じゅう
本題に入ります。
朝食や片付けが終わり、ほっと一息ついた私に落とされた一つの爆弾。
「エル嬢さ、昨日の皇帝を皇居まで迎えに行ってほしいんだけど。」
「は?」
先程の流れからわかっているように思うがこの「は?」というのは私の感想である。皇帝、そういえば見かけていない。帰ったのか。帰ったのをもう一回迎えに行くのか。それは、無駄なことをしているぞ皇帝。
「何故私が迎えに行かなければいけないのですか。この場合、殿下直々に向かわれた方が敬意を示せるかと。」
「僕が行ってしまったら、大ごとになるだろう?君ならそっと彼を連れだせるだろうと踏んでの人選だ。」
「納得しかねます。昨日も皇帝陛下は秘密裏にいらっしゃとおっしゃておりました。ならば昨日と同じ手段でここまで来ることが出来るのでは?」
「いや、それがね?昨日の助っ人はもう助けてくれないらしい。」
「意味が解りません。皇居内にいる方で皇帝の頼みを断る方はいないかと。」
「あーエル嬢強情だね。じゃあ、最後の切り札。彼は、直々に君をご指名だ。」
「………最初からそうおっしゃればよいかと。」
納得できない。全然。私は皇帝に好かれているとも思えないし、なぜ私への指名が入ったのか?むむ。
「あと、わかってると思うけど、これは秘密裏の案件ではあっても真っ向から訪ねてくれ。」
「…これ以上の警戒が皇居に敷かれないようにですか?」
「ああ。皇妃に見つからねば大丈夫だと彼は言っていたが。……これは個人的なお願いなんだけど、皇帝陛下は好色でかつ魔法好きだ。君の無属性を欲しがっている。本気で。だから、それなりに気を付けるんだよ。」
なんだそれ!!
不満を抱えつつも、記憶の中の地図を頼りに昨日預かった首飾りを持って行く。目立たないであろう砂色のマントをかぶったが、緑豊かな帝国では逆に浮くな。いつもの黒にしておけばよかった。
先ほどの「無属性」という言葉が気にかかる。銀髪に水晶の瞳。これがそんなにいいモノでないのは分かりきっている。これのせいで何度も死ぬ目を見てきた。まあ、それでも髪を伸ばし、眼を抉らずに放置しているのは、これの使い勝手が良いからだ。
普通、人々は色彩を伴って生まれる。その色彩は、地域差や血統の差はあるが大体いくつかの種に分けられる。赤、青、緑、黄、黒の五種だ。これは最高神である創造神の眷属の色彩だと言われている。そして、その色彩によって大体の才能、まあ詳しく言えば取り込める魔法の種類が変わってくる。
赤は動植物の研究に向いた魔法で、ポーションや魔獣、テイマーなどはそこの管轄だ。自分の成果を形にして示そうと努力している。確か、帝国ではドラゴンの飼育や捕獲が最近流行ってた気がするが、どうだろう。試みて命を落とした愚者は何人もいたと聞くが。
青は天界の魔法を研究するのに向いている。天界の魔法は一つ一つがとても大きいため一人の人生で最高でも三つほどしか研究はできないようだが、世界創造についてが解明されると人々は喜んでいた。まあ、彼らが一番内向的で自分の成果を隠したがる。
緑は精霊魔法。精霊と対話ができ、彼らの力を借りる契約により魔法を使用できる。が、そのものは最後精霊に魂を取り込まれてしまう、と聞いたことがある。そういうわけで担い手が少ないようだが比較的自分の身体への負担が少ないのがいいところだ。
黄の魔法は俗に生活魔法とも呼ばれ、人々が信じている魔法のイメージは大体これだ。手から水や火を出したり、光線でものを焼き尽くしたり。これの担い手はだいぶ多いだろう。
そして黒の魔法は俗にいう黒魔術だ。そういうと悪いもののように思われがちだが本質的には少し違うかもしれない。私は黒魔術を本格的に学んだことはないが、死者を復活させる以外にも傷を癒す、荒れた土地を回復するなどの回復系魔法がこれに属する。
そして古代魔法。これは何にも属さない。記憶を操る、世界を転移できる、時間を止める等々。なかなか怪しいジャンルだ。なんでもこれは眷属ではなく最高神の魔法なんだとか。それなら青の魔法と一緒だろうとは思うものの、なんか違うらしい。無属性のものしか使えないという条件があるそうだ。
これまでに旅路で幾度となく声をかけてきた人間たち。それは、貴方の眼球を譲ってほしいだとか髪を買わせてほしいだとか、もしくは研究体になってほしいとか。眼は取り返しがつかないのでやめたが、髪はお金がないときに売った事がある。高いのかは知らないが、金貨を数枚頂いた。うん、きっと高い。
ああ、別に古代の魔法でも何でもいいが私はもう誰かに魔法を教えるつもりはない。弟子はもういらない。
ただの拒絶ではなくそれなりの理由があってのことなんだが、個々ではまだ秘密にしておこう。
そうして、見えてきたのは紫の大きな鳥が書かれた旗を掲げる皇城。でかいし広そう。これの三番の部屋ってどこだよ。