女の子の話
「この世界改変、都合が良いと思いませんか?」
「……どういうことです?」
年下、と分かったところで敬語が取れないのが、オレの悪いところだ。
社会人としての癖みたいなもので、友人と呼べるほどの仲にならない以上はどうしてもこうなってしまう。
「通貨は紙幣ではなくなったものの、金貨が万札で銀貨が千円・銅貨が大判と穴空きと小判でそれぞれ百円と十円と一円ときてます。
それに長さの単位。
センチやメートルがそのまま使用されています。それを言い出すと重さも同様ですし、他の単位も変わらなかったりします。
これ、何か意図があるように思えません?」
「意図?」
「はい。誰かの手によって作り変えられた、と」
「それは……神様とかじゃ?」
「神様なら、新しい世界に新しい単位を、私達の記憶に落とし込むことだって出来たじゃないですか。
あらゆる細かいところが、“前”の世界と同じままだったりするんです」
「……あなたは、そういう考察を聞いてほしいから、“前”の世界の人を探してオレに会いに来たんですか?」
「……本題に入ってほしい、ってことですか?」
「察しが良いですね」
これでオレよりも年下だというのだから、頭が下がる。
“前”の世界で社会人として働きだしても、きっとオレとは違って有能者として重宝されていたに違いない。
「それなら本題に。
ユーリ・トリノさん、あなたは世界を元に戻したいですか?」
◇ ◇ ◇
「……そもそも、本当に戻せるのか? 今のこの世界から」
「変わったのなら、戻す手段もあるかと。
ただここで重要なのは、戻そうとしているかしていないか、ですよ」
「…………」
言われて、そういうことなのだと気付いた。
やはりオレは、女子高生よりも頭が回らないみたいだ。
「……オレは、戻す気はない」
もしこの子が元の世界に戻したがっていて、それに協力してくれる人を探しているのだとしたら……オレはどうなるのだろうか。
戦うことになるかもしれないと、心の中で身構える。
「それで、お前は戻すつもりなのか?」
「…………」
しばし無言で、こちらを見つめてくる。
……遅れて気がついた。
この子は今、読心スキルを使っているなと。
オレもLv3まで扱えるからこそ、そのワンランク上の性能は把握している。
目を見つめるだけで嘘をついているかどうかを分かることが出来る。
それが、Lv4の読心スキル。
「……私も、戻す気はないですよ」
だからこそ、オレが嘘をつかず、本心を話していることも分かってくれたのだろう。
彼女は安心するかのように、そう答えてくれた。
……読心Lv3のスキルは、言葉の中にある喜怒哀楽を色で判別できる。
騙そうとしている時や複雑な感情までは分からないが、少なくとも今、彼女の表情と言葉の色から判断するに、その言葉だけは本心のように思えた。
「それなら、どうしてこの話を?」
「戻そうとしている人がいれば、止めようとしていたからですよ」
「……キミも、この世界が気に入っているクチか」
「ココです。あなたもこの世界を変える気がないのなら、名前を教えておこうかと」
「ココ、ね」
「“ちゃん”は付けないんですね」
「付けられることに慣れてる感じか?」
「護衛の中に男性がいたら、馴れ馴れしく付けてくる人ばかりですね」
「女性の一人旅も大変だな」
「一人旅?」
「オレたちのように、“前”の世界の記憶がある人を探しているんだろ?
護衛はいても、一緒に探してくれる人は、今のところいないんじゃないか」
このままの世界を望んでいるということは、今の環境に満足しているということ。
彼女を助けるために一緒に旅をしようとする記憶保持者がいるのなら、この場に同席しているはずだ。
「この世界にどれだけいるのか、探す基準は何にしているのか分からんけど、それでもココは頑張るんだろ?」
「……当然」
「なんでそこまでするんだ?」
「ユーリさんのように一つに留まって戦士になるのは性格的に無理で……となったら、この世界を楽しむのは、冒険しかないじゃないですか。
だからこれは、ちょっとした目標みたいなものですよ。
無目的に冒険することも出来ないし、商人のように荷物の移動をするのも楽しくないしとなれば、これぐらいしかありませんから」
街から街へ。
戦士として登録しているのを利用して、野良で活動してお金を稼いで、また次の街へ。
そして、国を出て。
……なるほど。
それはなんて、羨ましいのだろうか。
本日はここまで。
時間がだいぶ遅くなったのは、結構な手直しをしたから。
次からも度々こういうことがあるかもですが、もう少し早く出来るようにしたいと思います。