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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女ナノカ(春、夏、秋、冬、春)

作者: 寛永古銭

俺は今、東京駅から外に出た。

そしてその現状に驚いている。

人人人と、どこもかしこも人だらけ、まさか駅の中や外もここまで人が多いとは

思わなかった。


恥ずかしながら、俺は静岡の田舎から東京の某専門学校に決まるまで、一度も東

京に来た事がなかった。

正直に言うと、ディズニーランドにも行ったことがない、千葉だが・・・・・


修学旅行も京都で、静岡から東には行った事が無い。

今回東京駅から出たのも、好奇心とお腹が空いたからなのだったのだが、今の俺

の状態では探検に行ける気がしない。

そういう事で、もう一度東京駅に戻り、乗換え電車を探して借りたアパートに向

かう事にした。




借りたアパートの近くの駅に到着し周囲を見回すと安堵した。

地元とあまり変わらない風景だったからだ。

今日から一人暮らしで、心細い気持ちもあったが少しは気分が落ち着いた。


それと、俺には綺麗な彼女がいる。

本当は、彼女と一緒に住もうと話したのだが断られ一人暮らしになった。

彼女の通う大学がここから結構離れており、週末に頻繁に会うのも難しい距離に

あった。

まだ付き合って3ヶ月しか経っていないという事で、簡単に同棲をしたくなかっ

たのだろうと俺は思っている。

俺の家はそこまで裕福ではなく、専門学校の学費やアパートや食事代まで出して

もらうのに気が引けて、何かは自分で出せるようにしようと進学が決まって

からはほぼ毎日バイトをしていた。

彼女と付き合っていると言っても、学校で毎日一緒に居たり、登下校を毎日一緒

にしていたわけでもなく、偶にスマホで会話したり、2~3週間に一度デートし

たりするぐらいで、実質デートしたのも3~4回程度しかなかった。




俺の名前は"山本大樹”、彼女は”一ノ瀬ナノカ”。

東京の専門学校は、ナノカと付き合う以前に決まっていた事なので、彼女が東京

に決まったから決めたわけではない。

そしてナノカも、俺と付き合う前に決まっていた事だ。


ナノカと付き合うきっかけになったのを話そうと思う。

リア充爆ぜろと思う人もいるかと思うが聞いてほしい。

俺は中学の時からずっとナノカが好きだった。

小学校は別々だったのだが、中学校1年生でクラスメートになった時に一目惚れ

をし、それからずっと好きだったのだ。

ナノカは成績が良く、顔もスタイルも抜群で、学校でも男子の人気が高かった。

まあ俺だけでは無く、沢山の人が同じ思いだったようだけど・・・・・

だが、女子にはちょっと評判が悪く、それは嫉妬っぽい妬みがあった。


そして俺は、6年間の思いを込めてクリスマスの1週間前にすべてぶつけて、彼

女と付合える事になった。

当たって砕けろと告白して、砕けないで本当に付き合えると思わなかった。

それからは、天国にいるのではと思える高揚感さえあった。

でも、告白した理由は褒められものでは無かったのだが・・・・・



―――――




高校の学園祭の後夜祭で、ミスターミス〇〇高としての催しがあった。

もちろん俺はこのようなのに選ばれる事が無いので興味は無かった。

そしてナノカが出ると言う話しを聞きつけた俺は、友達と一緒に見に行く事に

した。

その日はバイト休みを貰っていたが、これまでのバイトを含め学園祭の催し準

備などの疲れもあって、後夜祭は見ないで帰る予定だったのだ。




後夜祭でいくつかのバンド演奏が終わり、ミスターミス〇〇校が選ばれる催し

が始まった。

舞台の上にはナノカも上がっていたが、何故かメンバーに違和感を覚えた。

それもそのはずで、男女4人ずついるが、その内の3人は学校でもよく見かけ

るカップルだったのだ。

だけど選ばれている男性の一人は、学校内でも自己主張が強く変わり者とされ

ていた人で、俺もほとんど話した事が無い人だった。

その後彼女は女子の4位と決まり、良カップルを選ぶと言う主催者女生徒が勝

手に決めた催しになっていた。

本当の美女と野獣って感じだ。

失礼なのだが、4位になったのは彼のせいだと思っていた。


その時俺は、ナノカが嵌められたのだとわからず、何日か経ってからナノカが

変わり者と付き合っているのかと勘違いし、ナノカの友達にそれとなく聞いた。

すると彼女は、何人かの男子にも同じ事を聞かれたようで、俺にもその話しを

してきた。


その後主催者側が、カップルを決める催しだからとナノカに説明したが、自分

に自信のあるナノカがそれでもとエントリーしてきたと嘘を広めていた。

その時ナノカは学校で付き合っている人はいなかったようで、事前に知った主

催者が勝手にエントリーされて舞台に出されたようだ。

そしてわざと変な噂が立つように仕組んでいたらしい。

ナノカのいるグループは、ハキハキと言うような事が無いおとなしめのグルー

プだったので、その事の反論は誰もせず、ナノカも卒業まであと少しだからと

「我慢するから大丈夫だ」と俺はナノカの友達に聞いた。


俺はそれを聞いたからナノカに告白した。

あの主催者には今でも腹が立ってくるが、俺はそれがきっかけでの告白だ。

まあそれでも、静岡での10代最後になるかも知れないイブを、彼女とすごし

たいと思った事が大きな理由だったが、ナノカは東京の大学が決まった最後の

クリスマスは家族と一緒にお祝いするからと断られてしまった。

まあ付き合う事になったので、これはこれで良しとした・・・・・


その後は、クリスマスがいつものようなクルシミマスになり、一番仲の良い”松

田大和”と遊んだ。

大和は、たまたま高3の時に彼女がいなかっただけで、俺のように毎年家族と

祝っている奴ではなかった。

まあ、いつも惚気話を聞かされていたので、思いっきり惚気話をしてやった。

「それで来年こそは!」と思い、二人で飲み明かした。も、勿論ジュースでな

んだけど・・・・・

そして年が変わり、正月、バレンタイン、卒業とイベントが過ぎていき、今に

至っている。




―――――




ピンポーン!

