なな
「わーごめんね、まさかアルの恋人だったとは。」
皇帝だと知り、今までの非礼を詫びた後、王太子殿下直々に、陛下への近状報告をした、はずなのだがいろいろまだ誤解をしている。
「言っておくけどエル嬢は僕でなくて、エリオットの恋人だよ。僕にとってはただの協力者かな。それに僕はもう婚約したレディがいるからね。」
「え、違いますけど。私、恋人じゃないけど。」
「なるほどねー。弟の女を連れて遠出かあ。あやしいねー。でも、アルも婚約相手とばかりいると、飽きないか?適度な息抜きは僕を見習うといいぞー。」
「遠慮しておくよ。僕はこれでも父のような愛妻家を目指していてね。」
「まあ、国王は妾を作っていなかったなあ。こちらからも幾人かめぼしい女を送ったんだが、妻一筋だからと追い返されてしまったよー。」
「あれには父上ご立腹だったよ。しばらく帝国との外交は僕が任されたし。」
「それのおかげで今があるわけだがねー。」
え、知らない話が展開されている。なかなかおいたをしているではないですか、陛下。
「あ、今の話で思い出したよ。父からの伝言。いつか刺されて死ぬぞ、と。」
「あははー。国王陛下も物騒なことを言う。」
「なかなか真剣だったけど。だって、今だって皇妃陛下には内緒で外出してるだろ。」
殿下の厳しい忠告。まあ、女たらしは浮気がばれて刺されるのがおちですね。
「いやー、あれは頭が固いから。こういう密談も皇居でやれっていうんだぜ、それはもう密談じゃないし。それに、僕の皇帝の姿をまともに見てるのはあれと僕の側近の中の側近と、君たちくらいだ。だから僕が外で女の子引っ掛けても皇帝陛下の落ち度にはならないさ。」
ふ、甘いな皇帝。どうせ誰かが気付くだろう。万一噂が流れでもしたらどうするんだ。火のない所に煙は立たぬというし、何かしらの調査が皇妃陛下によって行われるだろう。同じことを脳内で想像したのか、苦い声で王太子殿下の言葉が漏れる。
「まあ、ほどほどにね?」
もっと言えばいいのに。ここで留め置くのがやはり、一王子と皇帝の立場上の問題なのだろうか。いや、普通に口を出すべきでない領域なのだろうか。人間興味深い。
というような女性関係についてのお話をつらつら話し、とうとう私の器についての話になった。
「エル嬢は無属性の色彩なんだよねー。いいなあ。本当にアルの弟なんか振って僕んとこ来ない?一応愛人という立ち位置になるけど、それなりの力を与えるし、帝国では王国ほど貞淑が歌われるわけじゃないから冷遇なんてことはないしー。」
あ、さっきのプロポーズもどきの続きですか。私そういうのはちょっと……と言いたいが、何しろ相手が相手なので、なんと言ったらいいかわからない。結果、われらが頼もしい殿下にアイコンタクトでおねだりをすることになった。
うまく気づいてくれたようで、彼は口を開いた。が、なんだか顔が赤い。
「あー、えっと、エル嬢、さっきも言ったけど、僕には婚約者がいて……」
……え?いつそんな話に?
慌てる私をよそに、皇帝陛下が私の肩を抱く。
「えー、プロポーズしてるのは僕なのにー。その真っ最中に他の男に流し目送るなんて。泣いちゃうよ。」
軽ーい流れで彼の手が腰に置かれる。いや、これは、危ない奴だ。え、ちょっとその前に。
「私が、流し目、ですか?殿下に?」
「うん。それはそれは、熱ーいやつ。見ててこっちも興奮するような」
「ちょっとそれ以上は言わないでください。」
この至近距離からの異常なトークが始まりそうだったのでとりあえずぶった切る。陛下が物足りなさそうだけど、それは男だけの時にお願いします。
「え、アル殿下、私にそんなつもりはございませんのでどうぞご安心を?」
誤解は早々に特に限る。特に皇帝陛下がいるとそのまま流されてしまうから。そう思った私の返答に、少し不満があったのか、殿下の笑みが深まる。
「ねえ、エル嬢?僕は様も殿下も要らないと言ったはずだけど、覚えてない?それとも僕の言うことは聞けないのかな?好色皇帝の言うことは聞くのに。」
少し爽やか笑顔が黒い気がする。オーラがダークなんですけど。
「でん、じゃない、え、っと、アル、さん。善処します。」
あー、弟子相手なら呼び捨ては当たり前なんだけど、それ以外は慣れないな。つっかかりまくってしまった。あー照れる。少しだけ、頬に熱が集まる。
「…よろしくね?」
殿下の返答に謎の間。顔を見るのがしんどかったので、そっと退室した。もちろん、皇帝陛下にも許可を取って。