ビッグベン 〜大便〜
透は便所から出て教室へと向かう。
透が居た便所から教室までは歩いて1分くらいの距離だ。授業があと少しで始まる事もあり廊下に残ってる学生は数えるくらいだった。
透が教室に入ると何名かと目線があったが、お互いすぐに目線を逸らした。
いじめられている人間と接触しようとすると、いじめているグループに目をつけられてしまう事は、クラスの全員がわかっている事だ。
いつものように教員が来るまでクラスメイト達は談笑を続ける中、透は廊下側の反対の窓際にある自分の席に足取り重く歩いていく。
透は昼休みに入るまでは無かった机の上の物体に気づいた。
段々と机に近くに連れてその物体が鮮明に見えてくる。
「なんだよ……これ」
思わず口に出てしまっていた。
彼の机の上には、まるで黒糖のコッペパンの様に野太く硬そうなウンコが置いてあったのだ。可愛らしいピンクのリボンのラッピング付きだ。
予想もしない展開に透は茫然としていると、巨漢が1人正面から近づいてきた。
「おう、今日も昼休みのトイレでのお勤めご苦労さん。便所で食うママのメシは美味かったか??」
そうニヤけながら言い巨漢は話を続ける。
「便所とウンコが大好きなお前に、どっかの神様が極上のプレゼントをお前に授けてくれたみたいだぞ!!よかったな!」
教室全体に聞こえるぐらいの声量でその男が言うと、周りからはクスクスと笑い声が聞こえ始めた。
素直に面白いと思い笑っている者もいれば、笑わなくてはいけない雰囲気なので無理をして笑っている素振りを見せる者もいた。
この巨漢こそが透をいじめるグループのボス的存在の同級生だった。
彼の名前は巨格 便。
仲間内からはビッグベンと呼ばれ、その大柄な体格から彼に逆えず従っている人間は多かった。
そして彼は男前とは言えず童貞だった。部活も柔道部ということもあり、全然女っ気が無い。
クラスメイト達は様々な事件が彼がやった事だと分かっていても、次の標的が自分になる事を恐れているため、教員に密告したりせずに、見て見ぬ振りをする者が多かった。
そして透自身も目の前にいる巨漢が過去の様々な事件の主犯格と知っていて、殴り飛ばしてやりたい気持ちでいっぱいだったが、柔道を長年やってて体重が3桁ある相手に対して、小柄でろくに体を鍛えてない自分には到底勝ち目も無く、返り討ちに遭う事が目に見えているので、今まで何も言い返せずにいた。
「おい、黙ってないでなんか言えや!!」
机の上を見つめ黙っている透に便は怒号を浴びせる。
便は透の反応が自分が予想していたものと違い、面白く思ってないようだ。
そんな中、透は口を開く。
「凄く水分が足りてなさそうなウンコだね……」
その一言が引き金となり便はキレる。
「あぁ!?てめぇごときが俺のウンコにケチつけれると思ってんのか!?ウンコ以下の存在の癖に!!」
そう言うと便が透の襟元を掴みメンチをきり、顔面を殴ろうと右手を振りかざす。
今にも殴りかかりそうな時、女性の凛とした声が教室内に響いた。
「いい加減にしなさい!いい歳しといて、なんて低レベルな事をしているの!!!」
事件の渦中の二人はその声の方に視線を向け、他のクラスメイト達も予想外の事に驚き、みな声の発する方に目を向けた。
皆が注目する視線の先には、鋭い目つきの気の強そうに見える顔立ちをした一人の女生徒が便達を睨み付けていた。