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21 嘘を以て嘘を制す

 まずトマーゾは、それが技術的な意味で可能なのか調べると言った。

 つまり、この別荘に置いてある水晶玉を改造して実験する、というのだ。


 俺たちは受信側の水晶玉をガレージに運んだ。

 トマーゾは何だか良く解らない幾つもの機器とそれを連結、最後に彼の小型機械鳥の水晶玉も同じように繋いだ。

 何回かの起動実験の後、トマーゾは言った。


「機械的な意味では、これで可能な筈なんだ。けれど、そこに魔法の制限が掛かっている。もし送信側から受信側を覗き見したいなら、この魔法を解除しなくちゃならない。


 ミシュリーヌが局内で使用した水晶玉の制限が解除されているか否か──その辺り、お兄さんの人脈で裏が取れるかい?」


 俺は放送局から借りっぱなしだった小型機械鳥で、小人のプロデューサーに連絡した。


「──大丈夫だったか、タナカ? 君への報道班の追い込みは凄いことになってる。漏れ聞こえる噂じゃ、女史は今後も君にとって不利なネタを投下しまくる気らしいぞ?」


「──そうか。それより大事な質問がある。君はミシュリーヌが裏で行っていた事に関与したか? 彼女が侵した重大な法律違反について、加担した側か?」


「何の話をしてるんだ? 前にも言ったろ? 我々はどちらかというと、君側だと。──そりゃあ、番組がぶっ飛んだので心中は複雑だが」


「その件は重ねてすまない。──ところで、局内に送信用の水晶玉があるだろう。あれの機械面ではなく、魔法面の管理は誰が行うんだ? ミシュリーヌが直接やるのか?」


「まさか! 彼女に魔術の才能は無い。局指定の魔術師ギルドが請け負っている筈だ」


「──そうか」


「ただし、その()()()()()()()()()()()()()()だ。役員会の承認を経て決まったという建前だが、実際は彼女の個人的判断に近い。──それが、どうかしたのか?」


 俺はプロデューサーに、彼女の個人オフィスの水晶玉を調べられるか訊いた。

 返事は、あまり良いものではなかった。


「──それは難しい。確かに彼女は居ないし、報道班の局員が詰めている訳でもない。ただ、こちらには権限がない。そこへ魔術師を連れ込む理由はなんだ? そこまではしてやれない──」


 通信を切った後、俺はトマーゾにプロデューサーとの会話を話した。

 限りなく黒だが、調べて見ないと解らない、と──


「──泣き寝入り、する気ないんだろう? だったらおいらに良い考えがある。ただし、これは一種の賭けだ。どうだい、乗るかい?」


 俺は即答した。「勿論だ!」



「──皆さんの前から逃げてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 しかし俺は今、こうして会見に答える用意があります。何故俺が逃げなければならなかったか、その恐ろしい実態を聞いて下さい──」


 グローム放送の小さな一室。

 俺の前には、たくさんの報道班の局員。彼らの手には無数の水晶玉。

 今俺はそれらに狙われ、一挙手一投足が生中継されていた。


 トマーゾの作戦とは、むしろ報道班に連絡を取ることだった。

 渦中の人である俺が、「記者会見をセッティングしたい」と言えば必ず乗ってる──それを利用したものだった。


 犯人の悪あがきを撮影したいたくさんの人々に向かって、俺は例の話を暴露した。


 グローム放送の役員にしてアンカーを務めるミシュリーヌが、水晶玉を乱用して市民の生活を覗き見していたのだ、と──



「──俺は、その事実を、()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女は言いました。『()()()()()()()()』と。──勿論、俺はそれを拒みました。その結果、事実無根のスキャンダルを仕掛けられたのです。まさか彼女がこんな汚いことをするなんて、思いも寄りませんでした──」



 解ると思うが、ここで語ったことは全部嘘だ。

 筋書きを書いたのは、トマーゾ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()、お兄さん!」


 そんな感じで、トマーゾが約二十分くらいで考えたものだった。



「──しかしタナカさん! 証拠はあるんですか、証拠は!」


「そうですよ! そんな都市伝説、子供くらいしか騙せませんよ?」



 記者たちから飛ぶ、激しい疑いの声。

 そろそろこちらも喋ることが無くなって来た。


 ──頼むぞ、トマーゾ。


 そう、心の中で祈っていると──

「──出たぞ、お兄さん! 今すぐ来てくれ」

 会見用の机の下、隠しておいた機械鳥から声がした。


 俺は立ち上がった。

「勿論、証拠はあります! さあ、皆さん、ついて来て下さい!」


 俺が会見場として要求したのは、局内の大部屋ではなかった。

 スタッフが使うような、小さな部屋──

 扉を開けて数歩進むと、すぐにミシュリーヌの個人オフィスがある位置だった。


 俺はオフィスのドアを開けた。

 そこには、水晶玉の前に立つトマーゾと、魔術ギルドの認定魔術師。

 俺が記者会見で時間を稼いでいる間に、この二人は解析を行っていたのだった。


 俺は、報道班の連中に向かって言った。


「認定魔術師の公正なる鑑定によって、ミシュリーヌが使用していた水晶玉は、その制限解除が確認されました。疑うのなら、彼に確認して下さい」


 水晶玉を向けられた魔術師は、静かな、しかしハッキリした声で、

「──制限が解除されています。これは明確な魔法律違反だ!」


 記者たちから、どよめきが起った。

 俺は畳み掛けた。


「──ところで報道陣の皆さん。俺の問題はこれで片付いたと思いますが──皆さんはどうされるんですか? あなた方の局内に、こんな大問題があった!


 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 そのときの報道陣の顔は、今でも忘れられない。


 ただ、局内にかなりの敵を作ったのは間違いなく、その後かなり長い間、報道部からは嫌われ続けた。


 もっとも、放送局なんてもうご免だったので逆に有難かったが──

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