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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

従者の私とお嬢様

作者: 埃宮真琴

よろしければ感想等貰えると嬉しいです。

好評なら続きを書くかもしれないです。


「……お嬢様ー?」


広いお屋敷。

広い廊下。

広い部屋。

何もかもが広くて大きい、そんな場所に自分の声が響き渡る。


「お嬢様ー、そろそろお時間ですよー」


目的の人物を探して色々な場所を歩きながら、声をあげる。

しかし、返ってくるのは欲しい返事ではなく、自分の探し求める声だけ。

1部屋、また1部屋と、探しては見つからず。

次へ次へとまた進む。


「……お嬢様?」

「……」


そんな中、とある部屋へと入った時のこと。

カーテンが不自然に膨らんでいるのが見えた。

やっと見つけた。

そう思って声をかけるが、返事がない。

確かにそこにいるのに、返事がないのだ。

もしかしてと、急いで駆け寄って声をかける。


「お嬢様、だいじょう……」

「あっ、ヒナちゃ!」


しかし、そんな心配はつゆ知らず。

こちらに気がついたお嬢様は、ニコッと微笑む。

……心配して損した気分がする。

まぁ、何も無くて安心したからいいんだけど。

……また、レナに過保護って言われそうだ(からかわれる)なぁ。


「……今日は何をされていたんですか?」

「えっとね、これっ!」


からかうように笑う同僚の姿を端の方に追いやり、お嬢様に話しかける。


そう言って、お嬢様は後ろからなにかを取り出す。

それは――


「……花の冠、ですか?」

「そうっ!レナにつくってもらったの!」

「……そうだったんですね」


花で作られた冠。

確か花の名前は……シロユリだ。

庭を通るときによく見るし、名前も見た目も似ていたから、すぐに思い出すことができた。

そんな花冠を持ちながら、お嬢様は嬉しそうに笑っている。

んー、本当に可愛らしい。

流石レナ、略してさすレナ。

……ただ、レナは後で話を聞く必要がありそうだけども。


「そしてね、これもっ!」

「……指輪ですね」


じゃーんと自慢げに出されたのは、お嬢様の小さな手。

そんな小さな手の薬指にはシロユリとは違う花の指輪が嵌められていた。

……あれは確か、シロレンゲ。

クローバーの花だったはずだ。

ただ、サイズはあっておらず、ブカブカで今にも外れて落ちてしまいそうだった。

何故ブカブカなのだろうか。

レナがそんなミスをするとは思えないが……。


「これはね、シーナがつくったの!」

「お上手ですね」


そんな私の疑問は、お嬢様の自慢げな一言で解決した。

どうやら、お嬢様が自分で作ったかららしい。

……確かに、自分の指に嵌めながら作ることは大人だとしても簡単なことではないだろう。

故に、お嬢様の指よりも大きなサイズになってしまい、ブカブカになってしまった、と私は予想した。

これは、調整するべきか、それとも思い出としてそのままにしておくべきだろうか。


「でねっ、ちょっとうしろむいてて!」

「はい?……わかりました」


そんなことを考えていると、お嬢様が嬉しそうにしながら謎のことを言い出した。

突飛なことだったので、驚きつつも言われたようにお嬢様から目線が外れるように後ろを向く。

すると、後ろの方で身動きする音とカーテンの動くシャーッという音が聞こえてきた。

一瞬、不安が過ったものの音は不規則ながら、継続的に聞こえてきたので、心配事はないと判断するのに時間はかからなかった。


「うんっ、もういいよ!みてみてっ!」

「どうか……」


1、2分待っていると準備ができたのか、後ろを向いて良いと許可が出る。

お嬢様は何をしていたのだろうか、何を見せたいのだろうか。

期待を抱き、後ろを振り向く。

……そこには、天使(のようなお嬢様)がいた。

先程の花冠を頭にのせ、白いカーテンに包まれながらニコッと笑うお嬢様。

それはまるで――


「こうすると、えほんでみたおよめさんみたいでしょ!」

「っ!」


思っていたことがお嬢様の口から告げられ、ドキリとする。

その言葉は、あの時の言葉と一緒で。


『ごめんなさいね。ヒナ』


「………………っ」

「ヒナちゃ?」

「お嬢様……どうかしましたか?」

「……にあってなかった?」