アパートに到着した俺は、一階に住んでいる大家さんに鍵をもらいに来た。

はーいと若い感じの声が聞こえたが、50歳中端の昔は可愛かっただろうなっ

て感じの優しそうなおばさんが出てきた。


「こんにちは、今日から上の2-B号室に入ります山本大樹です」

「あら大樹くんね、思ったより来るのが早かったわね」


そう言った大家さんは、もう大樹くんと名前呼びしている。


「あと1時間遅かったら、買い物に出かけてたかも知れなかったから良かった

わ。鍵を持ってくるからちょっと待ってて」


大家さんはそう言って鍵を取りにいき、鍵を渡しアパートの説明をしてきた。

まあ普通のアパートと同じで、夜中に騒いで近隣住民や隣の部屋の方に迷惑を

かけないようにや、犬猫などの小動物はかわないようになどの注意をされた。

築10年ちょっとしか経っていないアパートなのと、部屋の広さにトイレや風

呂がある事等は、アパートを見つけてきた父親に教えてもらっていた。

水道光熱費と食事の面は自分で出すのだが、学費や家賃は親に頼る事になって

いる。


挨拶も終わって部屋に行こうとすると、あまりドンドンと床を叩かないでねと

ニヤッと笑ってきたので、俺もニヤッとやらしい笑いで返してあげた。

大家さんは、それがツボに入ったようで俺の肩を叩きながら笑っていた。

そして「冗談よ」と言いながら、家には旦那と高校生二人の子供がいるから、

教育上の事もねと、ニッと笑って釘を刺して言ってきた。

大家さんと別れた俺は二階の部屋へと向かった。




―――――




翌日、朝早くからデパートに出かけた。

まだカーテンも無く眩しくて目が冷めた。

テレビも冷蔵庫も無かったので、まずそれらから揃えるべきだと思った。

そして一通り家具を揃え、今日中に配達出来るそうなのでお願いした。

ちょっと痛い出費だったが、夏休みに車免許を取る予定なので、もうちょっと貯

めないといけない状態になっている。

基本的に食事代と光熱費だけは自分で出すと親には言ってある。

お昼にコンビニでバイト情報誌も買って読んだが、良いのが見当たらない。

まだ入学式まで2週間あるので(途中でオリエンテーションがある)、もうちょ

っとじっくり探す事にして、夕飯はアパート近くのスーパーで買う事にした。




冷蔵庫はすぐに使えないだろうと思い、今日は弁当にする事にした。

あと、明日の朝ご飯として、スーパー内にあるパン屋へと入った。

レジ定員は高校生なのだろうか、可愛い娘が販売していた。


「340円になります。」

「あ、はい・・・・・」


家具の配達時間やバイトの事を考えていたらボーっとしていた。

お金を払いパン屋を出る前に、バイト募集のチラシが目に入った。


 ”毎熊ベーカリー バイト募集  18:30~21:30 休日土曜日”


