3 すでに外堀は埋まっていただと!?
あっさり入籍
「おかしい・・・」
必要書類は全てしっかりと揃っており、記入漏れもなくあっさりと婚姻届は受理された。これで俺と玲奈ちゃんは夫婦になってしまったのだ。
「先生、じゃあ両親に挨拶に来てくれますよね?」
「え、あ、うん。そうだね」
思わず返事をしてから、そもそも結婚前に挨拶に行ってないので心象は最悪ではないかと思って冷や汗がでる。玲奈ちゃんの両親には小学校の頃、彼女の担任の頃に会って以来だから10年くらい前だろうか?しかもあの頃は彼女のいじめ問題のことで色々と家庭訪問にも行ったし、あまり良く思われてなさそうだなぁと思って思わず聞いていた。
「ご両親は元気なの?」
「はい。二人とも元気ですよ。先生に凄く会いたがってました」
「そ、そうなんだ。というか俺はご両親に事前に挨拶もしてないけど本当に大丈夫なの?」
「ええ、二人とも先生のことは気に入っていますし、何より先生の素行を全部洗って好感を抱いていました。ここ最近のことも全部知ってますよ」
なんだかさらっと凄いことを言われような・・・ストーカーとかではないのだろうが、話が飛躍し過ぎてて正直困惑してしまう。まあ、可愛い女の子に迫られるのは嫌いじゃないし、ラブコメの鈍感主人公のように鈍くもないのでここまでされたら疑いはしないが、しかしそれでも聞きたかった。
「本当に後悔はないの?もしかしたら俺が歳を取ってから変わるかもしれないよ?それこそ今より劣化する可能性の方が高いし」
「お義父様のことを言ってるのですね」
「・・・全部知ってるんだね」
俺の親父は昔こそ物凄く優しい人だったが、ある時に突然変わってしまった。一年近く働かずに家におり、気に入らなければ子供に暴力をふるう。そんな最悪に変わってしまった。弟や妹を守るために俺が盾になったが、それでも母さんを泣かすような最低な親父だと思った。今は一応働いているが、家族とは冷戦状態。
俺を含めた子供が独立してから母さんも離婚をする素振りもあったが、あまり関わりたくないのか別居状態になっている。だからこそそんな親父の血を引く俺が結婚してもいいものか心のどこかで悩んでしまっている。
親父が変わったのはきっと仕事が原因なのだろうと思う時はある。この歳まで結婚をしなかったのも、モテないという理由だけではなく、そんな最悪な結果を生むくらいなら一人がいいからだ。まあ、弟と妹は既に結婚しており家庭を持っているのでかなり肩身は狭いが。
「俺が仕事のストレスを家族に向けるような最低の男になるかもしれない。もしくは家族に暴力をふるうような最低な親になるかもしれない。本当に後悔はないの?」
「ええ。だって先生は先生ですから」
きょとんとすると、玲奈ちゃんは笑って言った。
「だって、先生にはお義父様だけじゃなくて、お義母様の血も流れてるじゃないですか。会ったときにわかりました。先生はお義母様の血を濃く受け継いでいると。それに例えそうなっても先生は絶対に誰かを傷つけたりしないって信じてますから」
「玲奈ちゃん・・・」
まさか教え子に諭されるとはわからないものだ。信用か・・・どこまで行けるかわからないけど、俺なんかを信じてくれるならそれに答えないといけないよな。僅かにそんな気持ちが生まれつつあった。あと、さらっと言ったけど母さんに既に会ってるんだ。これは後で確認を取らないといけないと思うのだった。