じゅうご
ごめんなさい
しゃざい。
わかっている。私は異物。人間はその弱さゆえに得体の知れない者や恐れるに値する者を排除しようとする。
同調圧力は怖いと、何度も何度も思い知って。なのに、また人を信じようとする自分が情けなくて、もう自身に呆れ疲れてしまった。
「わかるよ、俺も異物だから。お前の経験と俺の経験は、一緒だよ、セド。」
そう言って、私の手を包み込んだ骨ばった手はもう星になり、私の傍に蹲る影のみが増えている。人間の儚さには慣れているつもりだった。でも、大魔導師はもう少し骨があるのだと思っていた。どうせすぐ死ぬのに何を、情などをかけているんだか。
彼の弔いには、誰も来なかった。
わかっている。
私は異物。私は強いだけの異物。人形で神の失敗作。
でも、人々は私の強さを怖がりながら利用したがっていた。
居場所が欲しければ、皆に貸しを作るしかない。そうやって人間に与え続けて自分をすり減らし続けて、そうやって生きていればいつかは、彼の欲しかった、私の欲しかった生き方を得られるのではないか。その一心で萌芽を見つけては彼らの雨風のしのぎとなり、才を育てるための施しを与えた。
そうして生きても、いくらすり減っても、自分に残るものなどなかった。強いて言えば、虚しさ。空虚。
何の足しにもならないそんなものたちとこの渇望は、心の奥に深く深く仕舞って誰も分からない様に、誰にも悟られぬ様に。皆の欲しがる強さを皆に与えられるように。失望などさせてしまえば一巻の終わりなのだというのは知っていた。何よりも怒らせると怖いのは神だが、その次の次の次くらいに怖いのは無駄に強い感情でまとめ上げられた人間の衆だ。
いつだっただろうか、初めて自分の育てた芽がもう大樹に育っていると気付いたのは。私に守られるばかりではいられないと、その声の意味するところを事実として認めたのは。
弟子、私の育てた萌芽たちはなぜか私を逃がさない森となり私を閉じ込めることに執着した。私が逃げればその後を追い、私を手元に置こうとさらに緑を深める。馬鹿な奴ら、可愛い弟子。でも、師として捕まるわけにはいかない。自由大事だし。
二人の温もりがもたらすのは、感傷。柄にもなく思いに浸ってしまった。それは、星空の魔力でもあるのかもしれない。彼がなったであろう、星のちから。
「もう私の手などなくとも、お前たちは上手く生きられるはずだ。そろそろ師離れs」
「貴方の願いでもそれは聞けないわ。だって、私はまだあなたの人生の百分の一も貴方に刻まれていないもの!そんな状態では貴方を逃がせないわ。」
「この女に不本意ながら同意します。私は、貴方からもう一度離れて生きていける自信などない。どうして、捨ててもう一度優しさを与えるなどというひどいことをするんだ。」
「そうよ!本当に私から逃げたいのであれば、そうやって中途半端に与えるのを止めて。私の将来に決定打を打った責任を持って私を生涯連れてよ!」
「本当に貴方は勝手だ。俺の言葉を何一つわかってくれるわけないのに、俺に耳を傾ける。そして、期待させて!」
捨てる。優しさを与える。中途半端に与える。将来の決定打を打つ。耳を傾ける。期待させる。
捨てた覚えはない。何度も言うようだがペツォを一人残してしまったときは神に呼ばれていたのだ。パライバは彼女の親と相談して決めた雇用期間を過ぎたからいなくなっただけだ。優しさを与えた、と言うのは抽象的で難しい。ただ、技を与えるのが施しなら、優しさを与えたことにはなる。中途半端に与える、何を?魔法だったらそれは申し訳ないことをした。当時のレベルで操れるものはすべて教えてはいたが、まあ、当時の私も若かったし教育にはまだ不慣れだったから...言い訳する。将来の決定打を打つことには私は何一つ関与していない。勝手に落ちぶれたいなら落ちぶれればいいし、騎士になりたければなればよい。魔法を教えることと将来魔法使いの職に就くことは同義ではない。耳を傾ける、のは、さすがに教える立場なら誰でもするはずだ。期待させる、何を?これはよくわからない。
ということで、大半のことにおいて私は白な気がする。
「ほら、そうやってよくわからない顔して!大人のくせに人の機敏に疎いのは相変わらずなのね。」
「そこも師匠のいいところですよ。……そんな師匠の役に立つために俺は、未来視を磨いたのに。」
とりあえず申し訳ない。