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10 ラーメンの完成!

 ありがたい事に、営業の許可はすぐに下りた。

 エルタニアでは屋台営業の許可地区なるものがそもそも設定されており、ギルドに登録しさえすれば、すぐにでも営業が可能だった。土地・権利者との個別交渉は、とりあえず必要なかったのだ。


 俺はゴブリンの村長に連絡を取り、スライム麺とラミクロ昆布を発注した。

 カンスイはかなりの量を精製してもらったので、しばらくは持ちそうだ。

 またトロールのおじさんから、目無し・一つ目の豚骨、そしてチャーシュー用の肩ロースを仕入れた。


 ゼノンの協力で作った古代種ポタメアのソヤーラ醤油は、思いの他上手くいった。

 それまでのものが黄色だったのに対し、醤油は赤茶色味を増し、旨味も濃くなった。

 まあ、ようやく薄口醤油になったくらいだがかなりの進歩だ。


 鍋やどんぶりの類は別の業者市場から買ったが、やはり箸は見つからない。

 仕方なく、焼き串を加工して何セットも作ったが、これが一番大変だったかも知れない。


 トマーゾとは、頻繁に会った。

 厨房の仕様についてや、機械ネズミの色、そして製麺機など、確認作業は山ほどあった。


 その過程で、トマーゾはなかなか信頼の出来る男だと解った。

 将来は魔動設計士の資格を取りたいことや、エルタファーではそれが狭き門であったこと、魔改造はその勉強も兼ねていることを教えてくれた。

(俺はこの辺りで、ようやく()()()()()()()()()()()()!)



 製麺機車の微調整には、数日掛かった。

 撹拌機、圧縮ローラー、そして裁断機を合体させたそれは、まるでドラゴンの子供くらいデカかった。


 車体の上部に竜が口を開けたような撹拌機があり、そこにポタメア粉とカンスイ入りの水をセットする。

 起動すると撹拌開始、終ると次の熟成室へ移動、そこからローラーを通って一枚の平たい生地になる。

 反対側にはそれを巻き取るローラーがあり、また熟成。あとは裁断機を通せば中華麺の完成だ。


 しかしどうして、なかなか良い麺にならない。

 撹拌のスピードが速過ぎてグルテンが破壊されたり、ローラーを通ったものが厚過ぎたり、切ったは良いが太かったりした。


 この辺りの調整について、トマーゾは文句一つ言わずに答えてくれた。

 むしろ、「こうやったらイケる」「ああすれば解決できるか?」と様々な方法を試していた。心から魔動機いじりが好きなのだなあと、思わせられる出来事だった。


 裁断機を調節すると、ちぢれ麺やストレート麺、あるいは断面を丸くすることも出来た。俺は地球で修行した店にならって、四角いストレート麺にした。



 遂に、ネズミの馬車は納車された。

 大型犬よりもデカい三体の機械ネズミ──それが馬車を引っ張っている様はカッコイイには程遠く、かなり間抜けだった。

 しかも、その後ろには子供のドラゴンみたいな製麺機車。

 ぱっと見、ただの遊園地の遊具だった。


 けれども、馬車内の厨房は、狭いながらも機能的。

 小型の魔女の大鍋、地獄の焜炉こんろ、器を温める魔法の保温機もある。


 いよいよ、これまでやって来たものを全て合わせ、ラーメンを作るときだ。


 最初のお客に選んだのは、勿論プト。


 手順は以下のようになる。



 ① 豚骨スープを煮込む。


 ② 完成品を弱火にし、そこへチャーシュー用の豚肩ロースを入れる。

 煮立てない。低温でじっくり一、二時間煮る。

 肉は型崩れしないよう糸で縛る。


 ③ チャーシューのタレを作る。

 ソヤーラ醤油、砂糖、ネギリンゴ、ラミクロ昆布を使用。

 その中にチャーシューを浸け込む。

 チャーシューを取り出した後のものが、同時にラーメンのタレ(カエシ)にもなる。


 ④ トッピングが寂しいので、味付け卵を作る。

 偽紅玉鳥の卵を茹で、殻を剥く。

 卵の色を綺麗にしたいので、浸けダレには黄色い方のソヤーラ醤油を使用。


 ⑤ 魔法で温まった器にタレ(カエシ)を入れる。

 日本のどんぶりに相当するものが無かったので、深皿で。

 先々、業者に本物を作らせたいところ。


 ⑥ 魔女の大鍋で麺を茹でる。

 時間は二分。


 ⑦ 劣化を防ぐ寸胴鍋から、豚骨スープを器に入れる。

(この魔法の寸胴がかなり高かった!)


 ⑧ 麺を湯切りし、器へ。

 チャーシューをのせ、半分に切った味付け卵もトッピング!



 ──完成した。


 器こそ、たしかにラーメンのどんぶりではない。

 けれども、湯気を上げる濃いベージュ色のスープ、その中に沈んだ黄色の麺。

 そしてぷるぷるのチャーシューと、鮮やかな味付け卵──


 まぎれもなく、ラーメンだった。


 一体、俺はここに到達するのに、何年掛かったのだろう?

 二年以上の時間を費やした──


 しかし、()()()()()()()


「プト! 食べてくれ!」

 俺はどんぶりを差し出した。

 馬車の一部を改造して、客に食べさせるカウンターを作っておいて正解だった。


 プトは目を真ん丸にして、その器を受け取った。

 エルタファーで初めて餃子を出したとき、俺は試食する彼女からプレッシャーを感じた。

 調理者が感じる、お客様からの厳しいジャッジ。


 でも今は、それを感じなかった。

 器から立ち上る湯気を吸い込んだプトの顔は、もうすでに美味しい物を食べたときのそれだった。


 プトは少し不器用に、箸で麺を持ち上げた。

 ちょっとずつだが、彼女は練習して上手くなっていた。

 一口すすり、二口すすった。


 何も言葉を発さないまま食べ進め、汁まで飲み干してプトは言った。


「──ごちそうさま。本当においしかった──」


 俺は確信した。


 必ずイケる!


 エルタニアで、いや、エルタロッテ全土で、ラーメンは流行るのだと!

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