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⑱ 試作のラーメン…?

 俺は事ある毎に、ケロリンとプトから餃子をせがまれた。

 誰かに望まれる嬉しさは格別で、俺はその度に餃子を作り続けた。

 そのうち二人の為だけでは勿体ないと感じ、料理番の三人衆や宿舎の連中にも振舞った。


 結果的に、それが命取りになり、また運命が開ける切っ掛けにもなるのだが、とりあえず一旦置いておく。


 俺は日々の作業に追われる中、どうしてもラーメンを作りたくなった。

 スカルベルの飼育や木人先生の農園の手伝いをしていると、まるで自分が農夫か何かになった気がしてきて、十年後の自分を想像するとき切株に座って「どっこらしょ」とか言っていそうだったからだ。


 材料のほとんどが足りないことは解っていた。

 ただ作ってみることでしか前に進めないし、問題点も解らない。

 純粋な料理をする楽しみの意味もあった。


 今回は、木人先生のキッチンを借りた。

 スープに長い調理時間が必要だから、領事館の厨房では無理だった。

 休みの日に大量の食材を抱えて大木の森へ行くのは、何だか子供のときのキャンプみたいで純粋にテンションが上がった。


 先生の家は古い空洞化した巨大な切株で、何だかクリスマスのケーキを思わせた。

 室内の印象はまさに小人の家。

 スケールは全然違うし、先生の背丈も小さくない。

 木目が露出した壁には様々な巨木の破片が飾られ、先生の話ではそれが先祖なのだと言う。


 キッチンは先生の大きさには似つかわしくなく、こじんまりとしていた。

 当然といえば当然で、先生には人間的な食事は必要なく、ちょっとした実験や研究に使う場所だったのだ。

 俺はそこに材料を置くと、調理を開始した。


 まずは一番時間のかかる、スープ作りだ。



 ① 偽紅玉鳥の鳥ガラを水で綺麗に洗う。血合いなどを落とす。

(肉屋のオヤジからほぼタダでもらったもの)


 ② 鍋に1000cc(約142クラト)の水を入れ、鳥ガラを投入。火にかける。

(先生は食べないし、今日は一人分なのでこの分量)


 ③ 沸騰してきたらアクを取る。四時間程度煮込む。水が減ったら足す。


 ④ 弱火にし、白菜・キャベツ・レタスに似ているダルラを入れる。

(本当はネギ・ショウガ・ニンニクなどを入れたい!)

 再び二時間くらい煮る。



 ここから麺作り。



 ① ポタメア粉 100g(約14カラドラ)をボールに入れる。


 ② 水50cc(約7クラト)に、塩一つまみを入れ溶かす


 ③ ボールの粉に打ち水をするようにし、混ぜる。

(乾いた粉が残らないように)


 ④ そぼろ状の小さな粒になったら、それをまとめて行く。


 ⑤ 一塊に出来たら、濡れ布巾を被せて休ませる。


 ⑥ 棒を使い、平らに伸ばす。折って伸ばす、折って伸ばすを繰り返す。

 たくさん繰り返すと、滑らかになる。

 濡れ布巾が直接当たらないように、しかし乾かないように生地にかけ、また休ませる。



 そしてラーメンにとって重要な油だ。



 ① 偽紅玉鳥の鳥皮をフライパンで火にかける。(にせこうぎょくちょう)


 ② 焦がさないようじっくり炒め、油を出す。

(水と一緒に煮込んで抽出しても良いが、一人分はこの方が楽)


 ③ 鳥皮がカリカリになったら取り出す。残った油を取っておく。

(カリカリの皮は、塩を振ってツマミにしても美味い!)



 また麺に戻る。



 ① 台にポタメア粉の打ち粉をする。

(ポタメア粉はその性質上、打ち粉に向いていないが、目をつぶる)

 生地を棒で出来るだけ伸ばす。


 ② 重ねるように三つに折る。包丁で1パスミル(1.5~2ミリ)幅を目指して切って行く。


 ③ 全体に打ち粉をし、ほぐしておく。



 さあいよいよ、仕上げだ。



 ① スープを濾す。それを火にかけ、温めておく。


 ② 深い皿に魚醤と鳥油を入れる。


 ③ 麺を茹でる。

(様子を見ながらやってみたが、ちょっと太かったみたいで三~四分かかった)


 ④ 皿にスープを入れる。続いて湯切りした麺を入れ、完成!



 ──結論からいうと、それはラーメンとは程遠い食べ物だった。


 アジアの食堂で扇風機の風を浴びながら、ランニングのオジサンが食べる麺類──


 それが率直な感想だ。(アジアの麺としては、まあまあ美味いが──)


 まず、麺にカンスイが入っていない為、ほぼうどんだ。

 それからこのポタメアは、いわゆる薄力粉なのだろう。コシが弱くラーメンに適していない。必要なのは強力粉のポタメアだ。


 スープは長時間煮込んだので旨味が出て、鳥ラーメンと考えればまあまあ。鳥油もラーメン感を出すのにしっかり寄与している。けれども、俺が目指すのは豚骨だ。


 そして味のすべてを魚醤に頼ったので、それが東南アジアから脱出できない理由だろう。


 やはり醤油──


 そして、複雑な旨味──

 肉類のイノシン酸に、昆布などのグルタミン酸。

 そういったものの力強さが決定的に不足している。

 (このナディメ汁もイノシン酸なのだが、一種類では弱い。そして香りが魚に寄り過ぎる。日本のラーメンを作るには全く向いていない)


 旨味の重ね掛けによって重層的な美味さを作る──


 そこに到達するには、まだまだ材料が不足していた。

 俺は先生にキッチンを使わせてくれたお礼を言い、そして強力のポタメアを相談した。


 種類として存在はしているがここには無い、というのが先生の返答。

 輸入品を扱う業者に当たってもいいが、かなり高く付くらしい。


 俺は存在を確認できただけで満足し、再度お礼を行って先生宅を辞した。



 命取りになったのは、宿舎に帰ったときだ。


 玄関を入るなり、そこにはゲロッピとゲロリの姿。

 二人は蛙独特のぎょろりとした目で俺を睨みながらこう言った。


「お前、勝手に厨房使った。みんなから聞いた。今後ダメ絶対!」


「とはいえ、お前またやるかも知れないゲロ。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 後になって解ったことだが、餃子はあまりにも皆の間に広まり過ぎた。

 俺がたまにしか作らないことも手伝って皆は餃子を心待ちにするようになり、仕事中でも話題にした。


 そして誰かが言った。


「どうしてゲロリ、ギョーザ作れない? お前の料理より、ギョーザ、美味い!」

 

 これがゲロリを激怒させてしまったのだった。


 俺は目の前が真っ暗になった。

 折角、色々なことが動き出したと思ったのに──


 けれども、それは杞憂だった。


 なんとこの禁止令は簡単に覆る。かつ、俺の運命はこの後、劇的に開けるのである。

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