じゅうに
パライバちゃん登場。
だれやねん。
「おーっほほほほほほ!この私の仕事場の前を塞ぐのは100年以上早いわよ!どきなさい!」
声高に叫びながら私とペツォの間に入り込んでくる女がいる。お行儀が悪いですね。というかやばい。あの人の笑い方って異常な感じがする。うん、本当におほほって笑う人初めて見た。そしてすこし悪役テイスト。
そして、間が悪いことに、また、なんとなく見覚えがある。
が、ここでその話を持ち出すと色々面倒なので、気づかなかったことにしよう。
「あら、その顔、見覚えがあるわ。その、銀の瞳と、その髪」
やはり、弟子の勘というか、わかるのだろうか。瞳以外は幻影で隠して声も低くなるよう設定していたのに。
「……パライバ、あの」
「あんた!師匠ね!」
パライバ ―今叫んでいる女性である、一応私の弟子であった― は私の言を遮って「師匠」と言いながらペツォのことを指さしている。ふむ。いい感じだ。これをこのまま置いていけば二人でからんでくれるだろう。しかも忘れていたが、私は多分皇帝陛下を待たせている。
「じゃ、元気でねペツォ。」
そう。いい感じ。ペツォは置いてこう。
久し振りに会ったという事実が禍根を残すものの、自分の首と弟子との再会であれば勿論首を取る。
「あっ!師匠!」
ペツォの困った声と後ろに光るネオンブルーをしり目に三番を探す。ペツォに案内していただくところだったのに。
いろいろな人に首飾りを見せながら三番の部屋の場所を聞いた結果、最奥の宮殿にある客間だということが分かった。が、皇城で働く人々は皆立ち入りを禁止されているらしく、入り口までで案内を終了されてしまった。
あれ、部屋に番号書いてあるな。これだったら迷うことはないようだ。
三番を無事に見つけてドアをノックする。するとドアが内から開けられた。
「随分迷っていたようだな。」
目を細めた皇帝陛下がドアから顔をのぞかせる。うわあ、お怒りですね。
「申し訳ございません。厄介者たちに足止めされまして。」
「誰だ?実名を申せ。」
「……ペツォ、ペツォタイトとパライバです。」
「へえ…どんな関係なんだ?」
あ、声のトーンが少し明るくなった。
「一応師弟関係ですね。」
「君が弟子なの?」
「いいえ。彼らが教え子です。」
「年がだいぶ離れているんじゃないか?」
「そうですね。あの子たちは数百年前とかに生まれていたので、ああ、私とは大体千くらいは離れているかと思います。」
「君、相当若作りだね。」
「陛下は女性がお得意だと聞きましたがなかなかデリカシーというものに欠けておられますね。」
「君、不遜だぞ。」
そう口では言いながらも少し茶目っ気が含まれている。へえ、愛想のそういう使い方もできるんだね。
「では、陛下、そろそろ参りませんか?」
そう言って手を差し出すと、彼は少し躊躇っていたようだが手を取った。
「手を差し伸べるのは男の役目なんだけどな。」
隠し通路の先を行きながらそう独り言ちる皇帝陛下に進言いたしましょう。
「革新的な帝国に似合わない時代錯誤な考え方ですね。別に、手を引かれるのが男性でも女性でも可愛げがあってよいものだとは思いますけど。」
ほら、若い子のフォローをするのも年上の役目。どーだ。
「そうか…。」
皇帝陛下はうつむいてしまいました。しかも、耳たぶが少し赤くなっている。え、今の発言に照れていらっしゃる?なぜだ。
しばらく行くと、隠し通路が終わり市井の商店街らしき場所に出た。
「さあ、ここからは屋根の上を移動するぞ。」
「昼にやると目立つと思うのですが。」
「別に兵の目を掻い潜るためじゃないんだよね。」
「…敢えて見せつけると?」
「違う!僕がやりたいだけ!」
へー。そんでもってその手は何だ?
「僕を運んでくれないの?天下の皇帝陛下は疲れちゃったよ。」
しょうがないなー。これだからお子様は。とは思いつつお姫様抱っこしてあげよう。
私もいろいろから逃げた経験はそれなりにあるので屋根飛びもへたくそではない。が、お姫様抱っこしながらは初めてである。皇帝陛下で初めては心臓に悪いなー。
「陛下、口閉じててくださいね。」
「おっけー。」
そういえば、気づいてしまった。魔法で私飛べるってことに。そして魔法で私たちの姿を不可視にすることが出来ると。
皇帝陛下が気付かないうちにかけておこう。勿論隠蔽魔法で魔法の痕跡を消す。
「そういえば、君に、パライバについて言っていなかったね。」
口を閉じる、つまり喋らないという約束を瞬時に破って陛下は会話を始める。だけど、少し気になるので適当に相槌を打つ。
「はあ。」
「彼女は僕のお気に入りの魔法使いなんだよね。だから、君が今いなかったら来月には彼女が僕の愛妾になってた。」
「…それを、彼女は良しとしたのですか?」
「あっちも僕に惚れてるから大丈夫でしょ。」
そのうちパライバが皇妃をその座から降ろす未来しか見えない。
そんな私の考えを読んだのか彼は笑って言う。
「彼女が皇妃を害することはないだろう。だって、彼女は僕と、彼女の師匠が居れば何もいらないと言ったから。そういう内容の契約もしたしね。」
皇妃を害さないという契約だろうか。うわあ、用意周到というか、パライバに少し失礼な気もするが。
「彼女は自分の師匠を見つけることが出来るでしょうか。」
「教えてあげないのかい?」
「………そこまで自己犠牲的な性格はしていないので。」
彼女に師匠だと告げる、それは彼女に一生束縛されてもおかしくない未来を示す。そんなのはごめんだ。
そうして一つ二つの会話をしているうちに借りている館に着いた。