台の物も流用して、二台態勢にする。これならどうだ?」

「なるほど。それで作業に差支えなければ、一万五千で済むかもな。じゃあ、一度簡単に見積ってみようか──」



 ● 中古の小型・魔女の大鍋 一台 約三百万円


 ● 中古の小型・地獄の焜炉 一台 約三百万円


 ● 中古の大焦熱の鉄板 一台 約五百万円 (小型は無い)


 ● 中古の小型・器の保温装置 一台 約百万円


 ● 特注の貴金属製・中華鍋 一個 約五百万円 

(※ 魔法系調理器具に通常の鍋を載せると、火力の関係で熔ける)



 なんと計、一千七百万円!

 予算の半分近くがブッ飛ぶ金額である。


 しかし、これは最低限必要なものばかり。

 依頼しない訳には行かなかった。


「ところで、お兄さん。魔法の箸の特許、出してなかったろ?」

「特許? エルタニアにも、そんな仕組みがあるのか?」

「当り前さ。ここは権利大国だぜ? で、ものは相談なんだけどその特許、おいらと合同で出さないか? あの発明はお兄さんのものだけど、もし一緒に出願するなら、幾らかまけても良いぜ?」


 これは面白い話だった。

 どの道、今の俺には特許に関わり合っている暇はない。

 トマーゾに任せられるなら、むしろ有難いくらいだった。



 結局、約二百五十万円の値引きを引き出し、見積りは一千四百五十万円となった。

 単純計算で、残りは約二千二百五十万円。

 ここから内装・工事費を出さねばならない。


 この件については、モコッチに依頼した。

 彼は傘下に、様々な土建系の仲間が居たからである。


「いやあ、最近は原材料価格が高騰してますからねえ! 十二万エルター(二千四百万円)は絶対掛かりますよ!」


 元肉屋を一緒に見回った後、モコッチは大げさな身振りでそう言った。

 トマーゾの言うことならば信用を持って聴くことが出来るが、この男の場合は何だか胡散臭い。

 原材料価格は上がっているのだろうが、別に貴金属や宝石を使う訳ではない筈である。


 どうも信用ならなかったので保留にし、俺は夕食時に愚痴も込めてそれを口にした。

 途端に、プトが怒り出した!


「ソレ、契約してないよね? ──ああ、良かった! 絶対ボッタクリだから! いちおう私も建設系長いんだから、初めから相談してくれれば良かったのに。良い人たちを知ってるから絶対そっちにして!」


 おお、なんということだろう。

 自宅にしっかり専門家が居た。まさに灯台下暗しである。



 後日、元肉屋に現れたのは、三人の巨人だった。

 身の丈は三メートル。とにかく四角く、細長い。

 それぞれ赤・青・黄色の三色だ。


「──ど、どうも、タナカです。よろしくお願いします──」

 俺がそう挨拶するも、相手はまるで聞いていないかのよう。

 それどころか勝手に中に入って、辺りを調べ回り始める始末──


 今日は丁度プトが休みで、一緒に来てくれていた。

 俺は彼女に耳打ちした。

「──あの、この人たち大丈夫?」

「大丈夫だよ。あ、先に言っとくけど、変な事考えちゃ駄目だよ? この人たちは相手の思考を読むので、全部筒抜けだからね?」


 俺はドキッとした。

 心の中で、アメリカのソフトキャンディみたいな連中だと思っていたからだ。


 やがて、彼らはまた集まって来て、俺の前に立った。

 怒らせただろうかと心配なっていると、不思議なことが起った。


 俺の頭の中に、映像が流れ込んできたのだ。


 赤・青・黄色の三人の前に、それぞれ約三百万円が置いてある。

 工事前の肉屋が徐々に変化し、俺の望んだ姿に完成する。

 すると、赤・青・黄色の前に、それぞれ約百万円が増える──


 初めの内、俺は何が起っているのか解らなかったが、どうやらこれが彼らのコミュニケーションであるらしい。

 内容からするに、「手付金が一人三百万。成功報酬として一人百万くれ」という意味だろう。


 あのモコッチより全然安い!


 俺は心の中で「ソフトキャンディだと思ってごめんなさい」と思いながら、同時に「工事をよろしくお願いします!」と念じたのだった。

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