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別れ 〜Good bye〜

 自殺という考えが浮かび実行を決意したこの日。透はいつも金銭を要求してくる連中が、今日の放課後にも金銭を要求してくる事を昼に知っていたので、面倒な事にならない様に早退する事にした。

 体調不良を理由に早退する事を担任に伝えると、すんなりと許可が下りた。

 そして透は逃げる様に校舎から抜け出した。


 校庭に出ると透は早足で自転車置き場へ向かった。

 幸いにも、学園全体でこの時間に校庭を使う授業を行なっているクラスは無く、好機の目に晒される事は無かった。

 自転車置き場に着き、奥の方に置かれた自身の自転車の所に進む。今日は何も悪戯をされていない様でホッと息をつき、チェーンを外して学園を後にした。

 透は帰り道に何件かコンビニがあるので、ゴミ箱が外に設置されているコンビニで買い物をして、会計した時に商品を入れて貰った袋の中身と、サイドバッグの中のウンコを入れかえてゴミ箱に捨てた。




 マグミット学園の生徒達の通学方法は生徒それぞれ違っていた。

 親や付き人の送迎、タクシーを使った登校といった富裕層らしい登校をする生徒もいれば、自転車や電車、徒歩で登校する生徒もいて、各家庭によって様々だ。

 透は『子供のうちから楽をするものでは無い』という父の考えに従い、自転車通学をしている。

 この学園で自転車通学をしている生徒は全体の10%前後で、あまり多くは無かった。


 自宅に着くと庭には車が無く誰もいない様子だった。

 普段ならこの時間だと母がいるはずだが、車が無いという事は夕食の買い出しにでも行っているのだろう。

 透は家の鍵を使い家に入り、家着に着替え自室に向かった。

 自室につくとベッドに飛び込み、グーっと体を伸ばしリラックスする。




 透の家族構成は父と母、そして2つ歳が上の兄と1つ下の妹がいる。

 父は大学病院で教授として勤めていて、自分の子供達も同じ道に進んで欲しいと願っていた。そしてその願いは兄と妹に伝わり、2人とも医療関係の道へ進もうと勉学に励み、結果を出していた。

 そして母は専業主婦として食事や家事をこなし夫と子供達を支えていた。


 一見暖かそうな家庭に見えるが、父は透に対しては良く思っていなかった。

 勉学に励み実際に結果を出している2人の子供達に対し、透は全く結果を残せていなかったからだ。

 透自身全く勉強していない訳では無い。むしろ友達と遊ぶ時間が無く、空いた時間は勉強しているので、平均より多くの時間を学習時間として使っていた。


 それなのに何故結果を残せていないかと言うと、彼自身が極度のあがり症であるのと、過敏性腸症候群で常に腹痛に悩まされていて、結果が求められる場において普段の実力を全く発揮できていなかったからだ。

 透自身精神面と体調の事は、結果を残せない理由にならないと父に言い返される事は予想していたので、母を除いて誰1人として伝えていなかった。


 そして、そんな結果が残せない透に父は呆れていた。

 

 透の兄妹達はというと、歳が2つ離れた兄は透の事には全く興味がない様だった。

 兄自身は国内でも有数の5大学の1つに合格し、春から大学生活がはじまっていた。

 友好的な性格もあってか、キャンパスライフが充実していて多くの学友達と交流していた。その事もあり最近は友人や彼女のアパートに寝泊りする事が多く、基本的に家に居る事は少ないので、透がいじめられだしてからはあまり話す機会は無かった。

 妹に至っては今年から同じ学園に通っている事もあり、いじめられっ子の妹という事で周りから見られてしまうので、透の事をよく思っていなく、いじめられっぱなしで何もやり返さない透の事を嫌っていた。

 

 味方という味方がいない家庭環境の中、母だけは違った。

 日頃から透の相談に乗り、アドバイスをしたりして優しく寄り添い彼を励まし続けていた。

 彼にとって母親だけは、唯一心を許せる人間だった。ただ、そんな透に対して甘い母を父はよく思っていない様だった。




 帰宅してから少し時間が経った。

 透はベッドの上で休憩しながら、自殺をするにあたり遺書を書こうと思ったが、少し考えて書かない事にした。

 普段の父や兄妹の態度を考えると、自分が死んだ所でなんとも思わないと思ったからだ。

 母だけは悲しんでくれると思ったので遺書という重苦しいものでは無く、A4サイズの白紙に今までの感謝を告げ、自身の死を悲しまないでこれからの日々を送って欲しいとの事を記述し、机の引き出しにしまった。




 それから時は過ぎ、次第に日が沈み始め、家族達が順に帰宅する。

 体調が悪く早退した為夕飯はいらないと母に告げ、透は風呂に入り一日の汚れを落とした。

 そして透は体が湯冷めしないうちに布団に入った。

 死ぬ事は怖かったが、毎日いじめられる日々を過ごすよりは一刻も早く死んでしまって、全てから解放されたいと強く思う透は、自殺をする決意を改めて固めた。

 決意が鈍らない様に今まで長い間プレイして来たソシャゲのアプリも削除した。

 現実では悲惨な人生をおくっている透だが、お小遣いを課金に回して手に入れたレアキャラのおかげで、唯一ソシャゲ内では輝けていた。

 しかし、それも明日で終わりである。


 既に明日の予定は透の頭の中で構築されていて、自殺する時間・場所・方法、全てが決まっていた。

 透は今日までの悲惨ないじめを思い出し、明日にはこれらから解放されると思うと少し気が楽になった気がした。

 そして安堵感からか段々と睡魔が襲って来て、透はゆっくりと眠りに落ちていった。




 透が睡眠に入ってから数時間後、日付が変わり運命の日が幕を開けた。

 そこから更に時間が進み明け方になり太陽が見え始める。予め設定していたスマホのアラーム機能で、透は普段より早く目を覚ました。

 家族がまだ眠りにつく中、透は学園に行く準備をする。

 準備が整い、家を出ようとした頃にはいつも母が起きてくる時間になっていた。

 静かに玄関に向かい家を出ようとした時、後ろから聞き慣れた母の声が聞こえた。


「今日は早いのね、もう学校ヘ行くの?」


 そう問いかける母に対して、透は精一杯の笑みを無理矢理作り答えた。


「今日は日直の当番でやる事が色々とあるんだ。頑張ってくるね、行って来ます」


 その言葉が母、そして最後に交わした家族との会話となった。

 透は母に別れを告げ自宅を後にして、学園へと向かった。

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