伏見稲荷神社と近所の無人駅
今年になってからこの町を中心に行方不明になる人が結構出てきてニュースになっていた。
全国に広まっている。
両親はいない。
妹が動物好きなので、ネコのクロ。小型犬のシロ。ウサギのぽん子と一緒に暮らしている。
僕は妹がいた。だが2週間前から行方不明になった。
捜索願いを出しているが、他にも多数行方不明になった人がいるので難航しているという。
大体10人に1人は行方不明になった知人、もしくは身内がいる状態となった。
☆☆☆
妹は家の近くの無人駅から一つ駅を超えたところにある伏見いなり神社へ良く遊びに行っていた。
僕は今日もそこへ通う。
妹は、神社にきつねの子がいたと言い、食べられそうなものをスーパーで買って持って行っていた。
妹の姿もきつねの子の姿も見えない。
参拝客がちらほらといる。
きっと行方不明になった身内のことを祈っているんだろうか。
僕も同じだった。
妹が言っていた裏のほうにも行ってみる。
古くて小さいお皿が置いてあった。この上にサラダ用のささみを袋から取り出して乗せた。
☆☆☆
帰り道。
駅へ行く。普通であれば列車が来るまで時間があるはずだった。
ホームで待っている人もいない。
無人駅なので駅員もいない。
だが、列車が来た。
大体、ホームで待っている乗客はいるはずだった。
僕は普通に乗り込んだ。
扉が閉まる。
僕は適当に開いている座席へと座る。
ちょっと離れたところに女の子の3人組がいて、こっちを見ていた。
逆側を見るとちょっと怖い感じの顔の人が結構美人のお姉さんと一緒に座っている。
その向かいを見ると、サラリーマン風の人が子供と一緒に座っている。
「ねえ。横いいですか?」
と言う声。
横を見ていたが、前を見るとちょっと離れていたところに座っていた女の子の3人組が前にいた。
「う。うん」
とだけ言う。
「ありがと」
人懐っこい感じの3人組の子。
列車は動き出した。
「あたしクロ、そしてそっちのはシロ。その隣はぽんちゃん」
と紹介してくる。
なんだ。僕の家のペットの名前とほとんど同じだった。
今時クロとかシロとか言う女の子の名前をつけている人は知らない。
その3人組は帽子をかぶっていた。
シロちゃんが僕の手を握ってきた。
「え?」
「なんかお兄ちゃんそっくり」
とシロちゃんは言う。
「そ。そうなんだ…」
列車はしばらく走るが…
おかしい。隣の駅が僕の家の最寄りなんだけど…もうとっくに過ぎているころだった。
乗り過ごした?
違うと思う。
列車がスピードを落とし、停車する速度になり、停車した。
僕が立ち上がろうとするが…シロちゃんが言った。
「降りちゃだめ」
「あなたが降りちゃいけないところ」
「そうそう」
と3人組の女の子が言う。
「え? だって」と言いながら後ろを見て駅の名前を見る。
駅の名前は『3番目の駅』と書いてあった。
知らない駅だった。
駅に止まってから男の人1名と女の人1名。それと幼稚園児ぐらいの女の子が乗り込んできた。
家族づれだろうか。
向かいに座る。
それと帽子をかぶった女の子も乗り込んできて僕の前に立つ。
列車のドアが閉まり動き出した。
「ねえ。お願いがあるの」
と前に立っている女の子が言いだした。
「何かな」
「これ」
風呂敷に包まれた何かを僕の膝の上に置いた。
「これを12番目の駅で降りてホームで待っている人に届けてほしいの。あたしは4番目の駅で降りないといけないの。もし届けてくれないとすごく困るの」
「なんで僕?」
と聞く。
その子は「君がいいの。お願いできる?」
と言ってくる。
「うん」
と言う。
☆☆☆
僕の前に立っていた女の子は次の4番目の駅で降りていった。
また列車は走り出す。
ぽんちゃんが立ち上がり、僕の膝の上にいきなり座ってきた。
「ぎゅっとして」とだけ言う。
僕は言われたままぎゅっとしてみる。
あ。なんか…しっくりくるというか…昔からこうしていたような感じだった。
こてっ。隣に座っているクロちゃんが頭を膝の上に乗せてきた。
眠そうだったが、寝ちゃったようだった。
ぽろっと帽子が落ちる。
あれ?
