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奴隷編② 競売

 ──ガチン!

 金属を叩いたような嫌な音と共に、俺は手枷をはめられた。

 足には重く冷たい鎖。完全に逃げられない状態だ。


 木で出来た舞台の上には、俺以外にも十名近くの奴隷が居た。

 死霊術師の婆さんみたいに、鼻と耳が長い奴。

 蛇みたいなウロコのある奴。

 牙が長い獣じみた奴──等々。


 彼ら奴隷にとっても、ホモ・サピエンス、つまり「地球人」は珍しいのだろう。

 好奇の目が俺に向けられる。


 その視線は、舞台の下に立ち、こちらを値踏みしている連中も同様だ。あるいはこれから競り落とそうというのだから、余計そうなのかも知れない。彼らは奴隷たちとは違い艶と光沢のある服装で、上流階級なのだろうと想像が付いた。


 これは後になって知ることだが、貿易都市エルタファーはエルタロッテで唯一、自由な奴隷売買が推奨されていた。国を治めているのが部族主義的なオークの王族らしく、かつては戦利品として奴隷を使役したことから、その習慣が残っているらしい。

 面白いのは、彼らはそうやって簡単に人権(種族権?)を踏みにじる癖に、魂の権利になると慎重だ。例えば「魂を勝手に蘇らせない」とか、その辺りは全ての種族制都市における一般常識らしい。本当に、理解に苦しむ部分である。


 やがて──というか想像どおり、競売が始まった。

 俺たち奴隷は列を作って、舞台の端に並べさせられた。


 競売の一連の流れは、こんな感じだ。



 ① 足の鎖を外され、奴隷の一人が舞台の中央に進み出る。


 ② 顔面・角男から、「とくい、やれ! 技、みせろ!」と掛け声。

 それを受けて、舞台下のお客様方に向かって、自己アピール。


 ③ 舞台下から手が上がり、各人が入札価格を言う。

 一番高い値を付けた者が落札。(ここは地球のヤ〇オクとかと一緒だ)


 ④ 落札が決まると、さっきのグーに指を入れるハンドサイン。そして、奴隷は舞台袖にはけ、次の者が舞台中央に進み出る。



 俺は列の最後尾であり、この模様は先に買われて行く奴隷たちを見て理解した。

 彼らのほとんどは、いわゆるゴロツキか元兵士なのだろう。

 最初の耳と鼻が長い奴は、手枷をされた状態で器用に飛んだり跳ねたりし、足技を主体とした格闘の型を披露した。


 蛇のようなウロコがある奴は、掛け声がかかっても全く動かなかった。

 何も出来ないのか? と思って見ていると、いきなり口の中から噴水のような、黒く濁った液体を吐き出した。それは舞台の一部に吹きかかると、もくもくと霧が立ち、ひどく臭かった。


 牙が長い獣じみた奴は、なんと手枷を腕力で破壊した。当然、顔面・角男が怒鳴りながら走ってきて、ぶん殴られ、小突き回され、そのまま退場させられた。


 遂に、俺の順番が来た。

 心臓が飛び出るかと思うほど緊張しつつ、舞台の中央に立つ。

 接客業で人前は慣れているとはいえ、これは勝手が違い過ぎる。

 美しく着飾ってはいるが、気持ち悪い見た目と、薄暗い目から放たれる刺すような視線。

 地球の、日本の、普通の日常生活では絶対有り得ない。


「これ、いせかい、来た。とても・めずらし。英ゆうのうつわ。めだま・商ひん!」

 顔面・角男が言った。

 ちょっとした歓声が、舞台下から沸き起こる。

「とくい、やれ! 技、みせろ!」と例の掛け声。


 ──とはいえ、だ。

 俺に得意技なんかある訳ない。

 店に強盗が来て、中華鍋で追っ払ったとか、そんな武勇伝ある筈がない。

 再び掛かる、少し苛立ったような顔面・角男の声。


 仕方なく──俺はいつもの日常をやった。


「いらっしゃいませ!」

「お一人ですか? カウンターへどうぞ!」

「お決まりですか? 半チャン・ラーメンセットですね。半チャン・ラーメンセット一丁!」


 鍋を振るう動作。


 皿にチャーハンを盛り付ける動作。


「お先に半チャンです!」

「お待たせしました。ラーメンです!」


 これが、何か知らんが、ウケた。

 皆が腹を抱えて笑い出した。


 ──いや、解っている。俺が一番、解っている! 皆まで言うな!


 面白いからウケているのではない。

 失笑なのだ。


 異世界から来た期待の目玉商品が、何一つ出来もしない──

 それが滑稽だから笑っているのだ。


 舞台の上で地団太を踏み、歯を鳴らして怒る顔面・角男。

 さっきの奴みたいにぶん殴られるかと思ったが、そんなことはなく、普通に競りへと移行した。


 俺は無事、落札された。


 後になって知ったことだが、俺はこの奴隷市場はじまって以来の、最安価格で落札されたのだった。


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