派遣処という場所
それから、三年が経過した。
無事、戦士派遣処に登録できたオレは、早速そこで働きだした。
名称通り、前の世界でいう派遣の登録みたいなものだ。
ここに登録しておくことで仕事を依頼したい人が来て、こちらのプロフィールを見た上で依頼を仲介し、そして呼び出されて仕事をする。
そんな流れだ。
出勤は自由。
稼ぎたいのなら出勤しておくことに越したことはないが、一日経っても依頼が来ない日だって普通にある。
また派遣処だって、新人の頃は仲介料を少なくしたり推してくれたりするが、月日を重ねるとそれをしてくれなくなる。
実績が伴ってきている、もしくは伴っていないのなら敢えて推す必要がない、ということだろう。
その点オレは、ある程度実績があるおかげで、まあ一日に一件ぐらいの仕事はきてくれる。
それだけでまあ、食べていくには困らない。
前の世界での給料と変わらない感じか。
ボーナスとかの制度があった前のほうが稼いでいる気もするが、たまに長期間・もしくは一日に三件の依頼が来たりするので、その辺をボーナスと考えればトントンだろう。
つまり何が言いたいかというと、充実していた。
知識がしっかりとあるだけに、どこでどういう風に買い物をすれば良いのかも分かっているし、貨幣価値も把握できている。
おかげで仕事内容にやり甲斐があるのに、やり甲斐搾取もされていない。
まあ強いてこの世界での不満を挙げれば、オレが大手の派遣処に登録できなかったことぐらいか。
今が充実しているだけに、大手ならばどれだけ好待遇だったのかというのは気になってしまう。
“前”の世界の知識もあってこの世界の知識もある特別な人間なのに、そんなことすら出来ない自分の情けなさも当然あるけれど。
「ユーリさん、ご指名です」
「はいっ」
派遣処にいるスタッフさんから呼ばれ、サッと立ち上がる。
他の冒険者さんの視線を感じながらも、とっとと集合待合場所から出ていく。
本来なら自分の武器や派遣処に備えてある粗雑な武器でも準備するところだが、オレにはそれが必要ない。よって手ぶらで向かう。
「依頼内容は、多関節型ドラゴンの討伐。体長は小型ですね」
「ありがとうございます」
男性スタッフに依頼内容を告げられるまま、外へと出る。
土が舗装された道。
戦士派遣処特有の、人気のない繁華街のような空気感。
時刻は昼を少し過ぎたところ。
前の世界でいう十四時前後といったところか。
一日の中で最も暑い時間ながら、今の季節はこれぐらいでちょうど良い。
これからもっと暑くなってくるのだから、今のうちだ。
「指名してくれてありがとうございます」
上っ面に見えないようにしっかりと笑顔を浮かべる。
実力でのし上がる世界とは言え、愛想が良ければ多少弱くても目を瞑ってくれることもある。
こういう地道なところで人気を稼いでいきたい。
「それでは、行きましょうか」
目的地に向けて歩き始める。
オレがいる派遣処は、相手が捕まえたドラゴンを退治するのを主としている。
もちろん指定された場所に文字通り派遣されることもあるが、その場合は空馬車を依頼の手紙と共に派遣処へ寄越すことになっている。
で、派遣された場所で仕事を全うした後に依頼料を直接もらうことになっている。
そのためそのまま派遣処の中抜きを渡さず、その派遣処を辞めてトぶことも出来る。
が、まあ横の繋がりが強いこの業界で、そんなことをする人は少ないだろう。
せいぜい辞める時の最後っ屁でしか使わない手段だ。
話が逸れたが、つまり今はこの男性が捕まえているドラゴンを倒せる場所に、一緒に向かうことになっている。
派遣処の周辺には、そうした施設が数多くある。
その中の一つ。
契約することで格安で利用することが出来る闘技場に、オレと依頼者のおっさんはたどり着いた。