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あるいちにち  作者: Oz
19/19

じゅうく

 お前は役立たず。


 所詮、失敗作であり、ただの実験人形に過ぎない。


 人間風情とつるんでいれば必ず思い知ることになるぞ。


 お前が、異なものだと、異物だということを。



 懐かしい声が響く。冷たく己の欲のままに生きる傍若無人な最高神の眷属ども。



 「わかるよ、俺も異物だから。お前の経験と俺の経験は、一緒だよ、セド。」



 懐かしい声が響く。ずっと独りだった寂しがり屋の大魔導師。


 前者は決して私が思い上がらぬ様に、神を殺すことが出来ると勘違いなどしない様に、彼らの最愛の最高神を守り続ける為に眷属たちが私に会うたびに言ったこと。

 最高神である創造神はこういうのもなんだが精神が弱かった。神として言うならお前も十分欠陥を備えているじゃないかと毎回会うたびに思った。こんな壊れかけの世界に留まるのもいい証拠だ。きっと彼女がまともなら私のような世界を揺らがす力を持つ者は殺してしまうか世界ごと捨て置いてしまうというのに。

 その眷属たちは優しすぎる彼女を守るかのように冷酷非情なのが揃っている。彼らは自分の最愛に黙って私を天界に呼び出す。失敗作の私など目に入れさせたくないから。そして大抵は武力の行使を要求される。彼らの最愛は優しすぎて天罰などというものは下せない。しかし、誰かしら、私や私など憎しみを代わりに引き受けられる汚れ仕事のための人形に代理をやらせている。勿論私のような小物には眷属様に逆らう気も起きないので私は適役万々歳。

 ここ数百、いや数千年か?、は天界への呼び出しはなかった。しかし彼らの興味を捉えていたテンセイシャとやらは私ほど使い勝手がよくはなかっただろう。あれらは何かしらの異常を抱えた狂人で、時には眷属たちに牙をむいてしまうから。

 そう考えれば彼らはもうちょっと私に感謝とかしてもいいんじゃないだろうか。


 後者は私のたった一人だけの家族の言葉。彼は、大魔導師。白髪も本当は混じっているであろう銀髪と薄緑の瞳を持った大魔導師。最初に私に名前を付けようとしたのは彼だ。異国の石の名を授けてくれた。あいにく彼以外にその名を呼ばせるつもりはないためその名づけに意味はもう無くなってしまったわけだが。同じ異物という言葉がこんなにも情緒を込めて発せられる様は私がやっと仲間を、家族を得たのだと気付かせた。彼の手を取ったのは人生で一番の過ちだったのは理解している。彼は私が一番底に押し込めて精一杯見ない様にしようとしてきたものだ。彼の死は私をより感傷的にした。彼は、私を弱いものにした。彼は私の弱さだ。



 彼は今どこにいるんだろう。大魔導師のくせに生き返りの術すら持たずただのうのうと死んでいった孤独なやつ。今流行りのテンセイシャなんかになって生を満喫しているのだろうか。そうであれば少しは私も救われるんだけど。



 「貴女がエルさんですか。」

 「あ、ハイ。」

 「ようこそ。聖なる黒の輝きに魅入られたものの集いへ。私はヘリオです。」


 ヘリオと名乗ったのは銀髪に金の目をした男。案内役は緑の瞳だと聞いたんだが。私の視線で気付いたのだろうか、彼は私の意を酌んだように言葉をつづけた。


 「緑の瞳だという人と、黄色に見えるという人とがいますね。しかし私はかの夜空の瞳に忠誠を誓ってこの場に参りました。」


 夜空の瞳、殿下の瞳は青紫。なるほど。

 私が納得したのを空気で感じたのか、ヘリオは私が幾年も前に出会った聖国の手の者のように、青魔法の図式の描かれたローブを差し出した。これは「枝」の図式で、それの担う役割は近場にある魔力を吸い出すこと。そして「幹」の図式はきっと魔族召喚の図式と連動しているのだろう。

 これは一応どの色の魔法でも使える、言わば真の無属性魔法なのだ。なのに昨今の研究者ときたら「幹」の図式に何色の魔法を連動させるかによってそれら魔法を属性に分けてしまうのだ。前述のとおり彼らが総称して無属性魔法と呼ぶものは今日を生きる者々の認識する魔法とは全くの別物なのである。もう魔法と呼んでいいのかどうかも怪しい。無属性魔法と呼ばれる術たちは神の力、天罰や奇跡に近い。厳密に言うと力の大きさは同じだとしても源が違う。そうすると自然と性質も変わってくるわけで……という話は長くなるのでひとまず置いておく。


 「貴女なら魔力を僅かも奪われずに済むかもしれませんが、取り敢えず目をつけられては困るので小川程度に吸収させてやってください。」

 「その助言は誰からの伝言で?」


 別に。単なる好奇心である。経験に基づいてそんなことを言う誰かがいるとは信じがたかった。魔力量の匙加減についての助言は魔力量が近い者同士だからこそ参考になる。常識だ。それを分かった上で尚自信を持って言えるその言葉はまずヘリオのものではないことは明らかだ。魔力量が近いほど相手のそれを直感で感じ取れる。そして私はヘリオのそれを感じ取れず、彼が私より上だということは有り得ない。


 「あー…、これは一旦黙秘させてください。言っていいのか分からないので。」


 与える情報についての制限は与えられていない。もしくはそれについて先刻の言葉を発した者と話し合う時間がなかった。仕事が忙しいためか、二人(と断定できたわけではないが)の階級の差によってか、不仲か。

 無属性の色彩を持つ者はその身体に刻むことの出来る魔法の数が持たざる者よりも多い。それに伴い総魔力量も必然的に多いと私の経験から言うことが出来る。総魔力量が多ければ言わば既定の能力値が高い(勿論個人差はあるが大抵はそう言い切ることが出来る)。私に並ぶ魔力量を持つ者はまず無属性の色彩持ちで間違いない。ヘリオと助言の発言者はそれは忙しいだろう。

 聖国の内部の仕組みについては興味がなかったため調べなかったが、王国と同じように階級の上下に総魔力量が関わるならば発言者の位はヘリオより高い。


 「へえ。聖国にも私と同じ色彩の者が?会うのが楽しみだ。」

 「まさか。それに近い者はいますがね。…もう詮索は終わりです。ここからは人が増える。怪しい言動は避けてください。」

 「このローブで既に悪目立ちしていると思いますが。」


 ヘリオは少し疲れた顔で、聖国に準ずる者として、誇りを持って着てください、という旨のことを言った。

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