俺はすぐに定員に声をかけ、奥から出てきた店長と次の日に面接する事が決ま

った。そして明後日からすぐに働ける事になった。

学校終わりの時間帯で決まった事が本当に良い。

この事を電話でナノカに話すと「おめでとう良かったね」と喜んでもらえ「今

度行く時にパンを買ってから一緒に帰ろうね」と言ってもらえた。

そのような事が早く来ないかなと想像し、その日の電話は終了した。




―――――




それから何日か経ち、ナノカが来たのは4月の中端の金曜日だった。

俺はバイトだったので、ナノカは学校が終わって電車に乗り、俺の教えたバイ

ト先にやってきた。


「たーいじゅ! 来たよ」

「おー久しぶり、結構早かったんだな」


ナノカもバイトが忙しいようで偶にしか電話で話しが出来なかったが、直接会

って声を聞くのも静岡から出てくる前で、もう一ヶ月近く会っていなかった。

久しぶりに見たナノカは、もっと綺麗になっていた。

俺はもうすぐ終わるからと、入口近くのベンチで待っててもらった。




「き、綺麗な人ですね。大樹くんの彼女さんですか?」


この娘は俺が入る前から働いている娘で、前に高校生に間違えたが同い年の“高

坂陽向”ちゃん。地元がこの辺りで、高校生の時からバイトをしているようだ。


「うん、静岡からの付合いで今日久しぶりに会ったんだ。」


俺のニヤつき方が結構キモかったようで、陽向ちゃんが苦笑いしながら店長に

かけあってくれて、いつもより10分早めに終わる事が出来た。

その後ナノカと一緒に夕飯を食べに行き、アパートに帰って来た。


「結構広いね。私の部屋は1ルームだから、大樹の部屋の半分ぐらいだよ」

「そ、そうなんだ・・・・・」


なぜか緊張する。

付き合って4ヶ月も過ぎていて、一応やることはやっているが自分の部屋に女

性を入れたのは始めてだ。


「どうしたのよ~、大樹が緊張してたら私まで緊張してくるじゃない」


そう言って和ますように笑いながら言ってくるナノカ


「ご、ごめん。女の人を部屋に入れるって始めてだったから・・・・・」




ナノカは暑かったからなのか、上から着ていた服を脱ぎ勉強机の椅子に座った。

そして何かを言いたそうに俺を見つめてきた。


「大樹、あのね・・・・・ちょっと困った事があって来たの」


ん、会いたかったから来たのでは無く、困った事・・・・・

本当に会いたかった俺は少しショックだった。

そして俺の顔を見て気付いたナノカが言ってきた。


「ち、違うよ。東京では大樹以外にお願い出来る人がいないから先に話そうと思

っただけで、今日電車で来たのは大樹に会いたかったからだよ」


顔に出てたようだ。

折角ここまで会いに来てもらったのに、俺はマズイと思い笑いながら「ごめん」

と謝った。

そして何が困った事があったのか聞く事にした。


「私の友達なんだけど・・・・・に、妊娠しちゃったみたいで、まだ学校も始まっ

たばかりで産むわけにもいかず、それで堕ろすにもお金がって感じで・・・・・」

「お金の事? その娘の親や地元の友達には頼れないの?」

「カノちゃ、カノちゃんは私の友達ね。カノちゃんは母子家庭で、大学の学費以

外でお母さんにこれ以上のお願い出来ないみたいなの。まず妊娠している事も

言えないみたい。それに地元が岡山だから、遠いからと友達をあてには出来ない

って言ってた」


なるほど、そうだよな・・・・・これだけ離れる距離にいて数万円貸してもいつ返

してもらえるかわからないのに貸さないだろうな。

そしてナノカは、両手を合わせてお願いしてきた。


