隣の国の大きな街
オレがいた魔法が発達している国は、山々に囲まれているせいで出ていくことが難しい。
唯一の出口は西側のみ。
別に戦争している訳ではないので普通に国境を通って抜けることは出来るので問題はないが、出入口が一つしかない故に、抜けるのにそれなりの時間が掛かってしまうのが欠点とも言える。
ちなみにオレは二日掛かった。
戦争でないとはいえ、別の国に行く以上、手荷物やら身元証明やらで時間が掛かるのは仕方がない。
その人数が分散されず出ていく人も入る人もそこでつっかえてしまうが故の時間だ。
だから、国境付近まで馬車に揺られること一週間、そして待たされること二日、さらに国境を抜けて近くの街に馬車で揺られること一日と、合計十日かけて、隣の国へとやってきた。
あらゆる情報が集う国にいたからこそ、前の派遣処を辞めるまでの一ヶ月間もしっかりと情報を収集していた。
この国は所謂、機械の国だ。
とはいえ、“前”の世界程の発達はない。
せいぜいが街灯やら室内灯が限界で、さらには電気ではなく魔力に反応するという独自の発展を遂げている。
ココが言っていた、都合が良い世界のお話の一部だろう。
隣国だった魔法使いの国にも街灯は主要道路に普通にあったし、オレの家には室内灯もあった。
魔力に反応、ということは、魔法使いの国と称される国から何かしらの技術提供を受けていたからだろう。
そうして造り上げられた、魔力に反応して光を固定する電灯は、世界のあらゆるところに出荷されている。それによって栄えているのが、この国だ。
機械の国というよりも、電灯の国が正しいかもしれない。
だからこそ世界中と貿易を行い、戦争を行わず、利益を上げて国は栄え、その理由となっている電灯造りが盛んとなり、そのおかげでより国が発展している……というサイクルを作り上げている。
だからこそ強い戦士も多い。
ドラゴンからの工場被害を受けないよう、戦士の強さと質と数は一定数を保つ必要があるからだろう。
大手の派遣処は割と好待遇で登録してくれる。
……それに受かるかどうかは、まあ別問題な訳だけど。
「とりあえずは、まあ」
国境を超えてすぐにあるこの街にも、大手の派遣処はある。
国内での大手派遣処は、この世界になったばかりの時に受けて落ちた記憶があったので、イマイチ気が乗らなかったが……ここなら国外だし、今なら小さな派遣処での実績もあるしで、申請と試験も通ることが出来るかもしれない。
まずは、大きな派遣処へと向かうとするか。
◇ ◇ ◇
結論から言うと、大手の派遣処での登録は見送りとなった。
理由は至って単純で、登録のために最低三ヶ月はこの町に居続ける必要があったからだ。
何が悲しくて、旅に出た十日後に隣の国の隣の町に三ヶ月も拘束されなければならないのか。
どうせなら別の国のほうが良いに決まってる。
機械の国とはいえ“前”の世界より劣っているし、そもそもここは中央都市でもない。
長く居続ける理由がない。
どうせならここから南の、古き日本の外観が溢れているらしい里国か、北にあるエルフの森が良いに決まっている。
森の方はエルフが人間を受け入れていないため、森の傍から出てくるドラゴンを退治してばかりなので大変そうではあるけど。
どちらにせよ、今ではないという判断だ。
という訳で、ここからさらに北の中央都市へと向かうことにしよう。
南に行くにせよ北に行くにせよ、せっかくならこの世界の、機械の国の中心地を見ていくのも悪くない。
旅というのは、そういうものだ。