6 全員知っていただと!?
お電話
『あら、無事入籍できたのねー、おめでとう』
「ありがとう、母さんがわざわざ婚姻届にサインをしてくれたからだよ」
少しだけ時間を貰ってまずは母親に電話をする。相変わらず呑気な声音の母親にほっとしつつも俺は聞いた。
「それで、玲奈ちゃんとはいつから知り合いだったの?」
『いつ?最初に来たのは3年くらい前かしら。制服姿の可愛い女の子が湊を目的に来たからお母さん驚いちゃったわ』
「マジか・・・というか、そんな見ず知らずの学生をよく信じたね」
いつか怪しい書類にサインをしそうな迂闊な母親に少しだけ呆れながらそう言うと母さんは笑って答えた。
『だって、あんまりにも必死な表情だったんだもん。それに息子の教え子だって言うし、しかも湊に純粋に好意を持ってたからお母さん嬉しかったわぁ』
「そんなあっさり・・・」
『結婚式はどうするの?』
「小さいのはやろうかと。ただ本人が気をつかってあんまりやりたがらないから少しだけ迷ってる」
『あら、そうなの。だったらウェディングドレスはお母さんのやつ使う?』
そのあまりにも予想外の言葉に俺は思わず聞いていた。
「まだウェディングドレスあるの?というか、流石にもう着れないんじゃないの?」
『大丈夫よ。結構いいのだから。少し仕立て直せばいけるわよ。サイズも多分私の若い頃と同じだから』
「まあ、本人に聞いてみるよ」
『あ、湊』
電話を切ろうとすると、不意に優しげな母さんの聞こえてきた。
『おめでとう、湊』
「・・・ありがとう」
そうして電話を切ってから俺は次に妹に電話をかける。多分春休みだし今なら出るかと思っていると、すぐに電話に出た。
『あ、お兄ちゃん?結婚おめでとー』
「やっぱり知ってたのか律子」
我が妹の寿律子は俺の言葉に笑って答えた。
『小学生時代の教え子なんでしょ?私の所にも菓子折持って挨拶に来たよー。洋介にも会ったみたい。あとクソ親父にも』
「やっぱり洋介と親父にも会ってたか・・・」
我が嫁の行動力にはいつも驚かされるが、それならせめて最初に俺を訪ねて欲しかった。そんなことを思っていると律子は少しだけ真面目なトーンで言った。
『ま、でもお兄ちゃんがあの子と結婚したなら、私も洋介も安心できるよ。お兄ちゃんったらいつも私達に気をつかってばっかりで全然自分のことを大事にしないからね。あのクソ親父のことなんて無視すればいいのにね』
「まあ、あんなんでも父親だからね」
『甘いんだよお兄ちゃんは。あんなゴミのことまで気にすることないって。ま、結婚式には旦那と一緒に行くからさ。娘も連れてね』
早いもので俺の妹と弟には既に子供もいる。早い話俺も伯父と言われる立場になっていたので、確かに結婚は視野には入れなきゃダメだったけど・・・
「二人は元気なの?」
『元気元気だよー。旦那はお兄ちゃんとまた飲みたいって言ってるからね』
「それはまた今度から。とりあえず俺は責任をとらないといけないみたいだから」
そうしてしばらく電話で話してからわかったが、やっぱり既に家族は全員何年か前から玲奈ちゃんの存在を知っており、俺と結ばれるのを見守っていたようだ。知らなかったのは俺だけらしい。どうりで最近は結婚と孫を急かすような言葉が少なかったわけだ。納得してしまうのだった。