表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪解け水  作者: わたぬき 喫茶
雪解け水 第1章
8/69

雪解け水 1章の7

前回のあらすじ:父さんのせいで総合優勝もシードもどうなったか見逃したんだよなぁ

 ――大きい……

 吹き抜けの高い天井。差し込む明るい光の下、行き交う人々。大人、子ども、お年寄り。車いすを開いて、看護師が杖をついた女性を座らせる。窓口では書類を持った人々が並んでいる。

 ふと、制服を着た女性が「すみません! 忘れ物!!」と走り寄ってきた。慌てて道を開けると、車いすを押した男の人が振り返って照れながら笑って頭を下げる。アナウンスは休むことなく流れて、エレベーターは人々を運び続ける。まるで、大きな街の中に迷い込んだようだった。

「こっち……」

 先を行く志歩が振り返って目を丸くする。直哉は、怯えた子犬のように立ち止まって震えていた。

「……大丈夫?」

 歩みを戻してそっと触れない距離で志歩が囁く。首を振ったつもりが、錆びついたネジのように微かに動いただけだった。

「……無理……」

 足が動かない。大きな病院とは聞いていたが、これほどとは思わなかった。エレベータ

ーがある病院なんて初めて見た。今通り過ぎた先生だって、タリーズのテイクアウトカップを持っていた。タリーズ? タリーズのある病院とかはじめて見たんだけど。

 頭の中で巡る声がじわじわと汗をにじませる。志歩の紺色のコートの裾だけを視界に入れて、なんとか安全な場所を確保した気になっていた。

「君の側には僕がついてる。大丈夫」

 現実逃避をはじめる直哉を志歩が促す。だけど、顔をあげられない。優しい言葉を期待した。

「今ここで帰ったら、また同じことの繰り返しだ。さぁ、行こう」

 泣きそうになってしまった。自分と志歩の側を若い女性看護師たちが笑いながら通り過ぎる。情けない。これじゃあ病院が怖い子どもだ。

「直哉くん」

 促されるように呼ばれてぐずぐずと渦が巻く。だって、藤田さんは強いじゃないか。人当たりも良いし、社交的だし、きっと自分なんかとは違う。同じ病気だなんだって言っても、元が違うんだ。だから……

 訴えるように顔をあげた。志歩のまっすぐな目とぶつかる。

「直哉君、自分のせいにしない。怖いのは仕方ないし、君のせいじゃない。君と僕は違わない」

 ぴたりと震えが止まった。驚いたのだ。思わず志歩の手を探したが、ちゃんと二つとも彼の身体の横にあった。ぽけっと口が開くと、志歩はくすりと笑った。

「まさか心を読んだと思った? 君の顔を見てればわかるよ」

 その言葉に返事をする前に、志歩は懐かしいものを見るように優しく言ってくれた。

「僕も苦労したって言ったろ。大丈夫、行こう。僕の後ろを歩けば、そんなに人にぶつかることもないよ」

 言い終わる前に半ば歩きだす。慌てて付いていくと、思ったより簡単に身体は動き出した。それでも志歩の一歩一歩の方が大きい。背の違いもあるだろうが、直哉にはそれが志歩の強さのように思えた。

 ――いいなぁ……

 堂々と歩けて。自分も、こんなふうになれるのだろうか。こんなおかしな病気を克服して、志歩みたいに颯爽と人の間を渡ることができるのだろうか――できれば、なりたい。

 志歩の後ろ姿が、うらやましかった。


挿絵(By みてみん)

続きます。今回はちょっと短いですが、確かこの後もっと短い回もあったはず笑。

大体原稿用紙2~5枚あたり、文字数でいえば1000~3000ぐらいを一回量と思ってますが、話の展開や当時書いてたときのスピードとかで変わってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