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殿下にそれとなく探りを入れてみたものの、にこやかな笑みと共にエリオット様との思い出話に話を持って行かれてついついクソガキっぷりを熱く語ってしまった。あーあ、クソガキという言葉を発さなかったものの、なかなか際どいことを言っている自覚はある。が、気にしない。ここまで来ておいてなんだけど、私は権力には阿らない主義なんです。
結局大事なことは聞けずじまいで、私と二人を乗せた馬車は誰かに借りていただいた館に着いた。帝国でも王国との国境に近い郊外、といったところにある。貴族の別荘、と言えるほどには豪華な見た目だ。一見人の気配は感じられないが、手入れされた庭やぴかぴかに磨かれた窓たちの様子を見る限り、借りた人は手入れをしておいてくれたようだ。
「私が先に中の様子を見てきます。エル嬢、殿下をお願いします。」
そう言いクロードは馬車の窓から飛び降りて駆けて行った。わー。お願いしますって。私は強くありませんって言ったのに。
聞くなら今かな。殿下に話を振ってみる。
「殿下、皇帝との面識がおありですか。」
そう言うと、殿下は笑みを崩さなかったが瞳を一瞬揺らして
「そうだよ。」
と言った。先程の言い方からして誰かに聞いたというより殿下本人が話をしてみて感じた印象をこぼした、という方が納得できる。が、今の言い方には引っかかる。
ただ気になるからと言って話してくれるとは思えない。が、この情報を私に与えたということは、彼が最初に私にもたらした情報に関係があるのだろう。
「皇帝が、戦争を望んでいると?」
殿下は私の質問に答えず、紫の絹の袋を差し出した。受け取ると、なかなかの重量だった。
「開けて。」
その指示に従う。袋の中には濃い紫のアメジストがはめ込まれた金の首飾りが入っていた。一番大きい粒は透明度が高く、一目で高価なものだとわかる。それだけでなく、これには今代の皇帝の家紋が刻まれている。大きな鳥を型として美しくデザインされたものだ。
「それ、あげるよ。彼の所までの通行証、らしいんだけど、まだ使ったことはないんだ。」
ありがたくいただこう。どうやら殿下は私を伝書鳩扱いしてくれるようだ。
「アメジストはね、彼のお気に入りの石なんだ。そして、彼が最も嫌うのはシトリン。」
彼の目は笑っていた。さあ、この意味が君に分かるかな、と。
私は、長く生きている分感情が乏しいわけではないし、喧嘩はちゃんと買いたい主義だ。でも、間違いを堂々と話すのは恥ずかしいので一応確認を取っておくことにする。
「二人の仲は冷めていると、聞いたことがあります。」
彼の目が細くなる。青紫がいたずらっほく輝く。なるほど。正解のようだ。
帝国内においてもっとも有名なシトリンといえば、皇帝の妻だと思って間違いないだろう。透き通った蜂蜜のような美しい色彩も魔術の才も皇后として相応しいと聞いたことがあった。ただ、皇帝と皇后彼らの仲はいいモノでないことも有名だ。このような敵につけ入りやすくさせるだけの情報が本当かどうかは怪しかったがまさかまさか。
「せっかくなんだ。クロがお茶でも入れてる間に彼を迎えに行ってあげてよ。」
「そしてこの館に連れてくるんですか?本人を?」
「もちろん。」
彼の笑みが深まる。今にも踊りだしそうな雰囲気に少し引く。楽しそうで何より。
いつの間にか帰ってきたクロードは、微妙な顔で
「皇帝と殿下は仲良しですよ。」
と教えてくれた。へー。