決意 〜傑〜
教室全体が沈黙に包まれる中、その状況を作り出した少女は言葉を続ける。
「巨格君、いい加減にしてくれないかしら!さっきから聞いてればウンコウンコうるさいのよ。あなたは高校2年生にもなって今の自分がやってる事が恥ずかしく無いの?周りのみんなも口には出さないけど引いてるじゃない!」
少女は自分よりも圧倒的に体格も力も上の相手に臆する事なく言い放つ。
先程まで談笑していた各々の生徒達は皆静まりかえり、少女の方に視線を向ける。
教室にいる生徒達の視線を集め、事件の渦中に居る少女は、学年問わず校内では有名な生徒だった。
少女の名は理玖詩 璃流。
芸能界で活躍してると言われても違和感の無い整った顔立ちをし、襟元で切りそろえられた髪型は俗に言うボブカットでガーリィ感が溢れている。
その可愛らしい見た目とは対照的に目つきが鋭く、人によっては怖く見えてしまうかもしれない。
また、同世代女性の平均的な体型ではあるが若干細身で、胸だけは平均以上に発達していて男生徒の視線を誘う。
彼女は身体を動かす事が好きと公言していて、様々な運動も平均以上にこなす事が出来て、極め付けには学業面も優秀で、総合テストでは学年5位前後を維持し続けている。
外見だけに目が行きがちだが、彼女は世のトイレシェア率85%を超えるメーカー、RIXILグループを経営する理玖詩財閥のご令嬢でもある。
裕福な家庭と、その人目を引く美貌でこの学園では彼女を慕う人間は多い。
自身の恵まれた環境を鼻にかけない性格も少女の人気を上げている要因の一つだ。
緊張感が走る中、璃流はズカズカと歩き透と便に近寄る。
便は普段透をいじめてても何も言ってこない璃流が、今回は声を荒げ言い寄ってきた事に驚きつつも、男としてのプライドがあるので、臆すること無く彼女に言い放つ。
「おいおい、普段は何も口を出して来ないお嬢様がどういう風の吹き回しだ?情でも沸いたか?」
その言葉に璃流は返答する。
「今まではあなたに関わりたく無い事もあって見逃してたけど、今回は流石に見過ごせないわ。あなたは自分がどれだけ幼稚な事をしているかわかる?自分の大便をクラスメイトの机の上に置く人なんて、全国的に見てもこんな事をするのはあなたくらいよ!!」
便は一瞬ウッとした顔をした。
2人の言い合いは、被害者の透を差し置いて白熱する。
透は自身がいじめられていても、今まで誰1人として助けてくれた事が無かったので、目の前で広がる光景に驚いてた。
そんな透を差し置いて2人の討論は白熱する。
「そもそもこのウンコが俺の物だって証拠はあるのか??証拠も無いのに決めつけた様に言ってくるんじゃねぇ!」
「証拠?そんな物は無いけど、こんな事をやるのは貴方しか考えられないわ。それに周りのみんなもそう思っているはずだし、言い出す勇気が無いだけで誰かしら貴方が実際にやったところを見た人がいるはずよ!」
「あぁ!?俺がそんな事やるわけ無いだろ!確かにこいつを少しばかりいじってるけど、自分のウンコを他人の机の上に置く様なイカれた事するわけないだろが!」
「あなたの普段の行動を見てると、その発言すら信憑性が無いわ!!」
自分より遥かに大きい目の前の相手に一歩も引かずに言い返す璃流。
璃流は便に背を向け、一連の話を聞いていた他のクラスメイトに向けて言う。
「ねぇ、みんなは私と巨格君の言っている事はどっちが正しいと思う?まぁ普段の彼の言動を見てれば答えは1つに絞られると思うけど」
璃流はクラスメイト達に問いかけ、透のいじめに加担してない彼らを仲間につけようとした。
その事に対してこのままではまずいと思い、便もクラスメイトに向けて何か言いかけようとした瞬間に、教室のドアがガララと音を立てて開かれた。
「おーい、お前らなにしてんだ?授業始めるぞー」
そう言いながら眼鏡をかけた小柄な中年男が入って来た。次の授業の教員である。
便と璃流はお互いにまだ何か言いたそうだったが、流石に教員を前にしてこの言い争いを続ける事は出来ない。
言い争っていた2人はまだ言い足りなさそうにしていたが、大人しく各々の席に戻った。
透は教師に知られない様に机の上のウンコをティッシュで包み、素早く机の横にかけておいたサイドバッグの中に隠して、何事も無かったかの様に授業を受ける準備を始めた。
先程あれほどの騒ぎになったにも関わらず、その場にいた全員は何事も無かったかの様に授業を受ける姿勢をとる。
普段から見て見ぬふりをしている彼らにとっては、それが日常茶飯事だった。
教員が授業を進める中、心身共に披露した透は授業を聞きつつ1つの考えが脳裏に浮かんだ。
「もう生きているのが辛いから自殺をしてしまおう……」
いじめがエスカレートして追い詰められ、校内に心休まる場所が無い透は一刻もはやくこの現状から逃避行したくなり、その考えを実行しようと決意を固めていた……