「大樹、ごめん。10万円なんだけど、貸してもらえない?」

「じゅ、10万・・・・・」


いきなり10万と言われても簡単に出せる金額じゃない。

食費と光熱費、夏休みの車免許を取るのに貯めているお金だ。

でもまあ、食費を少し切り詰めれば5万ぐらいならなんとか・・・・・


「食費と光熱費に車免許を取る為に貯めてて、10万は無理だけど5万なら今

持ってるからどうにか貸せるかな・・・・・」

「本当に!ありがとう大樹!」


そう言って大喜びで抱きついてきた。

俺はナノカの久々の膨らみにヤバッと思い抱きしめ返し、その後ムフフとあっ

て夜が明けた。

次の日、俺達は昼頃起きてご飯を食べにどこかに遊びに行こうと誘ったが、日曜

日にバイトがあって友達に早く渡したからと、ナノカは昼過ぎに帰って行った。




―――――




あれから数日が経ち、バイト先で陽向ちゃんにいろいろと聞かれた。

ナノカの短大が、陽向ちゃんの親友も通っている大学だとわかり、もしかしたら

親友を知ってるかもねと話しになった。




―――――




そして四月が終わり、五月のGWに入った。

毎熊ベーカリーは、GW期間中は休みになっている。

観光や帰省する人が増え、売上の減少もあるからと、それなら休みにしようと毎

年休みにしているようだ。

それで俺は地元に帰って来ていた。

ナノカも誘ったのだが、彼女はバイトが忙しくて戻らないようだ。




静岡の沿岸部の道路を、友達の松田大和の車で夜のドライブ中だ。

彼は静岡市にある大学に通っていて、俺と同じように地元に帰って来たようだ。

そして、浜辺の近くのパーラーで食事をする事にした。

ハンバーガーと飲み物を買い、堤防の上に座って海を眺めながら学校の事や高

校の時のバカ話し、大和はバイト先でかわいい娘を見つけて俺と遊ぶ前にGW

に遊ぼうと誘ったらしいが、まだ知り合ったばかりだからと断られたとか。

食べながらいろいろ話した。


「俺と遊ぶって仕方がなくなのか?」

「当たり前じゃねえか、何で男同士でGWを過ごさないといけないんだ。マジで

泣くぞ俺!」

「お前に言われたくねえよ!俺も同じだし」


そう笑いながら話していて「だったらここでナンパしようぜ」とか言い出したが、

俺はナノカがいるから止めとくと断った。

そしてハンバーガーのゴミを捨てようとパーラーに行くと、大和の大学の先輩

がいて大和は仲良く話し始めていた。

その先輩は、身長は俺と同じぐらいなのだが、少し日に焼けた感じの色男だ。

その人に会釈をすると、その人は片手をあげて挨拶し、また大和と話し始めた。




「やーか、わんのいなぐ#$&‘+」


男の人が理由のわからない事を言いながら近付いてきて、右頬にいきなり左フ

ックを打たれ、後ろに飛ばされるとすぐに俺の腹にキックを入れてきた。

俺はそこから更に後ろに飛ばされ転がり、立とうと膝を付くと吐きそうになり、

さっき食べた物をほぼすべて吐いてしまった。


「死なすんどー!、たーに#$%&’+!」


また意味不明な事を言いだしたその人を、大和の先輩が後ろから羽交い締めに

して「アラー、止めいやー」とその男と知り合いだったようで何かを話して引っ

張るように連れて行った。

何かまだ意味不明な事を大声で言っていた・・・・・


「すまん大樹・・・・・まさかこんな事になるとか思わなかったから・・・・・」

「ごほっごほっ」


大和から飲み物をもらってうがいをすると、口の中が切れていて血も出た。

そして大和が理由を説明してきた。


「あの人は、昨年沖縄から引っ越してきた荒垣って言う人で、喧嘩が強く手が付

