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あらすじ 勇者編




 隣に裸のルーミアが寝ていた。


 瞬間、ガクの脳内に流れ出す昨晩の記憶、全てを思い出すことは出来なかったが、ルーミアの寝顔を見て、思わずガクはその髪を撫でていた。


「しばらくしたらルーミアも起きてな、『病み上がりにも容赦ないのね』とか『式場は魔王を倒してから決めよう』とか話したりした、約束は約束だからな『魔王を倒して、その時二人とも生きていたら結婚しよう』って婚約した」


 その後、ルーミアを探しに来たシンシアを何とか追い返して、ガクたちはメリアの知ってる元勇者パーティーの一人の家に向かった。


「どんなよぼよぼの婆さんが出てくるかと思ったら、ぱっと見メリアの五歳くらい上の見た目をしたお姉さんが出てきた、聞けばホントに自分の姉さんだっていうじゃねえか、前回魔王が討伐されたのは二世紀以上前だって話だったからな、流石に年齢は聞けなかった」


 以前と場所が変わっていなければ、再び海へと出て、南東にいった所にある火山の中に魔王城への入り口があるという。


「火山の中で暑さにやられないように、身体を一定の温度に保つことが出来る魔法も教えてもらった、確かルーミアとメリアが覚えたんじゃなかったかな、で、代わりに里に入るためのダンジョンにいる機械人形を何とかしてくれないかって頼まれた」


 本来であれば、あれはエルフの里に入る侵入者を抹殺するための物なのだが、外に出たエルフが中に入るときでも問答無用で斬りかかってきてしまう。


 これはエルフが里の外に出ていくことを想定していなかったため、何世紀も前のエルフがただ目の前の侵入者を斬るよう命令したためだという。


「外に出ていった他のエルフが帰ってこれない原因になってるんだと、そもそもダンジョンの入り口すら特殊な魔法で隠されてるから、普通の方法じゃ入ってこれねぇ、むしろ機械人形邪魔なだけじゃねって事で全部ぶっ壊してくれねえかって言われたんだ」


 ガクたちは壊すまでもなく、例の道具を使ってエルフには手を出さないように命令を上書きした。


「用も済んだし、出発しようとしたら筋肉モリモリマッチョマンのエルフの男衆がワラワラやってきてな、エルフっつーのは高い魔力が売りの魔法一族みたいな種族なんだが、魔法で優劣のつかなくなった男どもが何故か筋肉に憑りつかれちまったらしい、そいつらが自分たちも連れて行けっていうんだぜ、びっくりだろ」


 筋肉ですら優劣のつかなくなった男共は、魔王を倒したやつが里で一番かっこいい奴という理論で着いてこようとしていた。


 話し合いの結果、確かに戦力になるからと同伴を認める運びとなった。


「あいつら、斧とか大剣背負って着いてくるんだよ、普通杖だろ、一気に大所帯になったが、何とか港町まで戻って船で出港した、街に入った瞬間、魔物の群れだと思われて取り囲まれたりもしたけどな」


 船で食料は自分たちで調達すると言って、何人かが海に飛び込み、拳の跡が付いた魔物を背負って戻ってくる何日かを過ごし、やがて船は火山の存在する島へと辿り着いた。


「メリアの姉さんから教えてもらった魔法が凄いのなんの、火口付近に行っても全然暑くないんだよ、エルフの馬鹿どもは誰が一番最後まで根を上げないかで競い合ってたけどな」


 火口付近に存在するダンジョンに二十人程で潜っていく。


「流石に魔王城に近いのもあって魔物も強いのが多かった、遭遇するどの魔物も心の声が聞こえる位だったな、まあ筋肉の前には無意味だった、誰が一番魔物の攻撃を耐えられるかみたいなことをやり始めた時は流石にキレたよ」


 しかし、最下層に行くに連れ、負傷者も多くなり、傷は治せても疲労は溜まっていく。


「思い返せば、あれは俺らが魔王と戦う前に無駄な消費をしないようにしてくれたんだろうな、で、ダンジョンの地下には魔界に通じる扉があった、入るとそこは別世界に繋がっていて、俺たちはメリアの姉さんが昔に作った安全な場所に向かった」


 魔物が寄り付かない結界を張った空間は、まだ存在していた。


「魔界ではそこを拠点にしてたらしい、家も建ってたが人数的にどうしても入らなかった、まあゴリマッチョ達が近くの木から魔法でロッジを作ってそこで寝るとか言ったから、何とかなった」


 一眠りすれば、魔王討伐に向け、既に見えている魔王城に向かうことになる。


「英気を養う為に俺たちは寝ることにした、俺、シンシア、ルーミア、マヤ、メリアの丁度五人分の部屋はあったから、それぞれの部屋を決めて俺はベッドに入った」


 夜、かどうかも魔界では分からなかったが、ガクは考え事をしていたせいでしばらく眠れなかった。


「決めていたことがあったんだ、で、俺が部屋を出ようとした時、丁度ドアがノックされた」


 開けてみると立っていたのはシンシア。


「…まあ正直薄々そうなんじゃないかって気付いてはいたんだ、確信はなかったけどな」


 しばらく動かないシンシアに声をかけようとした瞬間、ガクはその唇をシンシアに奪われた。


「その後は……まあ、察してくれ、途中シンシアの方から無事魔王を倒せたら結婚してくれって婚約された、断るわけもなかったさ…、疲れ切って寝ちまった裸のシンシアを自分の部屋に運んでいって、俺は家を出た」



 ガクは単身、魔王城へと乗り込んだ。



「装備は持った、置き手紙も残した、勝算はあったと言えばウソになるが、丸っきりゼロって訳でもなかった」


 酒を飲み、酒気を帯びる。


「これまでの旅で俺は気付いた、強い敵に俺の姿は見えていない…確信したのは大臣と戦った時だった、心を読んで分かったんだが、大臣は俺が武器を持った瞬間まで俺の存在を認識していなかった」


 単にガクが弱すぎて見るまでも無かったという訳ではない。


「俺には魔力が()()、大臣は魔力を感知することでシンシアの位置を把握していた、目で追うよりもそっちのほうが確実だからだ、だから魔力で感知できねえ俺を目で見て意識を向けるまで認識できなかった」


 自分なら魔王だって暗殺できる。 現にガクは魔王城までどの魔物にも遭遇することなく到着することが出来た。


「正直言うと、俺は死のうと思ってた、まあ重婚も重婚、七人とも婚約しちまって誤魔化しも効かねえ、死んで詫びるって訳じゃねえけど他にやりようも思いつかなかった、道中俺が死んだ後のことばっか考えてたよ、罪悪感でおかしくなりそうだったが、だったら初めからやるなって話だよな」


 ガクは最期の晩餐とばかりに酒を飲み干し呟く。


『ここが、俺の葬式場か……』


 魔王城へと侵入し、ガクは闇の中へと消えていった。



「ここに来てしょうもないことを言ってるのは分かってる、でも言わせてくれ……気が付いたら俺はベッドの上で寝てた」


 見知らぬ天井を目にして飛び起きるガク、そして横に視線を向けると───


「───横には裸の知らないお姉さんが寝てた」



 ガクは逃げた。




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