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あるいちにち  作者: Oz
1/19

いち

 よく、強いといわれる。でもそれは、強いんじゃなくて、自分を弱者足らしめるものを心の底に閉じこめているだけ。それらを閉じ込めないと私はたぶん今日まで生きてこれなかった。大きくなるたびに、それらは増え続け、動きを鈍らせる重荷と化す。捨ててしまえばよかった。それらが自分を邪魔するたび思う。まあ捨てられないからこそ閉じ込めるのに慣れたわけなのだけど。

 

 「自分を弱者足らしめるもの」がなんだかはよくわかっていない。ただ、長く旅をしていてある特徴を持つ者―人族―に出会う度に、それらが疼くから、彼らとの交流が原因だとは思う。人族については良く知らない。まあ、忘れただけかもしれない。大抵の心の底に閉じ込めたものについての記憶は薄れている。最近の出来事に上書きされてもう勝手にゴミ箱に打ち捨てられているかもしれない。内容はともかく知っていたはずのことを忘れるなんて、少しもったいないと他人事のように思う。


 

 


 とりあえず、自己紹介をしよう。自分の名前は忘れた。大抵は旅人と名乗っているが(それは果たして名乗ることになるかどうかは置いておく)名前で呼びたいというやつには即席で名前を付けてもらうこともある。年齢はそもそも知らないが、ここ千年ほどは生きている気がするので長生きの種族なんだろうと思う。年は取っているはずだが体の成長は追いついていないようで、人族には頻繫に15歳前後だと間違われる。性別は、女だと以前泊まった宿の女主に教えられた。

 

 私(面倒なので一人称を定める)は自分の記憶に残っている限りこの世界をずっと旅をしている。その前は誰と何をしていたのか、どこにいたのかはわからない。わからないことで今の生活に支障があるわけではないから誰か魔術師に頼もうとも思わない。大体あいつらに頼むと三日間ほど飲まず食わず節約しないといけない、と誰かが言っていた。無駄金を払いたくはない。こちとらあまり裕福ではないのだ。今羽織っている黒のローブもずいぶんくすんだ色味になってきた。買った当時はきれいな濡れ羽色だったのに。むむむ。買い換えたいなぁ、お金欲しいなぁ。


 私情を語るのはこれくらいにして、現状を話そうと思う。今私が居るのは王国と帝国の国境だ。今現在二国の間柄は悪くないので戦争なんかが始まらないうちにとっとと出国しようと思い、一〇年ほど過ごした地を去ってきた。ちなみに言っておくと、国には具体的な名前はついていない。まあ、今は二国の時代で他の小国たちはすべてどちらかの国に従属してしまったから、王国と帝国で大方通じる。昔はちゃんとした名がついていたようだけど。

 

 王国の民の多くは肌が白か黄色だ。王族は白なので、伝統的な血統はそちらなのだろう。あながち、黄色い肌の民は従属国からの移民や元人質で間違ってはいないだろう。一方、帝国の民は混ざりもの、褐色の肌のものと獣人が主だ。王国では蔑まれる彼らは身体の強度が高く、魔力も多い種族なので、帝国の兵は王国のものより数は少ないものの張り合えるほどの強さを誇っている。あーあ、王国は損してるなぁ。

 

 今は境に設けられた身体検査所に並んでいる。二国を行き来する者はかなり多いため、検査には結構な時間がかかる。私の後ろに並んでいる若そうな男二人組は苛立ちを隠せないでいる。子供だなぁなんて思いながら眺めていると、二人のうち一人がこちらの視線に気付き、声をかけてきた。


 「貴女は旅の方ですよね。どちらへ行くのですか。」

 「ここに並んでいるのは帝国に行きたい方では?」


 男はなぜかそこで不思議そうな顔をする。もしや、彼は箱入りか。とするともう一人は護衛または同類なのか。視線を向けると鋭い視線を返してくる。どうやら前者のようだ。こちらのアイコンタクトをしり目に男は話しかけてくる。


 「貴方は何をしに帝国へ?」

 「旅に出ようかと思い立ちまして。」

 「こんな時期にですか?」

 「こんな、というのは?今は両国間で戦争などは起こらぬと聞いたのですが。」

 

 態と不愛想に答えているというのに懲りずに話しかけてくる男の話に疑問が浮かぶ。すると男は楽し気に、軽く答えた。

 

 「私たちが戦争を仕掛けに行くのです。」




 


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