けられないぐらい有名になった人らしいんだよ」


喧嘩が強かろうが有名だろうが、何で俺に・・・・・


「あの人の彼女ってのが、ナノカみたいだぜ・・・・・」

「はぁ!ごほっゴホッ、そんな話し聞いてねえぞ!」


もう一度飲み物を口に入れてうがいをした。


「さっきの先輩が学校で言ってたんだが、連絡が取れなくなって無茶苦茶怒っ

てて、あっちこちで聞き回ってるって言ってたわ」

「・・・・・大和、オマエが俺を売ったのか!」

「俺は何も言ってねえ!まさかここに先輩と一緒にいるともわからなかった

し・・・・・荒垣は、俺達の同級生の何人かにも聞き回って誰と付合ってたか調べ

て殴ってるって言ってたんだよ」

「・・・・・」


俺が付合ってるのを知ってるのは大和だけじゃない。デートの時に何人かに見

られた事はあった。

突然殴られた事で興奮していたが、少し落ち着いてきた。

だけど、頭はこんがらがっている・・・・・

ナノカが数人の同級生と付合っていたと言われても、そんな風には見えなかっ

たし、俺も大和以外で仲の良い友達はいないが誰からも聞いた事が無い・・・・・

頬はどんどん腫れていっていた。

俺の頬を見た大和は「今日は帰ろう」と言ってきたので「ああ」と返した。




GW期間中に実家でナノカに何度も電話したが一度も繋がらなかった。

そして、GWが終わりアパートに帰ってからもかけたが繋がらなかった。

それから数日が経ってかけると「おかけになった電話は、現在使われていません。

もう一度・・・・・」という返答で、ナノカの電話が止まっていた。

もう連絡の取りようがない。

一応ナノカの学校は知っているが、住んでいるアパートまでは聞いていない。

何日か連絡が来るのをずっと待っていたが、一度も連絡は無く夏休みに入った。






♫~♫(電話音)

「もしもし、陽向ちゃんどうした?」

「渋谷の〇〇カラオケの前に今すぐ来て!」


時間が無いからと理由も説明されず、訳も分からないまま向かう事になった。

カラオケ店は、同じ学校の友達と来た事があったので知っている。

到着すると、陽向ちゃんはナンパされていたようで、俺を見かけると走ってきた。

男達は、舌打ちするような態度をとって離れていった。

陽向ちゃんのような娘が一人でいて声をかけられない方がおかしい。


「ごめんなさい、突然呼び出したりして」

「いいよ別に、今日は教習所も無かったし、夕方まで時間があるからそれまで暇

だったんだよ。それでどうしたの?」

「うん、一時間前にね、ナノカさんがカラオケ店に入っていくのを見たの」


えっ今店内にいるって事?


「・・・・・彼女達が入った後に定員に友達だから合流するって嘘付いて時間を聞

いたんだけど、もうすぐ出てくるかも・・・・・」

「彼女達って複数人で入ってるって事?」

「・・・・・う、うん、複数人て言うか、男の人と二人で・・・・・」

「・・・・・」


やばい、一瞬で血の気が引いた。

すると、陽向ちゃんの「あっ!」と言う声でカラオケ店を見た。

ナノカは男性と腕を組んで出てきた。

それを見て怒りがこみ上げてくる。

ナノカ達は、俺達とは逆の方に歩いていったので、追いかけて声をかけた。


「ナノカっ!」


するとナノカと男は振り返る。


俺を見た男がナノカに「誰コイツ」と言っていたが、ナノカが何かを言っていた

のは聞き取れず、その男はスタスタと一人で歩いて行った。


「ナノカ! あいつは誰なんだ?」

「誰って・・・・・彼氏だけど」

「彼氏って、俺と付合ってるんじゃなかったのか!」

「ええ、付合ってあげたわ」


何で過去形?


