5 聖騎士団の暴虐2
手を合わせてご馳走様の後。
「シン、これから買い出しに行くんだけど、手伝ってくれない?」
――お手伝い。
それはプロのニートにとってキラーワードである。
シンは恐る恐るリーザに問う。
「……具体的に何をすれば……?」
「まとめて買い込んでおきたいの。荷物を持つの、手伝ってもらえる?」
「リーザさん。俺を殺す気ですか!?」
「は??? どうしてそうなるのよ? 荷物くらい持てるでしょ?」
持つだけなら、なんとか持てるだろう。
だが、そこからHPが減りつづける。
シンのHPは6なので、そのまま6歩進んだら死に至る。
5歩進んで少し休み、HPが回復したらまた5歩進む……と繰り返せば出来なくもないが、家に帰るまで、幾度となく生死の境をさまよう事になるだろう。
シンはガクガクと震えている。
「あ、あの……。俺、食器を洗いますから。分担した方が効率良いと思うんだ!」
リーザは訝しげな眼差しをシンにぶつける。
こいつ、簡単な仕事へ逃げたな。
だが、シンの方から何かやろうと言ってくれたのは初めてのことだ。
まぁ、一応成長したということでとりあえず今回は納得することにした。
身支度をしてリュックを背負うと、
「じゃぁね、シン。お客さんが来たら、すぐ帰るからちょっと待ってもらっててね。戸棚の中のお菓子を出してあげて」
「えー。店を閉めたままじゃぁダメですか?」
「折角来てくれたんだから、二度足させたら可哀そうじゃない? 留守番くらいしててよ」
「えー。俺が留守番したら、失礼なことをしてしまってお客様に多大なるご迷惑をこうむり、あなた様の利益を大きく損なうことになってしまいますので、どうか留守番だけは勘弁してください」
ニートである以上、時間拘束系のミッションを受けてはダメだ。
受けたが最後。毎分1ポイントのダメージを受け、6分後にあの世行き。
「心配しなくても大丈夫だよ。村の人、みんな優しいし」
「むむむむ無理です。どんなに優しい人でも怒らせてしまいます。絶対にダメです。俺、あがり症だから、お客さんを前にすると緊張のあまり、紅茶を淹れるつもりが唐辛子のペーストを入れてしまう。絶対に自信がある!」
それは全力なる抵抗だった。
リーザは呆れ顔で溜息を吐くと、「分かったわ。食器洗いでいいよ。じゃぁね」と手をひらひらさせて店を後にした。
留守番は、6分で死ぬ。
荷物運びなら、6歩で死ぬ。
お皿洗いなら……、6枚洗える。
シンはテーブルの上を改めて見た。
コップ×2
お皿×2
これなら出来そうだ。
お皿を重ねコップをその上に置いた。
「うぐぅ」
全身に痛みが走り、思わずよろける。
足を踏ん張り、何とか食器を落とさずにすんだ。
体中から嫌な汗が噴き出て、息が荒くなる。
シンは胸を押さえ呼吸を整えると、ステータスウィンドを開く。
まさかだった。
この程度の仕事でHPが削れるなんて……
もしかして流しに運ぶだけでもHPが減ってしまうのだろうか。
シンは食器を見つめ、しばらくの間、言葉を失った。
――食器洗いですらまともにできないなんて……いったい俺はどうしたらいいんだ!?
「ちゅー?」
テーブルの上に例のふくよかなねずみがやってきた。
「あ、お兄さん。俺は悲しいんだ。誰かの助けがないと生きていけない……。俺の存在価値って……いったいなんなんだろう?」
「ちゅー」
「何? さっきのお兄さんの言葉、分かりかけた気が……」
「ちゅー」
「もう一回言って。なんか聞き取れそうなんだ」
シンは目を閉じて耳を澄ませた。
「ちゅー」
「あれれ?? 今度は全然分からなくなった」
シンは首を傾げ、腕を組んだままその場でうろうろした。
その瞬間だった。
ねずみの言葉がハッキリと理解できたのである。
「ちゅー(おい、シン)」
「え、分かるよ。お兄さんの言葉が聞き取れたよ。も、もしかして、俺がうろうろするとお兄さんの言葉が理解できるとか?? どうなっているんだ?」
シンはふとステータスウィンドを開き、スキル欄を閲覧した。
【スキル】
◆ 床ドン レベル3
床を一定のリズムでドンドン叩くことにより、保護者を呼ぶことができる。
床を一定のリズムでドンドン叩くことにより、保護者と意思の疎通ができる。
「おおお!! こ、このスキルか!? って、保護者ってお兄さんのこと?」
「ちゅー(よく分からんが、シンの兄貴分にされちまったしな。毎日愚痴聞いてやっているし)」
「すごいよ、お兄さん! 俺、お兄さんとちゃんと話したかったんだ!」
「ちゅー(その前に、人とちゃんと話せるようになった方がいいぞ)」
「……いいよ、人間は怖いし。それよかお兄さん……」
「ちゅー(なんだ?)」
「さっき何か言ってたよね? 俺の存在価値って……なんなんだろうという質問に対して」
「ちゅー(あれか)」
「教えてよ」
「ちゅー(さっき言ったのは、心配するな、どんな奴であろうが、頑張れば必ず役には立つって言った)」
シンはその言葉に救われたような気がした。
「お兄さん。こんな俺でも何かの役に立てるの?」
「ちゅー(ああ、もちろん。その辺の空気だって、生物の役に立っているしな)」
「空気って……」
「ちゅー(お前はまず、空気を目指せ)」




