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23 栄誉市民!

 プトと仲直りした俺は、以前話したように旅行に出掛けようと考えていた。

 けれども、それが実現したのは約半年程度先になってしまった。


 ミシュリーヌは結局国外へ逃れたのだが、彼女の起こした訴訟は続いていた。

 原告側が出廷することは百%ない──それでも、出ない訳には行かないのだ。

 だから、長期旅行の計画は立て難かった。


 もう一つの理由は、勲章の授与式だ。

 ある日俺の機械鳥に、エルタニア都市国家憲兵隊・隊長を名乗る人物から連絡が来た。

 彼は初老の犬人族男性で、名前をエルネストといった。


「初めまして、ジュンイチ・タナカさん。実はあなたに、エルタニア栄誉市民勲章の授与が決定しました。世間を騒がせたグローム放送の市民監視事件、それを暴いた最大の功労者であるあなたに、市民を代表して感謝の意を伝えたい。──ただし、その前に、一度どこかで会ってお話を伺えませんか?」


 ──そういえばミシュリーヌの策略で、イスハークとの関係を暴露されていた。


 これに関しては、嘘で誤魔化せるという類のものではない。

 俺は内心ビクビクしながら、都市憲兵隊本部へと赴いた。


 案内された隊長室は、実に簡素ながら機能的で、エルネストの人柄が表れているように思われた。真っ白な尻尾が印象的な彼は、俺に椅子を勧めて言った。


「──さてタナカさん。もうお気付きかも知れませんが、今日お呼び立てしたのは──イスハークの件です。少しばかり、エルタファーの事をお話し頂いてもよろしいですか?」


「──あ、あの」俺は言った。

「これって、取り調べですか? 俺は──逮捕されるのでしょうか?」


「いえいえ! 将来の勲章受章者を逮捕なんかしません。ここだけの話ですが、すでにあなたの身辺は調査済みです。あなたは本当に、良いご友人をお持ちだ。ある大学教授は自分の名に掛けて、あなたが『暗殺には関与していないと保証する』とまで仰いましたからね?」


 ──きっと、ゼノンのことに違いなかった。

 彼にまた一つ、借りを作ってしまったようだ。


「ですから、本当に緊張なさらないで下さい。むしろあなたには、イスハーク並びにミシュリーヌの件に関し、我々に被害届を出すべきと助言したい。よろしければ、あなたの話をお聞かせ下さい──」


 俺はイスハークとの過去を語った。

 ミシュリーヌについては──トマーゾの作り話をそのまま語った。(──ごめんなさい)

 エルネストが興味を持ったのは更に過去、つまり俺が奴隷になった経緯だった。


「──なるほど。では、その死霊術師の老婆があなたを奴隷市場に売った、と。たしかにその行為は、エルタファーでは罪に問えないでしょう。しかし現在、あなたの権利が保証されているエルタニアでは当然罪に問える。これは本当に善意の助言だが、被害届を出されてはいかがです?」


 俺は彼の言葉に従った。

 式の日取りについてはまた連絡があるとのことで、俺は礼を述べて憲兵隊本部を辞した。



 裁判と授与式。

 それを待つ間、さすがに遊んでいる訳にはいなかい。

 大した数は売れなくとも、屋台を開かなくては──


 そう思って向かった大学地区。

 俺が屋台を乗り付けた辺りから、なんとすでに人が集まり始めた。

 彼らは俺の勲章授与を知っており、やがて栄誉市民になる俺を祝福してくれたのだった。

(ちなみに栄誉市民になったからといって、社会的な特別待遇はない)


 かつ、有難かったのは、彼らの多くがそのまま客になってくれたこと。

 今まで一日最大、十杯前後だった売り上げが、この日はなんと五十杯以上出た。

 なんというか嬉しい悲鳴で、行列をさばき切ったときには久しぶりの疲れを感じ、「ぼーっと」したくらいだった。


 ただ、俺はこれをご祝儀だと思っていた。

 つまり、「栄誉市民になるから今回はお祝いで来てやった」みたいなことだと──


 けれども翌日、確かに人は減ったが、今までを思えば売れ行きは好調だった。

 平均して、三十杯くらいは出るのだ。

 彼らの話に耳をすましていると、「これがチキュの料理か!」といった会話が聞き取れた。

 どうやら着実に、俺のタレント時代の放送が利いているようだった。

(ただし時折、客から「ハシ・ハシをやって下さい!」とリクエストされるのがウザかった!)


 俺は自信を深めた。

 もう少しやり方や時間帯を変えれば、もっと伸びるか?

 そんな考えも出て来た。



 憲兵隊長のエルネストから連絡があり、遂に授与式の日取りが決まった。

 当日、俺は緊張しまくり、正直吐くかと思った。


 成人式や入社式など、地球でも公式的なものには正装が求められると思う。

 エルタニアの場合、そういった格好はあるにはあるのだが、だいたいそれは種族の歴史性を反映した伝統衣装である。


 例えばオーク族なら、分厚い竜胆鋼の鎧・兜。プトの犬人族なら、なめし革の鎧。ゴブリンだったら布のパンツ一丁──みたいな感じだ。


 だから伝統に則ると俺は羽織袴なのだろうが、勿論この世界には存在しない。

 迷った末、結局普段の格好──作務衣と前掛けで出席した。


 たくさんの市民代表や、元老院議員が出席する授与式は、憲兵隊本部の前庭で行われた。

 俺はそこで本当の希少種族を見た。

 エルタロッテでも指折り数える位しか存在していない、生きる伝説みたいな人々だ。


 例えば、翼有人。

 まるで天使──あるいは悪魔みたいに背中から羽が生えている人。


 また、タコかイカみたいな、たくさんの太い触手がある人。


 胴体は人間なのに腰から下が馬みたいな人──


 彼らは別に差別されたり虐殺があったらか少ないのではなく、皆長命なので、子孫を残すことが事そのものが少ないのだった。ちょっとやそっとじゃ驚かない俺も、珍しいその姿を目に焼き付けようと、まじまじと眺めてしまった。

 そうしてしまった後、よく考えたら自分も同じだったと気付き、止めにした。


 そういった人々の割れんばかりの拍手の中、俺は何だかよく解らない金属で出来た、メダルのようなバッチのような、それでいて首飾りにもなる変な物をもらった。


 エルタニアのあらゆる種族の特徴を合わせたとかいうデザインなのだが、お世辞にもカッコ良くはなかった。



 さて、これを正式に受け取ってからというもの、ラーメン屋台はより繁盛して行く。

 勲章に不思議な魔法が掛かっていた──訳ではなく、皆が俺のことをエルタニアの一員と見るようになったからである──

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