「付合ってあげたって、あげたって何?」

「だから!付合ってあげたでしょ!」


訳が分からない。

もしかして何も言われずに一方的に別れたって言いたいのか?


「俺達はいつ別れたんだ? 俺は何も言われてないんだが!」


そう言うと大きなため息を付いたナノカ


「別れるも何も、最初からあなたは私の彼氏じゃないでしょ!」


何言ってんだ?


「あなたはクリスマス前に、私に付合ってくれないかと言ったわよね。だから私

はあなたに付合ってあげたじゃない。あなたがどういうつもりで言ったのかは

私には関係無い! 私はあなたの事を好きとも言っていないし、あなたも私が

誰と付合っているのかも聞かなかったわよね!」

「・・・・・」


言葉が見つからなかった・・・・・


「あなたが何故私に付合ってと言ったのかは、だいたいわかってるわよ。後夜祭

で嵌められて、彼氏がいないと思ったからの行動だったんでしょ・・・・・あな

たと同じ考えの人が5~6人はいたわ」

「・・・・・」

「その内の何人かは彼氏がいるのか聞いてきたので、いると答えると諦めてくれ

たけど! あなたを含めた数人は、私が辱められてどんな気持ちだったかも考え

ずに告白して勘違いしたわ!」


それとこれとは別だろ。

そもそも嵌められた事はその時知らなかったし、それにあの変わり者と付合って

るのかをナノカの友達に聞いたから後夜祭の時は全然知らなかった事だ!

他に付合っている人がいるのかは確認していない・・・・・


「それに私は付合ってあげたし、あなたも私と寝たでしょ、それで良かったじゃ

ない。他の人は寝てもあげてないんだから!」


そう言ったナノカは冷笑した。

他の人って・・・・・それに今それを言われたら俺は何も言い返せない。


「ちなみに、私を陥れた人達ってどうなったか知ってる? 3学期は出席無しで

卒業式にだけ来てたわよね」


いや、興味が無かったから知らない


「・・・・・な、何かしたのか?」

「ふふふ、やってないわよ。私は悔しかったから彼氏に言っただけ。風の噂で聞

いただけで、彼女達は正月に夜遊びして数人にレイプされたって聞いたわ!」


そう言ったナノカは、破れるような大笑いをした。


「自業自得なのよ!自分の顔もわからず人に嫉妬して陥れるクズ達だったんだ

から! それにあなたも人の事がよく言えるわね。隣の可愛い子と楽しくやっ

てるようなのにね!」


それを聞いて陽向ちゃんを見ると、顔が青ざめていた。


「それじゃあ私は行くわ。また何かあったら”付合って”あげるわよ。そっか連

絡先を教えて無いから知らなかったか。まあいいわ、それじゃあね」


そう言ったナノカは、さっきの男の後を追いかけて行った。

クソッ! ナノカが言っていた事に段々と腹が立ってきた。

中1からずっと好きだった娘に告白して何が悪い!