|思い出したくもないものを思い出して《フラッシュバックして》しまい、固まっていると、くいくいっと服の裾を引かれる感覚がして、意識がはっきりとする。

引っ張られた方を向くと、不安そうな顔をするお嬢様がいた。


……大丈夫だ。

このお嬢様は、彼女(・・)じゃない。

そう自分に言い聞かせてお嬢様の目線に合わせるようにしゃがむ。


「いえ、すごく似合ってますよ。可愛すぎてびっくりしてしまいました」

「えへへっ」


不安そうな表情のお嬢様に思ったことを伝えると、ふにゃりと嬉しそうに笑った。

その笑顔は、とても眩しくて、懐かしくて。


「っ……お嬢様。そろそろ」


私は、その眩しさ(懐かしさ)から逃げるように立ち上がる。

ダメ。

ここに居てはダメ。

私のせいで……また(・・)

それだけはダメだから。

だから――


「あっ!待って!」

「……どうかしましたか」

「ヒナちゃ、しゃがんで!」

「……?」


そんな私を引き止めるかのように、お嬢様が声を上げる。

無視することもできず、なるべく表情を取り繕ってから、再度お嬢様の方を向く。

お嬢様は何かを思いついたようで、もう一度しゃがむように促してくる。


「しゃがみましたが……」

「てぇーだして!」

「……はい?」


何をしたいのかわからず、言われた通りに利き手である左手を差し出す。

すると、お嬢様はつけていた花の指輪を外して、私の薬指に嵌める。

お嬢様がつけてくれた指輪は、私の指にぴったりのサイズだった。


「おじょ……」

「これで、ヒナちゃもおよめさん!」

「……へ」

「ずーっと、いっしょだよっ!」

「っ!」


お嬢様の行動に驚いていると、お嬢様はそんなことを言う。

全て見抜いているぞ、と言われているような気がした。

……そんなはず、あるわけないのに。


「……ふふっ」

「……ヒナちゃ?」

「ありがとうございます、お嬢様」

「えへへっ」


……ただの気まぐれ。

意味なんて、殆どないに等しい。

そうわかっていても、すごく嬉しかった。

ここに居てもいいよって、そう言われたように思えたから。


「……そろそろおやつの時間にしましょうか」

「するー!」

「それじゃあ、いきましょうか」

「うんっ!」


心を切り替えて、ここに来た目的を果たすことにする。

手を広げて待っていると、お嬢様はパッと抱きついてくる。

その姿は、まだまだ甘えたがりな小さな女の子だった。


……お嬢様は彼女じゃない。

もう一度自分に言い聞かせる。

……大丈夫。

私も変わるって決めたんだから。


「きょうはなぁに?」

「……今日はですね、ヒナ特製のクッキーです」

「やったぁ!」


腕の中で嬉しそうに手を上げて喜ぶお嬢様は、とても可愛らしかった。






「……すぅ……すぅ」

「……寝てしまいましたか」


お菓子を食べた後、眠くなってしまったらしいお嬢様をベッドに運ぼうと抱っこしていると、そのうちに首のあたりから寝息が聞こえ始めた。

どうやら眠ってしまった(夢の世界へ旅立った)らしい。


「ん……えへへ」


足早に、けれども起こすことなくお嬢様の部屋へと向かい、ベッドへ降ろして寝かしつける。

幸せな夢を見ているのか、お嬢様は寝ていても嬉しそうに笑っていた。


……こんな可愛らしい方があんな悲劇(こと)に巻き込まれるのは、やはり許せない。


だから、私は抗おう。

そう遠くない未来に訪れる、破滅の運命に。

何もできなかった過去を乗り越えるために。


そして、戦おう。

お嬢様を害する者たちから守るために。

お嬢様が笑って過ごせる世界のために。


そして、守り続けよう。

いつか、そう遠くない未来に貴方を幸せにできるどこかの誰かが、貴方を連れ去って行ってしまう、そんな日が来るまで。

私の命が尽き果てるまで。


そのための、二度目(・・・)の人生なのだから。


「おやすみなさい、お嬢様。良い夢を」


そう決意を新たにして、幸せそうに眠るお嬢様の頭を撫でてから、私は部屋を後にした。


「あ、レナに詳しく話を聞かないと」

それぞれの意味

花冠→永遠の幸せ

白百合シロユリ→純粋無垢、無邪気、栄華

指輪→永遠の繋がり、幸福は回ってくる

左手の薬指→愛してる、願い事を叶える

白詰草シロレンゲ→約束、私を思って、復讐、執着

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