じゅうろく
男同士の話。
エル嬢が出て行ったあとに残された僕たち。アルの護衛はエル嬢を監視するために出て行ったようだがすぐ撒かれそうだな。
僕がそんなことを考えている間にもアルは難しい顔をしているのでちょっと確認を取っておく。黒の魔法使いをどのくらい確保できるか。さて、国力の見せどきだな。
「いくら集められる?こっちは多くて200だな。」
「そうか。王国は、100もいかないかもね。」
「それはなかなかだな。ことが終わった後に帝国民に叩かれるぞ。」
わかっていることだ。王国は、負の遺産が多いからな。
だが、アルは僕に気を遣ってか、苦笑交じりにそっとこぼす。
「いやー、黒髪への差別意識が強いんだよね。本当に、窮屈で野蛮な風習なんだけど。」
帝国でも「黒髪は魔族」という根も葉もない噂話を信じるものが居るので口に出しては言わないが、本当に野蛮だな。全く、建国からずっとある家の貴族というモノは害悪だ。アルは隠したようだがこちらにもよく聞こえるのは、肌の色による帝国の侮蔑。王国主催の夜会になど参加してみると、人々の目線がそれを物語る。
「褐色の肌への差別も根強いのだろう?」
「これらは、昔王国が先進していた頃の優越感から来る甘えだね。もう、必要のない遺物。」
アルの言いたいことは分かる。だが、帝国との戦場に一度立ったものならそんな行いをするものが居ないのも僕たちは知っている。黒の魔法使いは便利なのだ。
「お前が位を継げば、そのようなことはなくなるのだろう?」
「さあ、そうなったらいいけど。」
珍しくアルの自信がない。こいつはそれほど自信家というわけでもないが、いつもは王太子殿下として相応しい態度をとっている。
「弟に何か?」
「メジスは知ってると思うけど?」
ふうん。急に名前呼びだ。率直に言っていいということなんだろうな。
「アルの宝石姫が何かしたのか?」
「まあ、そんな感じ。うちの子がちょっと暴れちゃったんだよね。」
アルの婚約者のリシフィア嬢と、アルの弟の婚約者のラガーネット嬢。その美しい容姿と家名になぞらえて宝石姫と呼ばれている。
前者は蒼よりの緑の瞳と、その色を薄めたような色味の緩くウェーブした髪を持っており、柔らかい雰囲気の令嬢だ。が、アルにべた惚れなようで、高位の貴族らしく手を汚さずにライバルを始末する手腕を発揮しているようだ。アルはヘタレなのでこの愛をちょっと重い、とか言っている。男のために懸命になるなんてかわいいものじゃないか。
後者は見事な赤毛を持ち、赤銅の瞳が美しい。どちらも彼女の白い肌に映えているが、つり目に縦ロールの面立ちも相まってだいぶ気が強いのが見て取れる。気が強く高貴さを重んじ過ぎだ、とアルが度々こぼしているが、そういうタイプの子はプライドを崩された後が凄く可愛いのに。
確か、先日事件があったとか誰か報告に来たような。
なんだっけ。
「低位の令嬢がいじめられたとかで、そういうのに近づくべきでない高位貴族の令息どもがその保護に動いている、そしてその中にはお前の弟の側近が含まれている。」
「うん。弟の側近には忠臣かつ賢臣の子をつけたんだけど。」
「お前の弟はまだ人を使うのが下手だからな。」
「そうなんだけどね。」
「で?報告には宝石姫のことは書かれていなかったぞ。」
「君なら予想つくでしょ。弟の宝石姫、ラガーネット嬢は浮気気味な弟に溜めてたフラストレーションがその令嬢に向いてしまって。」
「それはそれは。で、お前が言ってるのはお前の宝石姫のことじゃないのか。」
「……いや、両方だ。彼女はもう弟は嫌だと僕に相談してきた。そして、そのことがリシフィア嬢に伝わって、僕は今二股をかけていることになっている。」
「それはお前が悪い。普通別の女と文通だか何だかしてれば疑うだろ。隠すなら徹底的に、だよ。」
肩を落としてため息をつく様子は髪が金でなければ王族には見えなかった。