ただちょっときっかけが悪かっただけなのに、なんだこの仕打ち・・・・・

悔しくて今にも泣きそうなぐらい胸が痛い。

・・・・・こんな状態でバイトに行くのは無理だ。

陽向ちゃんに声をかけようとしたが声が出せなかったので、軽く深呼吸する。

そして少し怒りの感情抑えて陽向ちゃんに言った。


「ひ、陽向ちゃん・・・・・今日バイト休むって店長に言っておいて・・・・・」

「た、大樹く・・・・・」


陽向ちゃんが言うのを無視して歩きだすと、陽向ちゃんが服の裾を掴んできた。


「離せっ!」


俺は思わず大声で怒鳴ってしまい、陽向ちゃんはビクッとして手を放した。

そして周りの人が見ているのに気付き我に返り


「ご、ごめん陽向ちゃん、一人になりたいから・・・・・」


そう言ってアパートに帰っていった。




―――――




次の日から熱が出て、俺は3日間バイトを休んだ。


ピンポーン♪

玄関の戸を開けると、陽向ちゃんが立っていた。

一応熱も下がり、明日からは教習所もバイトにも行けると思う。

だけど、今はまだ病み上がりなのでフラついていた。


「あの、店長がお見舞いに持っていってっ、、て・・・・・」

「・・・・・」

「そ、それで具合、、は?・・・・・」

「・・・・・ああ、まだフラついてるけど、明日からはバイトにも行けるよ」

「そうなんだ。えっと、これ」

「ありがとう。それじゃあ」


俺はパンの入った袋を受け取り、ドアを閉めようとすると陽向ちゃんが泣きそ

うな顔をしているのが目に入ったが、それを無視して戸を閉めた。

時間はPM4時ぐらいで、まだちょっとダルいので寝る事にした。






ピンポーン♪

チャイムで起こされた。

時計を見ると、PM9時を回っていて真っ暗になっていた。

部屋の電気を付け返事をして玄関を開けると、下の階の大家さんが立っていた。


「大樹くん、体調が悪いって聞いたけど、もし大丈夫なら今からちょっと下まで

来れるかしら?」

「はい、もう大分良くなった気がするので大丈夫ですよ」


そう言って階段を降りていくと、陽向ちゃんが俯いて待っていた。


「大樹くん・・・・・ダメよこんな可愛い子を何時間も待たせて!」

「あれからずっと待ってたの?」


陽向ちゃんは頷いて、泣きそうな顔で俺を見てきた。


「だって、だって私が大樹くんをあそこに呼ばなければ・・・・・あんな嫌な思いも

させなかったのに・・・・・」

「・・・・・もういいよ」

「私が嫌なの! 好きだから、大樹くんが好きなのにあんなつらい目に・・・・・」


そう言ってゆっくりと近付いてきた。

そして、俺のTシャツの袖を顔に当てると泣き出した。


「ごめんなさいい・・・・・」


ずっと我慢していたのだろう。大声で泣き出した。

俺達二人を見ていた大家さんが


「えっと、、、私は邪魔のようだから家に入るわね。それじゃあ後は任せるわ」


そう言ってそそくさと家の中に入っていった。




「もうわかったから・・・・・」

「ごべんなざい・・・・・」


ど、どうしたら良いんだろう。

俺が悩んでいると、彼女が俺の袖から顔を上げ、自分の袖で涙を拭いた。


「ごべんなさい。もう帰るね・・・・・」


そう言ってすぐに歩き出したので俺は後を追った。






彼女を送っていこう歩いていると、近くに小さな公園があったので、そこで顔を

洗って瞼の膨れが少しとれるまで話そうと言った。


「私は嫌な人間かも知れないけど、大樹くんの事が気になっちゃって彼女さん

が通ってる大学にいる友達に、彼女さんの事をいろいろ聞いたの・・・・・」

「・・・・・彼女じゃ無かったけどな」


そう言うと、また涙を浮かべ始めたので「もう良いから、大丈夫だからと」声を

かけた。


「4月にナ、ナノカさんが来た時の事を私に話したよね・・・・・妊娠してる友達

がいるって」

「・・・・・ああ」

「あれは、ナノカさんが妊娠してるんじゃないかって友達が言ってた・・・・・」


やっぱりか・・・・・この前の事もあって、そんな感じはしていた。


「ごめんね、人の彼女の事を調べたり、それを隠したりして・・・・・」

