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⑰ 人気メニューの完成!

 餃子のアイデアは色々と思い付いていた。

 しかし実際に調理できたのは、それから一か月後のことだった。


 これには二つの事情がある。

 一つにはお金。

 二つ目がゲロッピとゲロリの目だ。


 お金についてはほぼ説明不要だろう。

 必要な材料を買おうにも、魚を買ってしまった俺は一文無し。

 なので次の給与が入るまで待たなければならなかった。


 次にゲロッピとゲロリだが、彼らはあの食中毒について俺が厨房を使ったとは気付かなかったが、俺の持ち込んだ変な食べ物の所為とは思っていた。これ以上目を付けられて厨房が使えなくなっては困る。だから慎重に機会を窺っていた。


 この他、一ヶ月の間にやっとこさ木人先生のところにも行った。

 先生の農園は先生を馬鹿デカくしたような大木が生える森で、様々な植物があった。

 農作業を手伝いつつ、俺は醤油に繋がる道を相談した。


 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()() と。


 先生の答えは素っ気なかった。

 お前が菌を持ってくるなら増やせる。ただ、その菌の特定はどうするのだ? と。


 確かにそうだ。

 世界に百万単位で存在する菌のたった一種を特定する──それは魔法を使っても難しく、専門的な研究知識が必要なのだという。ただ、先生は俺が発酵に興味があるということは解ってくれ、何か関連する事を見たり聞いたりしたら教えてやる、とは言ってくれた。



 さてその夜、俺は例によって厨房を起動し、明りを最大にした。

 ポタメアやスカルベルは引き続いて使うとして、今回俺が追加したのはナディメ汁の小瓶。

 そして偽紅玉鳥にせこうぎょくちょう


 偽紅玉鳥は、その体形が丸っこい以外は高級家禽である紅玉鳥とは似ても似つかない。

 色はくすんだ赤茶色だし、鳴き声も汚い。ただ俺がダダ・ハーの料理店で食べた部位はいわゆるムネ肉で、モモ肉はもっと野性的で美味いらしい。俺が考えていた秘策はすべて、この偽紅玉鳥だった。

(ちなみに鳥は丸ごと一羽買ったが、肉屋で締めてバラしてもらった。生きたままをここで締めると騒ぎになりそうだし、やっぱりちょっと心苦しかったので)


 さあ、調理開始だ。



 ① 前回のように、ポタメア粉をこねて皮を作る。



 ② 蛙族は食べられないから別の皮、つまり、()()()()()()()()使()()

 焼き縮みを計算に入れ、やや大き目に。



 ③ スカルベルの身を半分粗みじん。もう半分を細かく叩く。

(あのあと調べたら、生のスカルベルは犬人族に毒だと解った。前回食べて平気だったが、あれだけ嫌っていたし、ここから食中毒を出したくないのでプト用には入れない)



 ④ 偽紅玉鳥のモモ肉を、細かく叩く。(ミンチ的なものを目指す)



 ⑤ 二種類の餡を作る。



 一つは、「スカルベル + モモ肉」。(とはいえ、モモ肉は少な目で)

(モモ肉が入ることでジューシーさアップを狙う!)


 もう一つは、「モモ肉のみ」。

(ジューシーさを狙って、かなり叩いて潰した鳥皮も入れてみる)



 両方の餡を良くこね、「スカルベル + モモ肉」には、蛙の好物で犬人の毒である水草、アゾラーラのみじん切りを入れる。


「モモ肉のみ」は、ダダ・ハーの店で食べた魚の煮込みに使われていた野菜、ダルラを入れる。(ダルラは白菜のようなキャベツのようなレタスのような野菜。その全てに似ていて、またそのどれでもない)

 蛙族がこれを食べられるのかリサーチ出来なかったので、プト用のみ使用。

(ちなみに、この調理場にあったものを勝手に使った!)



 ⑥ 隠し味!

 両方の餡に、まさしく魔法の小瓶である魚醤を入れる。

 結構味が濃いので、塩とのバランスを考えて少量。

 タレも準備したかったが、小瓶をかなり消費するので取り止め!



 ⑦ 皮で包む。ポタメア皮は以前と同じで良いとして、問題は鳥皮。

 四角く切った皮のやや下側に餡をのせ、巻くように包む。途中、左右の端を中に織り込む。こうすると崩れ難い。



 ⑧ あとは、焼くだけ!



 二つに分けたフライパンから、それぞれ良い匂いがし始めた。

 鳥皮を使っている方は、何ともヨダレが出て来る香ばしい匂い。

 染み出た鳥油が焼け、気化しているのだろう。俺はぼんやりと夜の街の焼き鳥屋を思い出す。


 ポタメアの方は、それに比べてやや大人しい。焼き油に鳥油を少量混ぜれば良かったか? などと、フライパンを見守りながら考える。どちらの中身に対しても油は添加しているのだが、やはり香味油が欲しいところだ。


 この世界は広いので探せば良さ気なものが見つかるのではないか──


「良い匂いだね」声がした。


 見ると、プトが調理場の向こうに立っていた。

「もう、美味そう。早く!」

 そこからかなり離れた位置に、ケロリンの姿もある。


 今回に関しては事前に時間を指定したので、そのとおりに来てくれたようだ。

 俺は用意していた皿をフライパンに被せ、一気にひっくり返す。


 それぞれの皿の上に、円形の餃子が居並んだ。

 俺は二人を呼び寄せた。

 まず味見をして出すべきと考えたが、二人の様子を見ていてそれは出来なかった。


 二人は例によって匂いを嗅ぎ、今度は躊躇いなく口に入れた。

 何度も危険な材料は入っていないと説明したし、下調べもした。

 それでも、あの嫌な失敗が甦る。


 またヒリ付くような時間が──今度は、その暇は無かった。


 プトもケロリンも、()()()()()()()()()()()()()


 まるでポテトチップス感覚で、摘まんでは口に運ぶプト。

 ケロリンもカトラリーでひょいひょい拾い、皿の上のものがどんどん消えて行く。


「ちょっとストップ!」俺は両者の皿を奪った。「一個ずつくれ!」

 さすがに料理人として、味見は必要だろう。


 俺は右手に蛙向け、左手に犬人向けを摘まみ上げる。


 蛙向けは──ホントに美味い! 

 まず皮が鳥皮なので、香ばしさと飛び出す油! 海老と鳥肉がちゃんとマッチし、ひたすらジューシーだ。隠し味の魚醤と香草がやっぱりアジアンだが、これはこれでかなりアリ!


 続いてい犬人向けは──全く趣が違う!

 香ばしいポタメアの皮に、鳥肉の旨味と少量入れた皮がぷりぷりで美味い。悔しいのはネギ・ニラ・ショウガなどが入っていないことだが、そこは魚醤の旨味で何とか合格!


 総じて、俺の感想としては「ハンパないアジアン感」だが、そもそも餃子はアジアンな気もするし、現状やりきった達成感があった。


 二人は餃子を絶賛した。

 また作ってね! と念を押されるくらいだった。


 俺は片付けを前に、勝利の美酒に酔うようにぼーっとした。


 後になって、俺が出す店の人気メニューになる「田中・餃子」は、このときにそのベースが完成したのである。

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