に
「……」
訳が分からなくて黙ってしまった。これ、聞き返してもいいのだろうか。護衛の男が慌てて防聴の魔術具を仕掛ける。え、聞かれたくない話をなぜ私にするのだろうか。謎深まる。
「…なぜそれを私に話すのですか。広めてはならない話のようですが。」
「おっと、口が滑ってしまった。というわけで、仲間になってくれ。」
……ん?
そんな簡単に味方とか決めていいんだろうか。さすが箱入りといった所業と呆れるのが正解?いや、こいつ、この男、あのクソガキに似ているような気がしなくもなくもなくもない。
どうやら試されているようだ。いっちょかまかけてみようか。
「私如きではなくもっと頼もしい方をお誘いしてはどうですか、王太子殿下。」
にやりと口角を上げる男。
「どうやらばれてしまったようだ。尚更欲しくなった。」
「で、殿下!ばれてるじゃないですか!どどどどうするのですか!」
護衛の男がものすごーく慌てている。先ほどまでの鋭いにらみは何だったのだろう。
「落ち着けクロ。わが弟の言うことは正しいようだ。是非とも味方に、エル嬢。」
前述のとおり私は名前が分からないので、名前で呼びたいものには名をもらっている。まあ、その名が被ることはほぼない。だから、名をくれた人以外がその名を呼べば、大体は関係者だと分かる。今回はまあ、クソガキの関係者だから、クソガキと同じ呼び方なわけだ。
「一応確認を。貴方はクソガ…エリオット様の兄殿下ということでよろしいでしょうか。」
その問いに王太子殿下は鷹揚に頷く。危ない、クソガキって単語をだいぶ後まで発音してしまった。
ちなみにクソガキ改めエリオット様とは、王国で私が過ごしていた頃に出会った。出会い方は最悪で、エリオット様のクソガキっぷりがよく表れていた。まあ、ここでは割愛するけど。エルという名もエリオットの一部を分け与えやったと誇らしげに言っていた。なんでも従者は主の名の一部をもらうことが一番の誇りだとか。私的にはもっと、別の誇りがいいな、と思った。
大事なことなので言っておこう。私はエリオット様の従者または部下になったことは、ない。契約書にサインをしたことも、口約束でさえない。
「わが弟をずいぶん可愛がってくれたと彼の護衛から聞いたよ。頼もしい限りだ。」
とてもクソガキだったので、初対面から思わず手が出た。うん、あれは、失敗だったようだ。王族の子ともなると、ちゃんと叱ってやれる大人が周りにいないようで、クソガ…違う、エリオット様は躾を行った私になついた。冷静に考えるととんだ性格破綻者だな。
「いや、ただの貴族かとばかり。王族だったとは…」
噓でーす。普通に二回目にあった時からは知ってました。いや。クソガキに丁寧な態度を求められても出来なかったし。しょうがない。うん。
「ふふふ、彼も君によろしくと。では詳しくは身体検査の後に。」
「え」
会話をぶった切られた私の前では話が終わるまで待たされた、とても、不機嫌な様子の検査官がいる。
前に並んでいた私が怒られたのは、多分、理不尽というものなのだろう。