「良いよもう終わった事だし・・・・・」


あの5万円は結構痛かったけど、勉強代だったとして諦めるしか無い。

なんかその事を思い出すとまた腹が立ってくる。


「それでね、この前男の人と一緒にいる所を見かけた時、大樹くんに知らせたほう

が良いか迷ったけど、大樹くんは連絡がとれないって言ってたから・・・・・」

「・・・・・」

「言わないほうが良かったかな?本当に迷ったんだよ、あっちの人と喧嘩したらど

うしようとかも考えたし・・・・・」

「良いよもう。連絡出来なかったのは確かだから・・・・・」


もう本当に今更である。

あれで気付かなければ、どうなっていたかもわからない。

向こうの大学にまで行っていたかも知れない。




「もう目の腫れも引いてるようだから、送っていくよ」


そう言って立ち上がり、近くまで送って行くことにした。

陽向ちゃんもホッとしたように笑みを浮かべていた。




―――――




それから俺は、予定は少しくるったが車の免許も無事取得でき、そして冬休みに

なり正月は実家で過ごそうと帰ってきていた。

それと、現在は陽向ちゃんと付合っている。

今度はちゃんとした彼氏と彼女の関係だ!


「大樹、聞いたかよ! お前を殴った荒垣な、8月に捕まって今は年少に行って

るらしいぜ。それも2回目のな」


2回も入ってるのか?


「沖縄でやらかして、静岡に来てからもって笑えるな!」

「それより、あいつって何歳なんだ?」

「俺等と同い歳らしいぜ」

「・・・・・」

「それで今回捕まった話しなんだけど、今回は俺達がいた学校の生徒をレイプし

た事がバレての逮捕らしいぜ」


そう言った大和は大爆笑していた。

だが俺は、前に聞いていた事なので笑えなかった・・・・・


「それと話し変わるけど、ナノカはモデルデビューしたんだってよ。お前に嫌な

思いさせたから言うの迷ったけどよ・・・・・」

「・・・・・良いよ気にしてないから・・・・・それに今は陽向ともちゃんと付

合ってるし、アイツがどうなろうとどうでも良い」

「アイツって・・・・・それより、ラブラブ自慢かっ!」


大和は現在恋人募集中のようだ。

この前まで付合ってたようだけど、1ヶ月程度で別れたらしい。

それと俺は、アイツの名前も口にしたくなかった。




―――――




そしてまた1年が経ち20歳の成人式を迎えた。

俺はあれからずっと陽向と付合っていて、今は毎日楽しくすごしている。


「大樹―!」

「おお大和!」

「よー、今年も面白い情報を掴んだぜ!」

「オマエは探偵やってんのか? それにどうせアイツの事だろ・・・・・」

「違う違う。ナノカの事ではあるけどな、荒垣が年少から出てきたらしいんだよ。

そしてな、少し有名になったナノカを追いかけて暴力を振るい、顔に傷も付けさ

せられ歯も折ったらしいぞ」


モデルデビューした後に、夜中だがテレビにも出ていたらしい。


「ごめん、嫌な事されたけど、そんな話しはあまりいい気分がしないな・・・・・」

「そ、そっか、ごめんな・・・・・それで荒垣なんだけどよー、色々合わさって懲役

10年になったようだぜ」

「10年! それでも30では出てくるのか」




―――――




それから更に3ヶ月が経ち、俺は卒業して叔父が静岡市で経営している小さな

IT企業に就職が決まった。

そして4月からは、陽向と一緒に静岡で暮らす事も決まっていた。


ちなみに、大和と就職祝いで飲んだ時に聞いた話しなのだが

ナノカは顔に傷が残り、レイプ事件に関わっている事も荒垣に暴露され、それか

ら妊娠していた事も公になり、モデルと芸能活動が終わったようだ。

そして大学は、出席日数が足りなくなったようで辞め、現在は何をしているのか

もわかっていない。


可哀想なので、もしどこかで声をかけられたら気持ちよく・・・・・無視してあ

げよう。

もうあのようなトゲのある人には二度と関わりたくないから・・・・・




これは、専門学校時代に起こった絶対に忘れられない記憶だ。








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