帽子の下から見えた頭。
どう見てもネコミミのようなものがついている。
カチューシャとか付けミミかと思ったが、ぴくっとお耳が動いた。
「あっ。あはは」となりに座っているシロちゃんが落ちてしまった帽子を慌ててクロちゃんにかぶせる。
「きっともうばれているよ」とぽんちゃんは自分で帽子をちょっとだけ上に持ち上げる。
頭のてっぺんにはうさ耳があった。
すぐに帽子をかぶってしまうぽんちゃん。
それと隣のシロちゃんは「ばれちゃった」と言い、ふっさふさのしっぽをお尻から出して横に出す。
「え?」
列車はスピードを落として停車する。
離れたところに座っていた怖い感じの顔の人と美人のお姉さんが降りていった。
列車に男の人が乗り込んできて、前に座っていた家族づれの前に男の人が立つ。
「降りたほうがいいぞ。いつまでたっても目的の駅にはつかない」
と言う男の人。
「え?」と家族づれの男の人がホームの駅名を見て、降りるぞと言う。
「どうしたの?」
「ここどこなの?」
と言いながら降りていく。
その男の人はくるりとこっちのほうを向いて前に立った。
「お前も降りたほうがいいぞ。いつまでたっても目的の駅にはつかない」
と言う。
え? う。うん。そうなんだけど…
最初に降りちゃダメと言われて、それと届け物があるし…膝の上にぽんちゃんが座っているし…
でも降りたほうがいいのかな?
目の前に立っている男の人はそれ以上何も言わなかった。
☆☆☆
クロちゃんは僕にもたれかかって寝ている。
僕の膝の上に座っている子もうつらうつらしている。
シロちゃんはしっぽを出している。
どうなっているんだろう。謎の駅。降りちゃいけないかもしれない駅。
それと降りろという人。
次の駅について列車が停車すると前に立っていた男の人は降りていった。
変わりに男女のカップルが乗ってきた。
今度は、その後から女の子が乗ってきて、男女のカップルの前に立つ。
列車が動き出し、次の駅につく前に言う。
「降りたほうがいいわ。いつまでたっても目的の駅にはつかないと思うの。駅の名前を見て」
とだけ言う。
「え?」
「え?」
列車が減速して停車する。
駅の名前を見た男女は「降りよう」と言い降りていってしまった。
男女が降りた後、一緒に降りていく女の子。
☆☆☆
僕は降りたほうが良いのか、それとも言われたとおり届け物をしたほうがいいのか迷っていた。
ぽんちゃんは寝ているし…
駅名を見ると数字が増えている。
駅にとまるたびに男の子とか、女の人とか、おばあさんとかが乗り込んできてみんな同じことを言う。
「降りたほうがいいと思うの。いつまでたっても目的の駅にはつかないから…」
そして次の駅で降りていく。
別の家族4人組と老夫婦が乗ってきた。
その家族と老夫婦は乗ってきた人に『降りたほうがいい』と言われても降りなかった。
☆☆☆
とうとう11番目の駅に到着して、ほとんどの乗客は降りていった。
また列車のドアが閉まり走り出した。
隣で寝ていたクロちゃんは起きた。
「ミミがかゆいの。頭かいて…」
と言う。
「私も。お腹なでて…」
「私もお耳の付け根。なでて…」
やけに人懐っこい。
初対面なのに…
なでていると、列車の速度が遅くなる。
トンネルに入って暗くなる。
しばらくしてから明るくなり、減速して駅に停車した。
ホームに着物を着た女の人がいた。
「降りないと」
と僕は言い、ホームへ降りる。
着物を着た女の人がこっちへ来たので、風呂敷を渡す。
「ありがとう。お礼にこれ。お札」
僕はお札を手に持つ。
「ほら。列車。出発しちゃうわよ」
と着物を着た女の人が言う。
「うん」
僕は列車に乗り込む。
女の人は歩き出した。
あ。
女の人。お尻のところにふっさふさとしたものがちらっと見えた。
きつね色のふさふさのしっぽに見えた。
そして…次が終点だった。
僕は列車が終点に止まってからホームへ降りる。
そこには…
妹が立って、待っていた。
「あ。こんなところに…無事だった?」
僕は妹に抱きついた。
「うん。待ってたよ…お札持っている?」
妹が言う。
「お札?」
手に持っているお札を見る。
それと後ろにはクロちゃん。シロちゃん。ぽんちゃんがいる。
「みんな手をつないで改札から出ましょ」と言う。
☆☆☆
みんな改札から出る。
なんかめまいがした。
目を開けるといつのまにか、家の最寄りのホームに座っていた。
隣には妹の姿。
それと家にいるはずのペットのクロ。シロ。ぽん子。
「戻ってこれたぁ」
妹は抱きついて言う。
僕は抱きしめてよしよしとした。
僕は妹の後ろに手をまわしたとき、手にふっさふさしたものが当たることにきが付いた。
後ろを見ると、ふっさふさのしっぽがお尻から生えていた。
頭をなでなでしてみると、お耳。ふっさふさのお耳がてっぺんに生えていた。
「あれ? これ…」
もしかしてきつね? 化かされた?
