牛の首
こんな都市伝説をご存知だろうか。この世にはあまりにも恐ろしい怪談が存在しており、それを聞いたものは恐怖のあまり死んでしまう、というものだ。ホラー好きなら知らない者はいない『牛の首』である。
さて、牛の首と聞いて何を思い浮かべるだろうか。普通の人間であれば恐らくこの1つのものが頭に浮かぶだろう。
トロフィーハンティングである。仕留めた動物の剥製などを飾るのだが、壁から生首が生えているような金持ちの家を見たことはないだろうか。私はない。テレビで見たことはある。
大きなツノを持つ牛はトロフィーハンティングにもってこいなのである。確かに不気味だが、怖いかと言われればそんなに怖くはない。
ではなぜ怪談の『牛の首』は怖いのか。今回はそれを説明していこうと思う。トロフィーハンティングの話はもう永遠に出てこないので脳の片隅か離れか別荘にでも追いやっていただきたい。
あなたは『牛』と『首』という単語を見て何を連想するだろうか。「だから、トロフィーハンティングじゃないの?」と思ったと思うが、もう少し考えてみてほしい。
そう、福島県会津地方の張子の郷土玩具『赤べこ』である。この赤べこはいつも首を振っているのだが、なぜ赤べこが首を振っているのか、なぜ赤べこはこんなにも赤いのかということを考えたことがあるだろうか。
赤い理由はすぐに思い浮かぶだろう。そう、血だ。しかもこれは返り血である。赤べこは常に他の生き物を殺し、その返り血に染まることで己の心を満たしているのだ。
殺害方法は撲殺のみである。頑丈な頭部を何度も獲物に打ちつけることで絶命させ、頭部を使って滴る血を振り撒き、体中に浴びるのだ。
私は以前赤べこに取材をしたことがある。赤べこの住むマンションにてこの話を聞いている途中、私はあることを質問した。
「もう真っ赤になってるのに、なぜまだ殺すんですか」
こう言ったのだ。返り血を浴びに浴びたその体は非常にツヤのある漆器のようになっていた。ゆえに、すでに目的は達成されたものだと認識していたのだ。すると彼はこう答えた。
「おれか、おれはただ殺している」
赤べこはおもちゃ箱をガサゴソと探り、本のようなものを取り出し、私に手渡した。
『虐殺日記』
表紙にはそう書かれていた。
「読んでみよ」
赤べこがそう言ったので私は日記を開き、最初のページを読んだ。
『今日は300人殺した』
1ページにたったこれだけのことが書かれている。次のページをめくる。
『今日は255人殺した』
それからも代わり映えしないページが続いた。しかし、6ページ目にして初めての変化があった。
『今日は休み。1日中家でゴロゴロ』
虐殺日記なのに休みの日のことも記録しているのか。勤勉だな。平均とかを出すのだろうか。
『今日は1999人殺した』
それからも週に1度の休日以外のページは全て虐殺を記したものが続いていた。
そして、とうとう今日の日付のページまで読み進めた。
『今日は休み。家にいるけど1人殺した』
赤べこを見ると、ゆっくりと首を振り始めていた。
筆者の死エンドだと思っただろうか。しかしよく思い出してみてほしい。私は過去の出来事としてこの赤べこの取材の話をしたのだ。つまり、私は生きているということだ。
ではどうやって危機を切り抜けたか、その秘密は私の石頭にある。私は稀代の石頭なのだ。その硬さを測るために過去に何度も人体実験をされたことがあるのだが、その結果私の頭蓋骨は地球上に存在しない物質で構成されているということが分かった。
私の生まれは北に4兆光年離れた0等星『吉田』であり、当時胎児だった私は光の4000兆倍の速度で出産され、その勢いのまま9時間弱かけて隕石として地球にやってきたというのだ。その時も頭から突っ込んだらしいのだが、私の頭部にはかすり傷ひとつ付いていなかったという。
そんな私の頭で赤べこの殴打に応戦したのだ。応戦と言っても特に私は何もしていないのだが、赤べこが敵わぬと知りながら私の頭を90回以上殴打したのである。その頃には赤べこの血が部屋中に広がっており、私のスキンヘッドは真っ赤な漆器になっていた。
つまり、私は2代目赤べこになったのである。非常に残念なことだが、赤べこから血が出てしまってはもうおしまいなので、彼には死んでもらった。
現在私はこの石頭を活かして虐殺をしている。それなりに給料もいいし、休みはちょっと少ないけど必ず取れるし、良いバイトだよ。
お、君ちょっと頭割ってく? おいで〜
わざわざ言ってくる人もいないと思いますが、世の中お節介な人もいるので一応言っておきます。
例の企画とは一切関係ありません。普通に有名な話を語ってみただけです。なのでキーワード忘れてるよとか言わなくていいです。
ずっと目が死んでるのであまり人の作品を読めませんが、例の企画の作品たちは300年後くらいに読んでみたいと思います。