旅立ちの覚悟
気がつけば、一地域の戦士に収まっていた。
この戦士の知識だって、元々は冒険者になることを考えた上で導き出された知識だったのに。
もらったライセンス。
そこを埋めるための試験。
習得されていく様々なスキル。
その証明となるレベル。
それに伴って任される、ドラゴン退治の依頼。
報酬。
全部、そこで満足していくように構築されていて、まんまと乗せられていた。
あの少女──ココのライセンスは、国が管理している大手のものだった。
“前”の世界でもオレより仕事が出来るだろう、という予測は正に大当たり。
オレのように小さな派遣処の登録証じゃない、支部があるところでその日一日だけ所属とかも出来る、しっかりとした登録証。
だから彼女は、冒険者として動くことも出来る。
……いや、そんなものは言い訳か。
登録証は、その派遣処を辞めたところで、返還する義務はない。
そのまま自らの実力を示すものとして持ち続けることは可能となっている。
最終登録日から一年を過ぎたものは信用度が落ちるだろうし、小さな派遣処だから別の国に行っても大した証明にはならない可能性が大きい。
しかも、元の派遣処に戻ってこなければ更新もできない、タイムリミットがある代物でしかない。
けれども、出ていくことは出来る。
今から冒険者になることだって、可能なのだ。
こんな世界になって、オレが最初になりたいと思っていた──ココのようなことが、今でも。
「…………」
◇ ◇ ◇
その考えに行き着いたら、もう止めることは出来なかった。
一ヶ月。
派遣処を辞める前に言っておかなければならない期間は過ぎた。
今日でオレは、この派遣処を辞める。
冒険者となるために。
「…………よしっ」
自分のライセンス──昨日更新を行い、最終登録日が更新されたライセンスを見て、気を引き締める。
とりあえずは、どこか誰かの冒険者の中に混じることを考えよう。
オレのライセンスが一年経って使えなくなるとしても、その冒険者が国中に派遣処を置く大手であれば、関係がなくなる。
……いや、違うな。
そんなマイナス思考でどうする。
この国で無理だっただけで、別の国の別の大手なら、いけるかもしれない。
何より今は、Lv99のライセンス持ちだ。
世界が変わったばかりとは違う。
身体捌きも、知識も、スキルの数も……この三年で積み重ねられた経験は、かなりのもののはずだ。
だからまずは、
「隣の国の大手派遣処、だな」
誰かに縋るような生き方よりも、その方が冒険者らしい。
こんな世界になったばかりの、あのワクワク感が少しだけ、胸の中で踊りだす。
この世界でこじんまりとして生きていこうとしていた自分とはさよならだ。
これからはちゃんと、戦士ではなく、冒険者として。
この世界を、生きていこう。