と思って妹を見る。
「きつねちゃんが助けてくれたの。とりあえず家へ帰りましょ」
と妹が言う。
僕はぽん子を抱っこする。
妹はクロとシロを抱っこする。シロは小型犬だから抱っこしても問題はない。
家へ帰る途中にコンビニに寄って、妹はおいなりさんを買う。
わけがわからず、家の中へ入る。
家にいたはずのペットはいなかった。
出られるはずもないのに…
抱っこされて腕の中にいるが…
それと…行方不明になっていた妹がいる。
「よっこいしょ」と妹は言い、テーブルにおいなりさんを置いて、食べ始める。
そして言う。何が起きたのか…
駅が突然普通じゃない駅になるという。
見た目は同じ。でも停車する列車に乗っちゃダメだった。
列車に乗ると1番目の駅から13番目の駅までの駅に止まる。
13番目の駅が終点。
守られた人以外が、駅の改札から出るとあの世へ行ってしまう。
僕たちはお札を持っていたから助かったのだった。
「でね。あたしがきつねの子にささみをあげていたら、その伏見稲荷神社の人が来てお守りのお札をくれたの。あたしが例の列車に乗った後にね。お札は無くなってしまったんだけど…代わりにねきつねの女の子が乗ってきてあたしの膝の上に座ったの。そのあときつねっ子と融合しちゃって…
こんな外見になっちゃった」
ときつねのお耳としっぽを見せる。
妹は続きを話してくれる。
「あたしが帰りたいと言ったら、乗ってきた着物の女の人がお札をくれたの。
この後にあなたのお兄さんもこの列車に乗ってくるから、終点で待っていて、と言われたの。
お札を使ってみんなで改札から出ると戻ることができると…」
ふっさふさのしっぽを家の畳にびたんびたんとして言う。
妹はきつねっ子になっちゃったと。
きつねが化かしているわけではないのか?
僕は妹のわきばらをつんつんした。
「あひゃっひゃっひゃん」と言いながら僕の頭をどついた。
この感じ。どう見ても妹だった。
僕はおいなりさんに手をのばした。
ぱしっと手が払われた。
妹がすべてのおいなりさんを食べる。
「ねえ。もし僕が途中の駅で降りていたらどうなったの?」
降りたほうがいいという人がいっぱいいた。
「うん。きっとあの世へ行ってたか、悪霊に取りつかれて食い殺されてたのかもね」
と妹は言い、クロとシロ、ぽん子の頭をぽんぽんと叩いた。
いきなりクロはクロちゃんに。
シロはシロちゃんに。
ぽん子はぽんちゃんになった。
「妖術を使えるようになったの。この子たち…人間になって甘えたいって」
列車の3人組の女の子。
やっぱりこの子だちだった。
「おにいちゃん」
「おにいちゃん」
「おにいちゃん」
と言って抱きついてくる。
本物の妹も「お兄ちゃん大好き」と言って抱きついてきた。
とりあえず無事でよかった。
僕はハーレム状態でテレビのリモコンを持ち、テレビをつける。
「あ」
見たことがある人の顔が映っていた。
怖い顔の男の人。
3人家族づれ。
行方不明。
4人家族と老夫婦。
それぞれ交通事故と家の家事で亡くなったというニュースをやっていた。
怖い。
えーとお札を持たないで終点で降りたら死んでて、途中で降りていたら行方不明のまま。
妹が伏見稲荷神社へ通っていて、そこにいたきつねにごはんをあげていたから助かったのかも。
と僕は思った。
きつねのお礼。