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【完結】どうやら、乙女ゲームの皮を被ったRPGの令嬢に転生したようです  作者: 田中佳奈
第1部 どうやら、少女は企てるようです
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どうやら、ボスが乱入してくるようです

「手応えないな~」

「まあ、上層だしこんなものですよ」


 ゴブリンを切った剣を鞘にしまいながらマシューがぼやき、マーキスもそれに同意する。

 レベルも才能もあふれる彼らからしたら、物足りないだろう。

 学園長は15層までなら大丈夫と言っていたけど、油断しなければ20層のボスも倒せると思う。


「そうだね。でも、次はボスだから油断しないようにね」

「わかってるよ」


 シュルツが緩んでいた空気を引き締める。

 さすが王太子。締めて欲しいタイミングがわかってる。

 まあ、内心ではマシューと一緒だろうけど。


 10層へ続く階段を降り、ボスがいる部屋の扉の前に着く。

「それじゃあ、行こう」シュルツが合図し、扉を開け中に入る。


 部屋の中心にトレントが待ち構えている。高さは3メートルほど。

 事前に決めていた作戦通りにみんなが動き出す。

 マシュー、マーキス、私で、枝による攻撃を防ぐ。その間にアリスの魔法にシュルツの支援を乗せ、放つ。それを繰り返す。

 作戦とも言えないゴリ押しだ。

 今の私が出せるブロックの数は3つだから、同時に6本までは防ぐことができる。


 ガッと鈍い音を立て、それぞれ攻撃を防ぐ。


「───みんな離れて!いくよ!ファイア!」「アボーブ!」


 アリスの声が聞こえ、トレントから離れる。

 魔法が直撃し、火をまとったトレントが苦しみだす。火がおさまるまで様子を見る。

 やっぱり木だからだろう。よく燃える。

 火がおさまり、攻撃が再開する。先ほどと同じように3人で防ぐ。

 3回目のファイアで倒せてしまった。時間にして10分もたっていない。

 消えていくトレントを見ながら、みんなは何とも言えない表情になっていた。


「……弱すぎません?」

「これなら、お前らと訓練してた方が手応えあったぞ」

「……そうだね」


 ボス戦なのに、誰もレベルが上がらなかった。これも何とも言えない表情をさせる理由の一つだ。

 みんなの想像では、もっと白熱した戦闘になると思っていたらしい。

 私からすれば、まあ、こんなもんだよねという感想しか出てこない。


「とりあえず、11層に降りよう」


 シュルツが下に降りるための扉に手をかける。


「……あれ?開かない」


 困惑した声が聞こえる。

 と同時に床に魔法陣が浮かび上がった。


「ねえ!なんか変だよ!」


 アリスが叫び、足元の魔法陣から離れようとする。

 その中から4メートルもの鈍色のサソリが現れた。

 ───どうして、あんな奴が!

 それは、40層のボス、エンシェントスコーピオンだった。


 ※


「───下がれ!」


 シュルツが叫ぶ。

 エンシェントスコーピオンが鋏を振るい、マシューとマーキスが壁まで吹き飛ばされる。二人の体が光り、姿が消える。強制脱出魔法が発動した。

 奴の顔がアリスを向く。───動揺して動けていない。


「───っ!グラビティ!」


 時間稼ぎにしかならないけど、動きを阻害する。

 シュルツがアリスの手を引き、その場から逃げ、私のもとに駆けてくる。

 ───アリスたちを守りながらじゃ、こいつを倒せない。


「シュルツ!アリス!脱出魔法を使って!時間は私が稼ぐから!」

「───そんなっ!クロちゃん!」

「……わかった」

「シュルツ!?」

「クローディアもすぐに脱出魔法を使うんだよ?」

「そのつもりよ。さあ、早く!」


 グラビティとブロックを発動し、エンシェントスコーピオンを足止めする。

 二人が強制脱出魔法を使用し、姿が消えたことを確認する。

 ……ふう。やっと一人になれた。


 さて、二人は混乱して気が付かなかったようだが、こいつを倒すために残る必然性はない。なぜなら、攻撃が当たっても強制脱出魔法が発動するし、時間が少しでもあれば自分で発動させることもできる。戻ってから学園に報告すれば、誰かが倒してくれるだろう。

 中層のボスといっても、下層へ行っているハンターたちから見れば、何度も倒している相手なのだ。

 ならばなぜ、二人に誤認させるようにしたのか。

 それは、こいつを倒せばレベルキャップを解放するアイテムがもらえるからだ。

 40層のボス部屋は、砂漠になっている。熱いし、足をとられるし、砂に隠れて攻撃してくる。ソロだとレベル上限まで上げないといけないだろう。

 それがどうだ。今はそんな枷はなくなり、なんなら、敵側にハンデがつけられている。

 このチャンスを逃すわけにはいかない!

 欲に溺れた私は、ここで倒すことを決意したわけだ。



 やる気満々の私に、敵意に満ちた視線を向け、飛びかかるサソリ。

 振るわれた鋏をブロックで防ぎ、サソリの横に回る。

(───まずは機動力を削る!)

 グラビティで動きを抑え、足の付け根を狙い魔法を放つ。

(───レーザー)

 ジュっと音が聞こえ、足が2本焼ききれる。

 構わず鋏を振るってくる。ブロックで防ぎ、腹の下をくぐり抜け反対側へ。

(レーザー!)

 同じように足を2本焼き切る。

 がむしゃらに鋏を振り回し、私を遠ざけようとする。

 すぐさま後ろに跳び。

 尾を私の方に向け、針を飛ばしてくる。

 ブロックで防ぎながら、サソリを中心にぐるりと走り回る。

 近づかせまいと、連続で針を飛ばしてくる。

 (……んー、試してみるか)

 ふと、思いついたことを試す。

 ブロックをサソリの腹の下に出し、ひっくり返せないかと試す。

 すると踏ん張ることができずに簡単に仰向けになってしまった。ひっくり返ったせいで尾も満足に動かせなくなっている。

(できちゃった……)

 すかさずグラビティをかけ、戻ろうとするのを防ぐ。

 まずはレーザーで尾の付け根を狙う。その後、残りの足も焼き切る。


 鋏を片方焼き切ったところで、エンシェントスコーピオンの体が消えていく。と同時にレベルが上がった。

 一気に36になった。

 忍び込んでたらもっと上がったのに……。少し残念。

 完全に姿が消えると、銀色のシンプルな腕輪が落ちていた。

 それを拾い、しげしげと眺めてしまう。


「これでレベルキャップを解放できるのかぁ」


 予定よりも早く手に入れることができ、頬が緩む。

 にやにやとしていると、床に魔法陣が浮かんだ。


 すぐさま後ろに跳び、宝具を構える。

 ───これ以上は勘弁して!


 魔法陣からは、学園長が現れた。


「……後で学園長室に来るように」


 ……やらかした。

 緩んでいた頬が引きつっていくのがわかった。

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